第2話 自己紹介

私たちが通う学校は『音ノ葉学園』。高校生から大学生くらいの生徒が通い、この国の一番の権力者と言える音ノ葉財閥が経営している教育施設だ。国からの介入が一切ない完全に独立した学校。しかしこの学校に入学したいと願うものは後を絶たない。何故ならこの学校を卒業できたことがステータスとなり将来の地位が約束される。試験の難易度は高く、卒業することができずに退学する者も多い。しかし卒業できなくともこのこの学校に通えたこと自体が評価されるので卒業できなくとも入学できたことに満足し、学校生活を謳歌する者もいる。外部からの評価は様々であるが、私から見たら何というか趣味の悪い学校だ。まず自分達でグループを組むこと。それによって入学当初からカーストができる。既に生徒間で順位付けがされているのだろう。また同じグループで卒業まで過ごすことも最悪だ。相性がよければいいが、悪かったら地獄を見ることになる。大体出会って数時間で一体何がわかると言うのだろうか。初対面の第一印象で将来を託す相手を見つけるなんて……。まぁ、このグループ程不安が残るところはないと思うが。

「……あの、自己紹介しませんか?」

無言の空気に耐えかねたのか眼鏡女子が口を開いた。

初対面同士が最初にやることと言ったらそれしか無いだろう。彼女が言わなかたら私が提案していた。メンバーがどんな人なのかある程度知っておきたい。みんなも同意し、言い出した眼鏡女子から自己紹介を始めた。

「私は篷紅羽(とまくれは)です。……趣味は……えっと、読書です。あとは……。……よろしくお願いします」

自己紹介の一番最初って難しいよね。言い出した人が最初になることが多いから他の人に任せがちだし。正直できる人がやってとか思っちゃうけど。ただ、この子がめちゃめちゃいい子っていうことはわかった。

さて次は誰が行くか。間を置くと気まずくなるから私がいこう。篷さんが名前と趣味だけにしてくれたおかげでハードルも低い。

「じゃあ、次は私が。深山緑香(ふかやまりょっか)です。趣味は寝ることです。あと読書も好きです。漫画とかよく読みます。よろしくお願いします」

言い終わってペコリと頭を下げる。自己紹介はやっぱり難しい。内容も前の人に完全に被らないように気を配る。まあ、誰も気にしていないのかもしれないが。無難に目立たないようにするか笑いを取りに行くかのどちらかなら当然無難に行く。目立って失敗したら悲惨だ。仲の良い友達がいたらフォローしあえるが味方がいない状況で戦うのは愚策である。……何より空気が悪くなったらその後気まずいし。何なら記憶に残らなくても構わない。ここは無難にいくが正解。さて次は誰がいくのかな。

「じゃあ、次は僕ね。飛羽日向(とわひなた)です。動物が大好きで今日ももふもふしてから来ました。かわいい動物の写真とか動画とかあったら見せて下さい。よろしく☆」

この人、見た目どうりの中身だな。陽キャっぽいから最初に自己紹介してよって思っていたけど最初にしなくてよかった。この後は地獄すぎる。よろしく☆って言ったら君のターンは終わりでしょ。なのにスマホを出して犬や猫の写真を見せてくる。まあ、可愛いから許すけど。

「かわいいでしょ。そしてこれが今日会った子たち」

そう言って見せてくれた写真には穏やか男子も写っていた。

「お二人はお知り合いですか?」

「いや、そこで偶然あったんだよ」

「そうそう。歩いていたら同じ制服の人が野良猫と戯れてたから声をかけたの」

「で一緒にもふもふしてたんだよね」

いや、なんで一緒になって癒されてるのさ。遅刻しないように連れてきなよ。

「可愛いかったから、ついね」

穏やか男子はニコニコしながらごめんねっと謝る。

「まあ、ぎりぎり間に合ったしよかったよ」

いや完全に遅刻です。本気で間に合ったと思っていそうなところが怖い。

「そう言えば、名前聞いてなかったね」

ふと思い出したかのように飛羽君が穏やか男子に言った。

そうだよ、今自己紹介の時間じゃん。忘れかけてたよ。

「ああ、僕は青空四季(あおぞらしき)だよ。よろしくね」

この人たちめちゃめちゃマイペースだな。

「そして君は?」

唐突なパス。そして雑だな。ナルシストくんがちょっと可哀想になった。

「俺は白馬龍(はくばりゅう)。俺は俺がやりたいことをやるからそれが趣味だ」

ドヤ顔で何言ってんだこの人。

「俺に興味があるなら何でも聞くといい」

く、空気が……。篷さんが完全に怯えてるよ。なのに堂々としていてある意味大物かも。

女子がドン引きしている中で男子は盛り上がっていた。

「白馬くんってゴールデンレトリバーみたいだね」

「君、よくわかっているじゃないか。確かに俺には存在感、魅力があるからな。この品格は隠せるものではない」

「髪の色とか、似てるよね」

「この色は一番俺に似合っているからな。まあどんな色でも俺の溢れる魅力は隠すことができないがな」

マイペースとナルシストって渡り合えるんだな。話は全く噛み合っていないようだが。放っておこう。

「……あの、深山さん」

隣で篷さんが小声で話す。

「……このグループ大丈夫でしょうか」

うーん、大丈夫ではなさそうだけどそんな心配そうな顔されたら大丈夫だよとしか言えない。

「それより、緑香でいよ」

「あ、……緑香さん。私も紅羽って呼んでください」

「了解、紅羽。私も呼び捨てでいいのに」

紅羽は顔を赤くして俯いた。いきなり呼び捨てはハードルが高かったか。

「まあ呼びやすいやつで大丈夫だから」

「なになに。呼び方決めてるの? 僕も混ぜて!」

突然飛羽君が間に入ってきた。いつから聞いてたんだ。というかこの人、人の話ちゃんと聞いてるんだ。

「僕のことは日向って呼んで。あ、ひーくんもいいな。とわっちもよさそう。みんなはどれがいい?」

こいつに仕切らせたらまずい。どんどんカオスになっていく。

「まだ会ったばっかだし、呼び捨てかさん付けでいいんじゃないかな」

「うーん、迷うけど、とわっちかな。りょっちゃんはどう思う?」

りょっちゃん⁉︎ てかほんと人の話聞かないな。さっきまで相手していた白馬くんは何をしてるんだ。マイペースの相手ができるのはナルシストしかいない。チラリと彼の方を見ると何やら真剣に悩んでいる様子。

「白馬か龍か。どちらも俺の美しさを表現している。選ぶことはできないな。やはり俺は白馬龍だ。そう呼んでくれ」

ほんと何言ってるのこの人。

「えー、はーさんははーさんがいいな」

飛羽君が頬を膨らませて文句を言う。

「僕のことは好きなように呼んで」

青空君はニコニコしているだけで二人を止めてくれる様子はない。目で訴えると二人とも面白いよねと笑った。

いや止めてほしんだけど。

「……りょっちゃん、……とわっち、はくばりゅう……」

ふらふらしていた紅羽が混乱で突然バタンと倒れる。

「あだ名禁止! 呼び方は名前ね‼︎」

私の声が部屋に響いた。

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