第34話 邂逅

「あれ? お兄様?」


 店に来た新入生軍団は萌々子とその仲間だった。


「マメくんのことお兄様って言ったよ?」


 近藤さんが反応する。


「マメくん、妹いたの?」

「はじめまして、萌々子といいます。兄がお世話になっております」


 先に萌々子が自己紹介してしまった。


「へー、マメくんの妹さん!」


 しげしげ俺と萌々子を見比べる。


「目元が似てるかな?」

「本当ですか!?」


 喜ぶ萌々子。

 いや、おかしいだろ。血は繋がっていないんだぞ。


 入り口付近でじっと近藤さんを見つめる萌々子。


「お兄様、この方は?」

「近藤さん。俺と同じ演劇部の2年生だ」

「はじめまして、近藤梨愛りあです。本日は近藤珈琲店へようこそ。ゆっくりしていってくださいね」


 近藤さんが立ち上がりペコリと一礼した。


「席はご自由にどうぞ」


 促されて萌々子たちの集団は俺たちと近いボックス席へ。


「ね、マメくん、なんで妹さんのこと黙っていたの?」

「えーとそれは……」


 妹じゃないからだよ、近藤さん。


「たった二人の演劇部なのに、こんな大事なこと秘密にしていたなんて、少し悲しいな」

「ごめん」


 なんで謝る必要あるのかわからんが、謝っておこう。


「謝って済むなら警察はいらないよ、マメくん」


 ふふ、と近藤さんが微笑む。


 近藤さんが自分の分のプリンをこれまた自分のスプーンで俺の口もとに運んできた。


「はい、あーん」

「あの、近藤さん……」

「お仕置きだよ、マメくん。私に教えてくれなかった」


 またもや「ふふ」と意地悪っぽく笑う。


「こういうの、ラブコメぽいでしょ?」


 スプーンが迫る。同時に、殺意を感じる。主としてカウンター奥の近藤さんのお父さんから。それに負けず劣らず萌々子からも殺意。


「どうしたの?」


 殺意に固まる俺に近藤さんが首をかしげる。近藤さん、空気読めないようだ。


「悪かった。悪かったよ近藤さん。ちゃんと萌々子のこと、紹介するから?」

「萌々子? 妹さん、萌々子っていうんだ」

「う、うん」


 妹じゃないけど。


「だからラブコメごっこは今度にしてくれ。萌々子の前でそういうのはちょっと……な?」

「ふふ。照れ屋さんだね、マメくん。そっか、妹さんの前でラブコメは恥ずかしいかあ」


 ぱく。あーんしかけたプリンを近藤さんは自分の口に入れた。


「じゃ、ラブコメは明日学校でやろう」

「お、おう」

「お兄様ー」


 ボックス席から声がした。


「萌々子、メニューが決められないの。お兄様が選んでください」


 メニューを天に掲げ俺を呼ぶ。


「行ってあげたら?」


 近藤さんに促され萌々子とその仲間のいるボックス席へ。

 ニヤニヤニヤ。複数のJKの意味深な笑顔が俺を歓迎する。


「これが萌々子のお兄様なんだ!」

「うっそ、マジ、似てない」

「しーっ! それ、言っちゃダメ系。デリケートな話題なんだから。萌々子ちゃんに言われたでしょ?」

「そっか、そだね」

「でも……マジ、ラノベみたいつーか、すごくね?」


 ラノベ? なんの話だろう。


「お兄様、どれがいい? 萌々子、決められないの。お兄様が決めて。お兄様、萌々子のことだったら何でも知ってるでしょ?」

「「なんでも知ってるんだあー!?」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る