第4話 投票結果
投票が終わった後なんとなくみんなで集まり雑談する。特に集まってくれって言われたわけじゃないのにグループで集まろうとするの何でだろうね。自由奔放そうなこの人たちもちゃんと集まってきた。目立たないように教室の端の方に誘導する。
「ねえ、見た? 僕たちの順位結構上だったね」
日向が声を弾ませる。なんと私たちの順位は40グループ中10位と言う驚きの結果だった。ぎりぎり上位4分の1に入ってしまっている。
「誰が入れてくれたんだろうね」
四季が不思議そうに首を傾げた。
そう、私たちは『残り者たちのグループ』。仲の良い友達が他にいる訳でもない。一票も入らなくてもおかしくないのに何故上位にいるのか。その理由は簡単だ。今回の投票は権力の高さと認知度の高い者が投票される。投票は一人二票。目をつけられないように一票はカーストが高そうなグループに、そして残ったもう一票はどうするか。30分という限られた時間に見合わない情報の中で目に付くのは遅刻してきた二人だろう。そしてこの二人は癒し系男子、女子生徒の票を集めるのは簡単だろう。龍もナルシストっぽいが顔はイケメンだ。
「で、でも大丈夫なんでしょうか。あんまり目立つのは……」
紅羽が心配そうに目を向ける先では争う声が聞こえる。どうやらこの結果に納得がいかない者がいるらしい。投票数が合わないと周りにいる人に詰め寄って「私に投票するって言ったよね」とブチギレている。匿名投票なので犯人は見つかることはないだろう。他にも口には出さないが物凄く不満そうにしている者も何人かいる。……そしてこっちを睨んでいる。目がめっちゃ怖い。紅羽が「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。
「紅羽、あんまり見ない方がいよ。面倒なことになるから」
「これでランク上げてくれたら良かったのになー」
日向はもう黙っててほしい。ほら、周りからの視線が痛い。
「俺が上位に来ることは当然だろう。正当に行えば一位を取っていた」
龍が胸を張る。堂々としすぎて反応に困る。ボケているのか本心なのか、おそらく後者だろうけど。
「''正当に''ってことは龍も気がついていたんだ」
分かっていない顔をしている紅羽に投票の際に行われていたであろうやり取りを説明する。
「確かにスマホの操作は禁止されていませんでしたね」
「ここで上位を取ればそれだけ目をつけられると言うことだ。何の後ろ盾もない俺たちにとっては多少面倒なことになるかもな」
龍がいつになく真剣な表情になる。意外と周りをよく見ているんだなと感心する。
「まぁ、俺がいたらいずれにしろ目立つのだから変わらないな。この魅力は隠せるものじゃない」
……さっきの感心を返して欲しい。
「そう、今回の投票は下位の方が良かった。理由は今龍が話した通り、力がないのに目立つと碌なことがない。ランク上昇に関係ないなら尚更ね。警戒されることは良いことじゃない。むしろ侮られていた方が動きやすい」
「まあ、結果は出ちゃったんだし今更後悔しても仕方ないんじゃないかな。そんなに心配しなくても大丈夫だよー」
四季がニコニコしながら宥める。
「まぁ、それもそうだね。目立つならそれなりの動きをすればいいし」
確かに四季の言う通りだ。起きたことにあれこれ言っても仕方がない。うまいこと利用して立ち回るしかない。
「とりあえず他の人にも話しかけてみない? みんなと仲良くなりたいし」
確かに情報は欲しい……が日向に行かせるのは不安すぎる。それに目立つからな……。
「私たちが行くから男子はここで大人しくしてて」
行きたくてうずうずしている日向に念を押す。二人にも日向を見ててねと伝えておく。
そしてスパイの様に紅羽とさりげなくグループに近づき会話が聞こえる位置で様子を伺う。まずは穏やかそうなグループ。ここは投票の結果をあまり気にしていないみたい。普通におしゃべりを楽しんでいる。今は近場のお洒落なカフェの話で盛り上がっている。穏やかな人たちが集まったグループは平和でいいな。しかしそのせいか余計に隣のグループのピリピリした空気が目立つ。
「何でうちらのとこより順位が上な訳? お互い「入れてくれる人いないから入れよう」ってそっちから言ってきたんだよね⁉︎」
