第14話 教えるの上手いんだ
静かな部屋でカリカリとペンを走らせる音と「うーん」という唸り声が聞こえる。
唸り声の主は日向。さっきから一向にペンは進まないみたいだ。
時間になり採点を行う。問題は私と龍と四季の3人で過去問から抜粋した。すぐにテストを行う予定だったが、日向がパッと問題を見ただけでギブアップしたため少し勉強してから解くことになった。
夢たちのグループとの勉強会は話し合った末断ることにした。
勉強が心配な日向と紅羽には龍、四季が教え、私は未修範囲を終わらせてから教えるのを手伝う。
自分達のグループ内でなんとかなりそうが故の判断だった。その代わり、有益そうな情報があれば共有しようと提案した。
夢たちは残念そうだったが、納得してくれた。「お互い頑張ろう」と励まし合ってそれぞれの課題に取り組んだ。
その時に知ったのだが、夢たちのグループは特段勉強が出来ない人はいないが、ものすごくできる人も居ないらしい。当然ながら、全員が高校範囲を終えられていないため、勉強会をしたら結局は共倒れだったかもしれない。
この判断はきっと正しかっただろう。
「あーまだわかんないとこたくさんある……、けど前よりは成長している気がする!」
日向は前向きだ。勉強を嫌がっていたが、やらなきゃいけないと思ったら逃げずにやる。そういうところは素直に尊敬する。
「日向さんすごいですね、教えてもらったところはきちんと出来ていて。……比べて私はあまり成長できていないようです……。ケアレスミスもありますし、評論や文学は二択までは絞れるんですけど……時間も全然足りませんし」
紅羽が肩を落とす。
傍から見たら日向の方が点数が高そうだが紅羽の方が遥かに正答率が高い。
「四季さんもせっかく教えて頂いたのにすみません」
「大丈夫だよ、確実に前よりできるようになっているし、紅羽ちゃんは頑張っているよ」
そう言って四季が励ます。
「緑香は全範囲出来そうか?」
龍が日向と紅羽の解答用紙を見ながら言った。
「スマホで調べることができたとしてもちょっと怪しいところがあるかな。……あと、実際解いてて思ったんだけど、調べられたとしても制限時間内に終わらないからやっぱり理解は必要だと思う」
いくら調べられるからと言っても覚えている方が回答のスピードは早い。
時間が決まっているんだから一問一問調べていたら全ての問題を解くことは不可能だろう。
「俺が教えようか?」
龍が言った。
「二人も教えるの大変じゃない?」
「俺に不可能なことはない」
龍が胸を張る。……本当に大丈夫か?
「教えてもらいなよ。龍、教えるのすっごく上手いよ」
どうしようか迷っていたら日向が言った。
「それじゃあ、お願いするね」
ということで日向と龍の勉強会に私も加わる。
日向の言ったように龍は教えるのがものすごく上手い。要点をついた説明でこちらがわかるように言い換えて教えてくれる。
「龍は僕のわからないをわかってくれるんだ」
始まる前に日向が言っていたことがよく分かった。
つまずいたところの解説をしてくれるからスムーズに進むし何よりストレスがない。日向が意欲的なのはそのおかげもあるだろう。
あの自信には根拠があったんだと思わず感心してしまった。
勉強会を開いてから半月が経過。わからないところは教えてもらいながら、なんとか基礎問題程度なら全て解けるようになった。
残りおよそ半月。
日向も紅羽もだいぶ成長したが、まだまだ道のりは遠いらしい。二人とも少し焦っているようにも見える。
「あー、まだまだやるとこ沢山あるー!」
休憩中日向が窓にもたれかかって叫んだ。
「私もまた間違えてしまいました。……こんなんで本番大丈夫でしょうか。……もう半分切ったのに」
紅羽が間違えた問題を見直しながら呟いた。
最近は自分の方の勉強に集中していて二人が今どのくらいできているのか見れていない。
反応から見るに思い通りにいっていないらしい。表彰されることがモチベーションになるのなら構わないが、捉われてストレスになるようなら無理しないほうが良いのではないかと最近は思う。
二人がやる気を出しているので言いにくいが……そろそろ提案した方がいいだろうか。
「じゃあ続きやろっか」
日向がそう言って席に戻ろうとした時、部屋の扉が開く音がした。
「お前らここ使ってるのか。俺たちが今から使うから出てってくれ」
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