第4話

 ある時、お妃様は狩人を見掛けました。

 一見すれば変わったところなどありません。


「あなた、ちょっといいかしら」


 お妃様は狩人を呼び止めて、誰も来ない部屋に入りました。

 と、何処からともなく杖を出すと一振りして狩人に突き付けました。

 その先からは淡い輝きが放たれて、狩人を包み込みます。


 途端、狩人は骨になってしまいました。


「なんて酷い……。人間を骸にして操るなんて」


 お妃様は狩人の素性を調べてから近くの森に埋めてあげました。


「待っていなさい、白雪姫。あなたは罪深過ぎる」


 お妃様は魔法で変装して、白雪姫がいる狩人の家へと向かいました。


 森の木々を抜けていくと、こじんまりとした一軒家がありました。


 見つけたと思い、お妃様が近づきます。

 そこに阻む小さな影が現れました。


 それは赤子ほどの大きさの七人の小人でした。

 顔はありません。

 皆、骨なのです。


「本当に罪深い。けれど、私をこれくらいで止められると?」


 お妃様は杖を掲げました。


「白き雷よ。哀れなる骸を穿ちなさい」


 そのまま振り下ろせば、七つの雷が小人へと違えることなく落ちていきました。

 たちまち小人は弾けて消えてしまいました。


 お妃様はすっと家を見据えてからその扉に手をかけました。

 扉を開けば、艶やかな黒髪を弄ぶ白雪姫がいました。


「あら、お母様。迎えに来てくださったのですか?」


 悪怯れた様子もなく、白雪姫は無邪気に微笑みを浮かべます。

 お妃様はそれを返すことなく睨み付けました。


「白々しい。あなたの幾つもの禁術の使用を私は許さない」

「私はただいつまでも美しくありたいだけですわ。お母様も女なら分かるでしょう?誰よりも美しくありたい」

「黙りなさい!」


 杖を振れば、何処からともなく木の精霊が現われて白雪姫を拘束しました。


「きゃあ!お母様、止めてください!」


 年相応の反応を見せる白雪姫にお妃様は少しばかり気が緩みそうになりました。

 しかし、首を振ってしゃんとしました。


「あなたは呪われなさい。この何時かは朽ちる家で、愛されることもなく、永久に眠りつきなさい」

「お母様にできるの?」

「できるわ」


 すぅっと杖の先を白雪姫に向けます。


「意識よ朽ちよ。永遠に硝子の水底へ」


 そう唱えれば、杖の先から淡い輝きが放たれて白雪姫を包みました。


「お母様あぁぁぁぁっ!?」


 白雪姫は硝子の棺の中で眠りにつきました。

 その唇にほのかな笑みを乗せて。


 お妃様はまだ不安に思いながらも、その家を離れました。


「あなたは勘違いしたかもしれない。私が掛けた呪いは“愛されなければ解けない”。あなたのような死んでいる少女を愛する人なんか現れない」


 お妃様はそう自分に言い聞かせるようにして、お城へと帰りました。


 それから形だけは探すようにしながら、最愛の娘を失った王様を支えました。

 また、あまりの悲しみに政治を行えない王様に変わって政治もお妃様がするようになりました。

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