第43話 エスケープ・フロム・入浴

「ふあああ」


 湯船の中で身体を伸ばす。温められた血液が体中を駆け巡り、緊張がほぐれる。


 高校1年生。JK。年頃。思春期。

 配慮が足りんかった。そんな自己嫌悪から何でもすると言ってしまった。一緒の布団で寝るくらいなら、手を繋いで登校するくらいなら、オッケーだと思って言ったのだが、今のところ要望は保留のままだ。


 女子高生だからな。服とかアクセサリーとか買って欲しいのかもしれない。レストランでディナーなんてのもあるかもな。


「ま、なんでも言うこと聞くさ」


 湯煙に呟き、浴槽から出た。頭と身体を洗おう。風呂いすに座り頭髪にシャワーをする。お湯だけで丁寧にマッサージだ。


 十分に頭皮をマッサージした後、ポンプ式シャンプーから適量を取り出し頭髪にぶっかける。わしわし。さらに頭皮をマッサージ。毛根の油を綺麗にしないとな。


「おじゃましまーす」


 萌々子の声だ。声とともに背中に感じる冷たい空気。扉が開いてる?

 え? なに? 萌々子何してるんだ? 風呂場の扉を開けたの?


 後ろを振り返って確認したい。だが、シャンプー中につき目をつぶっている俺。確認あたわず。


「一緒にお風呂に入りましょう」

「え!?」

「なんでもいうこと聞くのですよね、お兄様?」

「そ、そりゃそう言ったが……ええええ!?」

「まずは……シャンプー手伝います」


 わし。俺以外の手指が俺の頭を掴んだ。そして始まるマッサージ。


「ちょ、俺、風呂に入ってるんだけど!?」

「はい。そんなの、見ればわかります」


 なるほど……って、見たのか!? ナニを!? ナニを見たんだ!!


「萌々子も一緒にお風呂入るの。だめかしら? だめじゃないわよね、お兄様。なんでも言うこと聞くのですものね? お詫びのしるしとして」


 わしわしわしわし。萌々子の細くて柔らかい指が俺の頭皮をマッサージ。うむ。自分の手で揉むより快感だ。


 ……なんて言ってる場合じゃない。


「は、裸なの!? そうなのか!? 萌々子は、は、裸なのか!?」

「ふふ、そうだったらどうします?」

「どうします、じゃないだろ!?」

「だってお風呂って裸で入るものですよ? ご自分でご確認なさっては?」


 俺は顔に付着したシャンプーの泡を払いのけ、ゆっくり目を開けた。正面の鏡には俺の姿と――スクール水着姿の萌々子。スクール水着は濡れた箇所が所々濃くなっていた。


「水着か!」

「はい」

「なら、そう言えよ! 焦ったじゃないか!」

「萌々子、高校生ですよ? いくらお兄様が相手でも裸で一緒にお風呂なんてありえません」

「そりゃそうだが……」

「裸の方が良かった?」

「んなわけねーだろ」

「ですよね」


 萌々子が笑った。


「では兄様、シャンプー流しますね」

「お、おわ!? ちょ、待て! そんなことしたら!」


 泡が流され俺の男子なボディが赤裸々に大公開されてしまうだろ!


「流しまーす」


 抗議をする暇も無く頭頂部から適温のお湯がかけられた。

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