第15話 アリス部長
「よかった。実に良かった」
アリス部長がシャープな動きで黒タイツに包まれた足を組んだ。
短めスカートが舞う。太ももが俺の視界を占拠。右手で髪をかき上げたのち腕を組む。顔には小悪魔な笑み。
「実はだな、去年の部活動紹介。あれは失敗だったんだ。君たちには秘密にしてたけどね」
「え? そうなんですが? 全然わかりませんでした」
「失敗だったんだよ、近藤くん。大失敗だったのさ。当時部員は私だけだった。部活動存続の条件は部員数3人以上だ。新入部員を2人以上確保しなければ演劇部は廃部。それだけはなんとしても阻止しなければならない。だから私は自分の演劇ポリシーを無視、大衆に迎合してしまったのさ」
「大衆に迎合……ですか?」
「そう。ポップでキャッチー。不特定多数の大衆に広く受ける。そのためには何をすべきか。寝ないで考えたんだ。出た結論は……人気アニメのオマージュだったんだよ。笑えるだろ?」
自嘲気味のアリス部長。
「私はアニメや漫画の類いは好まない。だが大衆に迎合するためには国民的大人気アニメの力を借りるしかなかない。そう思ったんだ」
今でも鮮明に覚えている。
講堂の舞台に現れた白塗り全身黒タイツの女子高生。背中に箱を背負い、刀を手にした姿は確かに人気アニメのキャラを彷彿とさせなくもなかったが……アニメというよりは暗黒舞踏だった。
「2次元なアニメに対抗するには極限まで表情を抽象化した白塗りが最適だと思ったんだ」
何もない素の舞台に白塗りしたアリス部長。小道具は竹輪。咥えていた。
白塗り黒タイツ女子高生が変な声出しつつ一人でバトルシーンと称して暗黒舞踏。最後に竹輪一気食いパフォーマンス。
会場はドン引き。「演劇部だけは入ってはならない」。俺を除く全新入生がそう思ったはずだ。俺だって木工工作部があれば入ってなかった。
「あの鬼娘が咥えていたのが竹だったとはな。私はてっきり竹輪だと思っていたよ。リアリティの詰めが甘かったな」
そういう問題じゃない。
「しかしだな、失敗の本質は大衆迎合路線に走ったことではない」
確かに。それ以前の問題だ。
「ついつい芸術性を求めてしまったことが敗因だな」
いや、それは違う。
「なるほど。大衆迎合と芸術性の追求は矛盾しますものね」
「その通りだ、近藤さん。そこで今年は思い切って芸術性を捨てることにした」
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