第23話 だから布団に忍び込むなっていってるだろ?

 萌々子にしがみつかれながら、なんとかホラー映画の鑑賞がおわった。


 色々ピンチだった。しがみつくにも程がある。萌々子にさとられないよう、創意工夫が必要だった。


 俺はそういう目で萌々子を見たくない。やはり、守りたい存在。恋愛とかそういうのでなく、ずっと見守ってあげたい。萌々子の言うとおり、兄でいたいんだ。


 親の決めた婚約なんて守る気ない。ずっとこのままの関係でいたい。


 そのためにはあの程度で反応してはだめなんだ。


「なんか疲れたな」


 映画鑑賞後、風呂に入り、部屋に戻った。強烈に眠い。机上をみる。例のラブコメ脚本。寝る前に少しはセリフ覚えておこうかと出しておいたのだが。


 覚えようと思えば覚えられそうだが覚えなくていいってんだから、やめとこう。もう寝ないとな。


 脚本をカバンに入れ、ベッドに横たわる。

 灯りを消そう。シーリングライトのリモコンに手を伸ばす。


 コンコン。ノックの音がした。萌々子だ。


「おじゃましまーす」


 すーっと扉が開いて、枕を手にした萌々子が顔をのぞかせた。


「お兄様、もう寝るの?」

「ああ。11時だからな」

「早くない?」

「早くない。6時には起きて朝食作るからな」

「萌々子が作るのに」

「いいよ。今日の晩飯萌々子だったし。ちゃんと野菜サラダとか作るし」

「でも、カイワレ大根だけでしょ?」

「……なんでわかった」

「それくらいわかります」


 しゃべりながら萌々子が部屋に入ってきた。すでにパジャマに着替えていた。


「あのね、お兄様。萌々子お話しがあるの」

「なんだ?」

「怖いわ」


 お気に入りの枕をぎゅっと抱きしめ震える萌々子。どことなく、演技くさいが。


「一人じゃ眠れなくて」


 スタスタ歩いて部屋の中へ。ベッドの隣にまで来た。


「あんな怖い映画萌々子に見せるからです。お兄様のせいですからね?」


 枕で顔を半分隠したまま俺に言う。


「一緒に寝てください」

「は?」

「萌々子、ここでおねむする」

「駄目だ」

「今日だけ。今日だけでいいの。お願い。本当に怖いの、萌々子」

「絶対駄目だ。だいたいそのベッドはシングルなんだぞ? 二人で寝るには狭すぎなんだよ」

「萌々子は大丈夫です。お兄様にくっつきますから」


 俺が大丈夫じゃないんだよ。

 男子ってのはな、朝になるとだな……。


 まあいい。この話、やりすぎるとアレだから。


「あれは子どもの時だけだ。もう無理だ」

「むー!」


 萌々子が怖い目で俺を見る。


「そんな目で見ても駄目なものは駄目だからな?」

「じゅあナデナデして。ナデナデなら、出来るでしょ?」


 ナデナデか。頭撫でつつ「いいこいいこ」っていうやつだな。

 俺が小学校4年、萌々子が3年のときより後でやったことないけどな。一緒に寝るよりいいか。


「わかった。してやる。ちょっと待て。起きるから」

「はーい」


 といいつつ、萌々子がベッドに潜り込んできた。


「ナデナデしてー」


 萌々子との密着度、俺史上最高。俺の胸の上で萌々子の胸が潰れている。柔らかい。たぶん、なにもつけてないのだろう。寝る時だし。


「こら、まて! なんで潜ってきた!」

「ナデナデしてもらうの」


 同衾する必要ないよね。


「萌々子は必要だと思いました」


 あ、こら、もじもじするな。

 そ、そんなに腰を動かすか、普通!? 意味、わかってるのか!?


「ナデナデして」


 ヤバい。とりあえず、この体勢はよくない。

 仕方ない。同衾したままナデナデしよう。ナデナデさえ終わればベッドから出て行くだろう。


 ぺた。と萌々子の頭に手を乗せる。髪の毛の感触は昔と同じだ。頭の形も変わってない。サイズは大きくなっているはずなのだが俺の手も成長しているからだろう。昔と差は感じない。


「いいこいいこ。萌々子はいいこだ」


 さすさすさす。撫でるたびに萌々子の身体から力が抜けていく。安心してリラックスしているからで、これも昔と同じだ。


「へへ。お兄様のナデナデ。懐かしいです」


 確かに懐かしい。


「そんなに映画怖かったか?」

「ええ、それはもう。コンセントの穴からですら、ピエロが出てきそうです」

「確かにあのピエロ神出鬼没だったからなあ」

「お兄様のホラー好きにも困ったものです」

「すまん」


 ナデナデすること数分。萌々子は満足したらしく「ありがとうございました」と言って布団から出て行った。

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