第13話 近藤さんの匂い
「どうしたの?」
「いや……その……」
同級生女子の匂いを嗅ぐ。そんな行為、容易に実行できるわけないだろ?
「……嫌かなあ。そうだよね。子犬の匂いなんて興味ないよね」
悲しそうな声で近藤さんがいった。しゅんとしてしまった近藤さんの姿に俺は思わず「嫌じゃないし興味ないことない」といった。
「よかった」
ぱあと近藤さんの顔が明るくなる。
「じゃ、くんくんして」
「お、おう」
ニコニコ笑顔の近藤さんが両腕を突き出す。おそるおそる伸ばされた両腕の間に頭を突っ込んだ。手首から肘の内側あたりの匂いを嗅ぐ。
「どう?」
いい匂いだ。最初にクリーニングされた繊維の匂い。つぎに女子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「子犬ぽい?」
「……」
うーん。子犬の匂いは……しないよ、近藤さん。
するのは――ただただ甘い女子の香りだけだ。男子高校生の脳には刺激が強いかもしれない。そんな香りしかしないよ。
「そこじゃないよ、マメくん」
「え?」
「アリスはね、私の脇のほうをペロペロなめるんだ。とってもくすぐったいの」
子犬との戯れを反芻しているのか、楽しそうだ。
「だからね、脇と胸のとこなんだ、アリスの匂いがするの。わかった、マメくん?」
「……うん」
「このへん。アリスがペロペロしたの」
近藤さんが脇に近い二の腕の内側をさらけ出した。
「嗅いでみて」
ほとんど脇。デリケートな部分。鼻くっつきそう。
「どうしたの、マメくん。早くきて」
不思議そうに俺を見る近藤さん。
「くんくんして。いい匂いだから」
ごくごく自然に俺を促す。白く柔らかい皮膚が俺を誘う。
「……遠慮しとくよ」
「なんで? 子犬の匂い、嗅ぎたくない? かわいいんだよ、匂いも」
と、言われましてもですな。
「やっばり、犬嫌い?」
子犬のような眼差しで俺を見る近藤さん。
「嫌いじゃないよ。ていうかさ……えーと……そう、楽しみにとっとくよ」
「とっとく?」
「そう。やっぱ子犬のモフモフとセットで匂い嗅いでみたいじゃん? その子犬に会うとき、匂いを嗅ぐよ」
ふう。なんとか回避したぞ。
「そっかー。そうだね。いつ来る?」
「え?」
「ウチにいつ来るって聞いたの」
近藤さんの家は喫茶店である。バイト等は雇わず家族で経営している。大会や文化祭の前、夜遅くまで練習した日は食事をとりに数回部のみんなで訪れたことがあった。
「大会前になったら行くよ。近藤さんとこ」
「だめ」
「なんで?」
「おっきくなっちゃう。子犬の成長は早いんだよ? 今が一番かわいいの。一番かわいいときに見に来なくちゃ。ね?」
そりゃそうだが。
「やあ、遅れてすまない」
そのとき、担任との面談が終わった部長が部室に入ってきた。
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