第8話 スマホ使用OKの試験
「試験時の電子機器の使用は認められている」
教師の反応は私たちの期待通りのものだった。パソコンを閉じて氷室先生はこちらを向いた。
日向は歓喜の声をあげ、紅羽は安堵したようだった。
「どんな内容が出るか教えてもらえますか?」
期待を込めて日向が聞く。
「具体的な内容については当然教えることはできない」
「やっぱりダメかー」と日向は肩を落とす。
「あ、あの、面接があるって本当ですか。それも試験に含まれるのでしょうか?」
紅羽が聞く。
「……あぁ、聞いたのか」
氷室先生は意外だと言いたそうな顔をした。
「そうだな、それも採点に反映される。だが、そんなに難しいことはない。面接というよりは簡単な質問に答えてもらうだけだ」
「それはグループ全員で受けるのか?」
龍が口を挟んだ。
「それは当日、指示に従うように」
氷室先生は素っ気なく答える。
「私も質問いいですか?」
「なんだ」と教師はこちらを見る。
「合格の点数とか採点方法とか教えてもらえるんですか」
「合格点や詳細は全グループの回答を集計して決める。現段階では答えることができない」
ちょっとでも情報を引き出したかったが、何も成果は得られない。
「後出しで合格点を決めるってずるくないですか?」
日向が不満そうな顔をした。
全体の状況を見て合格者を決めるってことは“全員合格”はありえないのか? ふとそんな考えが頭をよぎった。
「こちらとしては公平に行うが、どう捉えるもお前たちの自由だ。他に聞きたいことはあるか?」
私たちがお互いに顔を見合わせていると「無いようだな。では頑張るように」と言って先生はまたパソコンを開いた。
いつもの階段に戻って話を始める。
「でも、スマホがオッケーならなんとかなりそうだね」
日向が安心したように言う。
「知識問題とか、暗記系の問題はなんとかなったとしても、数学とか計算問題はある程度自力でなんとかしないと」
全く勉強しなくてもいいと思っていそうだからあらかじめ釘を刺しておく。
「評論文とかは調べようが無いですもんね……」
紅羽が力なく言う。詳しい内容は聞き出せなかったからあとはひたすら頑張るしかない。仮に合格できなくても反省を活かして次に繋げるだけだ。
「と言うわけで、今更だけど、みんなってどのくらい勉強できるの?」
聞きにくいのか、言いたくないのか、今まで誰も言い出さなかった問題を取り上げた。
スッと目を逸らしたのは日向。まあ今までの反応から予想通り。そして紅羽も目に涙を浮かべる。一方で四季と龍は余裕がありそうだった。と言うより、勉強すると言う言葉にどこか他人事のような反応をしている。この二人、実は勉強できるのか……?
「僕はそこそこかな。暗記系は全くだけど、調べていいならなんとかなりそう」
「俺も問題ない」
「え、本当! 高校卒業レベルだよ?」
まだ授業を一切受けていないのに大丈夫と言い切れるなんて。
「スッゲー。二人とも頭いいんだ。僕にも教えて」
「わ、私にもお願いします。緑香さんもお願いします」
そう言って紅羽は慌ただしく頭を下げる。
「私は流石に高校の範囲全部は終えられていないよ。多分半分くらいしかできない気がする」
中学の時に学校の方針で高校の範囲を少し進めていた。他の二人も同じような感じだと思うけど全部終わらせているのはすごいな。
「学校側も授業を行わず、生徒の自主性に任せているようだから難しい問題は出ないと予測できる。仮に大学入試レベルの問題が出たとしたら一度に合格するのは困難だ。そんな意図の読めない試験を行うことはないだろう。だから基本的なところさえ押さえてしまえば合格できるはずだ」
龍が言った。続けて補うように四季が同意する。
「明確な合格のラインも決めず、口頭質問も採点に含まれるから、学校側もきっとただの知識だけじゃない何かを狙っているんだよ。だから––––」
少しためて四季はニコッと笑う。子犬のような純粋な笑顔。
「僕たちなりに頑張ればきっと大丈夫だよ」
「そうだね、うん、大丈夫だよ」
私も彼らに同意した。入学時点で学力に差があるのは学校側もわかっているはずだ。だから単純な学力ではない何かを基準に採点するのだろう。四季の言う通り、自分達にできることをやるだけだ。
「で、今後の方針なんだけど、私や日向、紅羽が勉強するは当然として、どうする? 他のグループと協力する?」
私はこれからの方針の意見を求めた。
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