「私たちも全員そっちに入れたじゃん。誰か他の人が入れてくれたんじゃない。約束破った訳じゃないのに何で怒ってんの?」
「はぁ⁉︎ ふざけんなよ。他のグループにも声かけてたんだろ! 最下位になりたくないからってそこまでする⁉︎」
「自分達の人気がないことを人のせいにしないでくれる? そもそもランクに影響がある訳じゃないのに何マジになってんの?」
今にも掴みかかろうとする勢いだ。怖い怖い。さっさと退散しよう。
他にも表面上は穏やかそうだが静かに冷戦を繰り広げているところもある。順位がつくとなると人は上でありたいと思うものなのかね。実力とは関係ないだろうし、そこまで気にするかな。そして前の方の真ん中ら辺に大きな集団ができていた。多分あそこが一位のグループが居る場所だろう。中心にいる五人組が一位のメンバーか。その周りに取り巻きがいて「やっぱり一番は三条さんですよね」と機嫌を取っている。三条ってやっぱりあの三条グループだよね。この学校の経営者の音ノ葉財閥に次いで影響力のあるグループ。急激に事業を拡大して様々な分野に関わっているらしい。正直あまり関わりたくないな……。
「なんか、あの人怖そうですね」
周りにもてはやされても一切表情を変えない三条を見て紅羽は怯えていた。あのグループのメンバーは大変だろうな。うちは平和で良かった。少なくとも険悪な雰囲気に悩まされることはないだろう。ヒソヒソ話していると隣の女子が話に加わってきた。
「でも実際三条さんのグループが卒業の有力候補なのは間違いないわ。彼の実力も相当でしょうし」
「グループで評価されるなら彼だけ優秀でも意味無いんじない?」
いくら彼がすごくても周りがダメならランクを上げるのは厳しいだろう。
「彼が選んだのだからメンバーも優秀なんでしょう。私も声をかけられたかったわ」
そう言って彼女は肩を落とした。
影響力のあるグループの優秀な後継者が選んだメンバーね……。選ばれたらプレッシャー凄そうだけど。
「それに、自分は社長令息だからと言ってメンバーに高圧的な態度をとる人もいるみたいだからね……。無愛想でもそんな所より全然いいわ」
うわぁ、そんな奴もいるんだ。かわいそうに。自分の実力じゃ無いのに親の力を自慢して恥ずかしく無いのかな。
「とにかく下手なのに目をつけられないことね」
そう言うと女子生徒はどこかへ行ってしまった。あ、名前聞けなかった……。もう彼女の姿は見えない。
……私たちもそろそろ戻ろっか。
さっきの場所に戻ると何故か誰も居なかった。じっとしててって言ったのに……。怒り半分、もう半分はやっぱり無理だったかという諦め。マイペースな彼らがじっとしているのは不可能だったようだ。
紅羽も予想していたのだろう、探しに行きますか? と提案した。ちょうどその時三人が戻ってくるのが見えた。
「どこ行ってたの?」
「戻ってくるの遅かったから探しに行こうかなって思って」
日向が「ごめん」と謝った。
「待っててって言ったのに。……何か問題起こさなかった?」
「大丈夫だよ。ちょっと話してただけ」
四季が見ててくれたなら大丈夫……か。
皆集まったところで私たちが見てきた情報を伝えた。関わらない方が良さそうな人たちを伝えていると全員のスマホが鳴った。どうやら学校からメールが届いたようだ。確認すると次の試験についての連絡だった。あんなに騒がしかった教室が静まりかえり画面の文字に注目する。メールは2件あった。
『学力試験のお知らせ
5月1日から毎週金曜日に学力試験を実施。詳細は明日、担当講師より説明をする。 以上』
『実技試験のお知らせ
学力試験を合格した者から実技試験を行う。詳細は学力試験同様、担当講師より説明する。 以上』
内容はたったそれだけ。ただ、おそらくランクに関わってくるのだろうと言う予想はついた。争いの声も消え、話題は試験内容の考察に変わった。
その日はなかなか眠れず永い夜を過ごした。
次の日、早速教師から次の試験の説明があった。
「先日連絡した通り学力試験を行う。内容はこちらで用意した高校卒業レベルに相当する問題だ。第一回は来月の頭、つまり5月一日。合格すればそこで終了、不合格なら毎週金曜日に行われる再試験を合格基準に達するまで受けてもらうことになる。もちろんその間実技試験等は受けることができない。」
