第35話 萌々子は注文する

 全員の視線が俺へ。


「何でも知ってるわけじゃないよ。知らないことだってある」


 若干引き気味で返答する俺をまじまじ見つめる萌々子フレンズ。圧がハンパない。


「ヤバ、結構知ってるってことじゃね!?」

「どこまで知ってるのかな!?」

「つか、知らないことってなんだろー!?」

「アレ? アレ系?」

「ちょ、エロいって!」


 きゃいきゃいわいわい、萌々子の友人たちが騒ぐ。


「もー、皆さん、騒ぎすぎです。お兄様、びっくりしているでしょ? お兄様はね、萌々子以外の女性には慣れていないんです。ね、お兄様?」

「あ? あ、ああ」


 それは確かだ。特に今萌々子の周囲にいるようなカースト上位っぽい系JKは特にね。


「コホン。それでは改めまして、お兄様? 萌々子、何にしたらよろしくて?」


 なんだこのキャラ? お嬢様キャラ?


「この、ミルクたっぷり昔ながらのグラタン、てのはどうだろう?」

「あ、それ、私のレシピなんだよ」


 近藤さんが後ろの方から教えてくれた。


「萌々子、ミルクは嫌いですわ」

「え? 好きだろ?」

「嫌いですわ」


 なんだそれ。


「他のものでお願いしてもよろしくて? お兄様」

「そうか? じゃあ……」


 サンドイッチ? トースト? パスタ? 結構メニュー豊富なんだよなあ。


「よかったらアドバイスするよ、マメくん」


 悩んでいる俺に近藤さんが助け船を出してくれた。


「大丈夫ですわ。これは妹と兄、他人の入り込む余地のない親密家族の問題なんですの」


 メニュー選びに店員である近藤さんの入り込む余地はありまくりだろ。


「ハンバーグトーストセットはどうだ? さっき食べたけど、美味かったぞ」

「美味しかった」


 ギロリング。萌々子が俺をにらみつける。なんでだ。


「萌々子のことを世界で一番知っているのはお兄様のオススメとあらば仕方ありませんね。萌々子、お兄様のためなら何でもしちゃう子なんですから」


 萌々子フレンズかどよめく。「なんでもだってぇ!」「マジぃ?」「何でもつーことは、アレ!? アレ!?」「つかナニ!?」と盛り上がることこの上ない。


「萌々子もお兄様と同じハンバーグトーストセットにします。えーっと、お兄様と部活が一緒のお姉さま? 注文してよろしいかしら?」


 近藤さんな。名前覚えてくれ。


「ええどうぞ」

「じゃ、ハンバーグトーストセットで。食後のセットドリンクはアップルティーでお願いします」

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