第3話 最初の試験

「では、これから試験を始める」

誰も予想だにしなかった言葉にみんなの目の色が変わる。心配、期待、不安、自信。瞳は感情を物語る。全ての視線が先生の次の言葉を待った。

 

先生は満足そうにニヤリと笑う。

「が、今回の試験は成績、ランクに一切関係ない。言わばお試しのようなものだ」

……、どう言うことだ? 張り詰めた空気から一転みんなの頭にハテナマークが浮かぶ。

 

『ランク』 この学校は学年ではなくランクによって卒業が決まる。入学時点では15。そこから試験の結果や教師の評価によってランクが上がっていく。ちなみにランクが1になったら卒業が認められる。以前は1から10までしか無かったが変わったらしい。上の人の気分次第でころっと変わるから昨年までの情報もあまり当てにできない。生徒は文句も言えず従うのみ。ほんとに不満があるなら自主退学するしかない。退学はいつでできるシステムとなっている。

「試験も難しいものではない。ただの投票だ。それぞれが自分のグループ以外に投票を行う。それを集計して発表する。ただそれだけだ。そして最初に言った通りこの結果はランク変動に一切関係ない」

教室がざわめく。『試験』という言葉と、『結果は一切関係ない』と言う言葉。教師が言うのだからそれは事実なのだろうが、では一体なんのために行うのか。

「静かに。では今から投票用のタブレットを配る。会話は禁止だ。した場合はその票は無効となるので注意するように」

教室が静まりかえりそれぞれにタブレットが配られる。一人一台、ここには二百人、一体いくらになるのだろうか。この学校にとっては痛くも痒くもないのだろう。

「全員もらったな。では今から投票を行う。グループの情報も見ることができるので各自確認するように。補足だがこの投票は匿名で行われる。誰が誰に投票したかは公表されない。では始める。30分以内に終わらせるように」

先生が言い終わると同時にそれぞれの視線がタブレットに向く。まだ皆のことはよく知らないから情報を確認する。グループの番号と名前、性別そして顔写真。

……、これだけ? 顔と名前程度しか情報がないなんてこんなのただの人気投票じゃん。結果はランクに一切関係ないらしいし、投票時間も短い。30分で200人の情報を見るなんて不可能だ。顔と名前は後々覚えれえばいいし。とりあえず適当に投票する。他の人は……。軽く周りの様子を伺う。じっくり画面を眺めている者、飽きて指いじりをしている者、スマホをいじっている者など様々だ。先生の方を見ると目があった。何やら満足げに笑っているように見えた。この投票の意図は一体何なのだろうか。


「それでは結果を発表する」

そう言うと前のスクリーンに票数と順位が映し出された。

「ここでは上位の五グループしか発表されていないがタブレットでは全グループの票数、順位が確認できる」

タブレットには1位から20位までの順位と票数が写されていた。

「では今日はこれで終わりだ。各自好きなように過ごすように」

そう言うと先生は教室から出て行った。それを合図に教室がざわつく。1位のグループがおよそ3分の1程度の票を集めていた。そこに2位、3位と続く。ほぼ初対面なのにそんなに票が偏るだろうか。1位のグループの情報をもう一度確認する。メンバーの名前を見て気がついた。殆どが大手企業や官僚の子。おそらく便宜が働いたのだろう。となるとこの結果は現段階での影響力の大きさを示していることになる。

……うわー、趣味わるっ。

なんとなく作られるカーストが順位によって明白になった。

ランクに影響しない試験。会話は禁止なのにスマホの操作は咎められない。名前と写真だけの情報。もしかしたらLINEで連絡を取り合っていたのかも知れない。ランクに影響しないとわかっていても投票となると1位になりたいと思うものなのか。

何というか、甘くはないと思っていたが想像以上に面倒な学校に入学してしまったみたいだ。

 

こんこんこん。

ノックの音が静かな部屋にこだまする。

「どうぞ」と返答すると「失礼致します」と声がして扉が静かに開いた。

「試験終わったみたいですね」

茶髪ロングの穏やかそうな女性が微笑みながら話しかける。見た目の印象も声のトーンも人の警戒心を無くしてしまいそうだ。

「どんな感じでしたか」

「……そうだな。何人かは面白そうな奴がいたな」

今回の試験、ランクに影響が無いからと油断している者もいたがここが始めの分かれ道となる。よく観察したら性格やグループの立ち位置、影響力が見てとれる。ここで良い順位をとることが必ずしも良いとは限らないだろう。この学校は権力者の子も通っているためそれを盾に横暴に振る舞う者もいる。まぁ、使える者は全て使って構わない。ただ、自分の力を育てない限りいつか喰われることになるだろう。与えられたものからどれだけ情報を得られるか、それを使いこなせるのか。生徒たちの行動が楽しみだ。今年の入学生から何人の卒業生が出るだろうか。今日会った生徒たちの顔を思い出す。おそらく大半は退学するだろう。この学校は他とは異なり、ただ通うだけでは卒業できない。自身の能力を見極め使いこなすこと、そして成長し続けること。もし卒業できる生徒がいたら……。きっと私たちの予想を超える面白いことをしてくれるのだろう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る