教師は表情を一切変えず淡々と説明を行う。
「そして、当然だがグループ全員が合格するまで次の試験は受けることができない。……以上だが何か質問はあるか」
そう言って私たちを見渡す。冷たい視線と威圧感で生徒たちは思わず息を呑んだ。沈黙が続いた後、教師が口を開いた。
「……、何も無いようなので次の説明に--」
その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「本当に質問しなくて大丈夫ですかぁ?」
みんなが一斉に声の主を見る。ショートカットの女性が笑顔で教室に入って来た。最初に説明してくれた教師とは真逆の雰囲気の人。隣に並ぶとより温度差が目立つ。夏と冬が一緒に存在しているような。頭の処理が追いつかない。
固まる生徒など見えていないかのように新しく来た女性は続けた。
「得たい情報は自分から引き出さないと!」
「……質問をしないと決めたのは生徒自身だ。私たちが介入することでは無いだろう」
「もー、氷室先生は厳しすぎですよ! 生徒達も怖がっているじゃないですか。そんなんじゃ聞きたいことも聞けないですよ」
そして生徒達を見渡す。
「いいですか、皆さん。これからランクを上げていきたいのであれば『情報』はとても大切です。“自分はこう思った”、“普通はこう”という思い込みを持っているようではハイランクにはなれません。そして『自分にとって有利な情報を引き出すこと』卒業するにはこの『技術』も身に着ける必要があります。……と言うことで何か聞きたいことある人―」
ニコッと笑って先生が言った。
すると戸惑いながらもスッと手がいくつか上がる。ここで素直に手を挙げられる人はやっぱり尊敬する。先生の言うことはもっともだと思うが、誰か聞いてくれないかなという思いもやっぱりある。いきなり大勢の前で話すのには少し抵抗がある。
「私たちまだ学校に入学したばかりなのに高校卒業の学力試験を受けるんですか? 流石に一ヶ月で授業を終わらせるの難しいと思うのですが?」
皆が頷く。さっき手を上げていた人も大体同じ内容だろう。本来3年かける高校の授業を一ヶ月で終わらせることなんて不可能だろう。
「内容はさっき伝えた通りだ。そして何か誤解をしている様だが、この一ヶ月間授業は行わない。各自で自習をする様に。やり方はそれぞれに任せる。わからない所の質問は受け付けるので聞きたいことがあれば教師に質問するように。他に何かあるか?」
「そんなの無理だよ」と騒めく生徒達の声を聞いても先生は表情を変えない。
「無いなら次の説明を行う」
すると生徒が手を挙げた。
「せんせー、それは流石に無理だと思います」
先生はその生徒を一瞥し、ため息をついた。
「無理だ、不可能だと言っている暇があるなら少しは頭を使って考えてみたらどうだ。喚いていても何も変わらないぞ。できるかできないか考えるのではなく、どうやったらできるかをそれぞれの頭で考えるんだ」
不満そうな皆の反応を見て先生はニヤッと笑った。
「無理なら永遠にランクは上がらない、それだけだ」
その言葉に誰も何も言い返せなかった。
「他に聞きたいことはあるか?」
もう誰も手を上げない。不満を言っても何も変わらない、これは決定事項であとは自分達でどうにかするしかない、誰もがそう思っていた。その時、突然誰かが手を挙げた。
「試験についての質問は後で聞くことはできないのですか?」
質問者は四季だった。場の雰囲気に似合わず相変わらずニコニコしている。何を言っているんだと皆がポカンとする中、先生は答えた。
「そうだな、当初の予定では“無し”だったのだが……。お前はどうしたい?」
「試験に関しても個別に質問できるようにしてほしいです」
「……、そうか分かった。では試験に関しての質問も受け付けよう。他に何かあるか?」
そして学力試験の説明が終わり、実技試験の説明に移った。ただ、多くの生徒は学力試験のことが気がかりで上の空だった。
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