第3話

 狩人は白雪姫を逃がそうとしました。

 誰かに助けを求めようとは思いませんでした。

 一介の狩人の言葉など、誰も聞き入れてくれないと思ったからです。


 狩人は他の家来に見付からないように、白雪姫の部屋に枝を伸ばす木に登って白雪姫に声を掛けました。


「姫様!白雪姫様!」


 すると窓が開き、下着姿の白雪姫が眠気眼で現れました。


「ふぁ。なんですか?」

「姫様!お妃様が貴女を殺そうとしています。どうかお逃げ下さい」


 白雪姫は驚きましたが、すぐに服を着替えました。


「私が下で受け止めます。飛び降りてください」

「分かったわ」


 白雪姫は狩人に言われて飛び降りました。


 その後、白雪姫は狩人に連れられてお城を出ました。

 夜も更けている中、狩人は迷うことなく森へと向かい、ある場所に向かいました。


 そこは木々に囲まれた、こじんまりとした一軒家でした。


「ここは?」

「私の家です。みすぼらしいですが、今はここに身を潜めてください」


 家は白雪姫にはあまりに汚なく見えました。

 しかし、命を狙われていては我が儘など言えません。


 ふと、部屋の隅を見ると小さな七つのベッドがありました。


「あれは幼くして亡くなった私の兄弟のものです。両親も今はいません。私一人だけです」


 そう狩人が悲しげに言いました。

 白雪姫は改めて狩人を見つめました。


 狩人らしく逞しい体躯。

 顔も精悍で、性格が表れているかのような優しいもので決して醜いものではありません。


 白雪姫は狩人に抱き付きました。


「姫様」

「怖かったの。なかなか距離を近付けることはできなかったけれど、私はお母様を愛していましたのに……まさか、憎まれていたなんて」


 目に涙を溜めて、白雪姫は狩人を上目遣いに見つめます。

 狩人はその愛らしさにドキリとしました。

 白雪姫はまだまだ未成熟ながらも美しいのです。


「狩人。私を助けてくれてありがとう。あなたは私の命の恩人だわ。私、あなたにお礼をしたいの」


 狩人は慌てました。

 お姫様たる白雪姫にお礼などさせるわけにはいきません。


「いえ、お気になさらず。私はお城に、ひいては姫様にお仕えしている身ですので」

「私の気が済みませんわ。そうだ、顔を近付けてくれません?」


 白雪姫は可愛らしくおねだりをすれば、狩人はそれくらいならばと屈んで顔を近付けました。


 と、白雪姫は狩人の口にキスをしました。

 狩人は驚きましたが、直ぐに目の色が変わり、ばたりと倒れてしまいました。


「可愛らしいお兄さん。私、白雪の最初の奴隷にしてあげる」


 白雪姫は倒れた狩人に妖艶な微笑みを浮かべて言いました。


 それから、白雪姫は狩人の家でひっそりと暮らしていました。

 そこには七人の小人が白雪姫のお世話をしています。

 狩人はお城に仕え続けました。


 お城では居なくなってしまった白雪姫を総出で探しました。

 それは溺愛する王様の命でもあり、お妃様の命でもありました。


「私から逃げるなんて、本当に危険な魔女だわ。これ以上犠牲を出してはいけない」


 お妃様は自分の魔力も使って探しました。

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