学校物語

あおい

第1話 グループ作り


「それでは皆さんグループを組んでください」


広い部屋でわらわらとみんなが散っていく。

一緒にいて居心地の良さそうな人、利益がありそうな人、それぞれの思惑でグループに別れる。どの人も余らないように必死だ。

メンバーは五人。この中に入れないとこれからの学校生活、悲惨なことになるだろう。

予め仲良くなれそうな人に声をかけておく。この時声をかけられたからといって安心してはいけない。人数が足りていたら容赦なく切り捨てられる。

それを今身をもって体験している。


ついさっき「おはよう」と声をかけてくれた子とグループを組むものだと思っていた。

しかしその子は先生が「グループを組んで」と言った瞬間私と目を合わせることなく別の子の方へと向かっていった。私と話す前にその子と仲良くなっていたようだ。

要するに私は保険だったということだ。

仲良くなれた子がいたことに安心していた私はそれ以外の子と話をしていないのでかなりピンチである。声をかけようにもほとんどグループが決まってきている。

余った人は余った人同士で組み始めていて一人が入る余地はなさそう。

これは……、余り確定コースだな。

最初の情報戦で遅れを取った時点で勝ち目はない。ただ、幸いなことにここにいる生徒は二〇〇人つまり誰かが余るということはない。余ったもの同士で組むことになるから黙っていても最終的にはグループを作れる。

問題はこの戦に負けたもの同士のチームでこれからの試験に打ち勝てるのかという点。そして誰もが敬遠するようなぶっ飛んだ人がいるかもしれないという点だ。

パッと見渡す限りやばい人はいなさそうだけど。


先生が声を発してから数分、おそらく五分も経っていないだろう。もうグループは出来上がっていた。

あとは十人がどう別れるか話し合っていて少し遠くでそれを眺めている私とあと二人。

……? 

あれ、人足りなくない? これじゃ三人で二人足りていない。

もしかして今日休んだのかな? 

今日のグループ分けはこの学校行事の中で一番大事だと言っても過言では無い。このグループで卒業まで一緒に行動する。自分の将来を託す仲間だ。

たとえ風邪をひいていたとしても来る人がほとんどだろう。実際体調が悪そうな人も数人いた。

……大丈夫かな。

一気に不安が押し寄せる。

先生の方に目を向けるとマイクを口元に向けていた。

あ、まずい。

そう思った瞬間、「それでは残った人はこちらに来て下さいと」アナウンスが響き渡った。

こんなの公開処刑だ。

他の人が組み終わる前に集まっておくべきだった。そうすればアナウンスは掛からなかっただろう。

渋々先生の元へ向かう。

みんなの視線が痛かった。


集まったのは大人しそうな三つ編みメガネ女子と、なんか……、すごくキラキラしている男子。

むしろ何で余ったのと疑問に思う。だがすぐにその謎は解けた。


スマホ片手に、前髪を整えている。

あぁ、多分ナルシストだ。

初対面でまだ話していない人に対して失礼かもしれないが、うん、ナルシストだ。いいナルシストであることを願おう。


「……先生、あと二人足りないのですが……」

隣から今にも消えそうな声が聞こえた。

三つ編み女子が心配そうな顔をしている。

「残りの二人から休みの連絡は特に来ていないが……」

「確認してみよう」と先生がタブレットを操作していると扉の開く音がした。

目を向けると男子二人が話しながら入って来た。

そのうちの一人が私たちの視線に気がつくと「おはよう!」と元気に手を振った。子犬みたいな人懐っこそうな笑顔にその場にいた全員が不覚にもキュンとしてしまった。

もう一人の男子も優しそうな雰囲気を醸し出している。ただ、あちこちについている絆創膏が異彩を放っていた。


「お前ら二人完全に遅刻だぞ」

眉間に皺を寄せて二人を見る先生の圧がすごかった。思わずビクッとするが当事者の二人は一切気にしていないようだ。

「あれ、間に合う時間に出たつもりなんだけどな」

と子犬男子が首を傾げ、

「ちょっと用事があって」

と穏やか男子がすみませんと謝る。いい人そうだけど余り関わりたくないタイプだ。

「これで全員揃ったな」

先生は何事も無かったかのように進めた。

「それでは皆知っていると思うが、このグループで卒業まで様々な課題に取り組んでもらう。仲良くしろとは言わないが互いにうまくやるように」

そう言うと先生は出ていった。

「よろしくね!」

子犬男子がにこやかに微笑む。それに続いて眼鏡女子、穏やか男子、ナルシスト男子がよろしくと挨拶する。

「よろしくお願いします」

そう言ったが心の中では「チェンジで」と呟いた。

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