第11話 教室いけよお前ら。遅刻するぞ。

「いきなり大声出すなよ。みんなこっち見てるぞ」

「ふ。俺の勝利だ」

「人の話聞いてないだろ?」

「何をいうか、聞いているとも。さっきのかわいこちゃん、遠藤の幼馴染みなんだってなあああ! フハハハ!」


 両手で空を支えるかのような妙なポーズで植木が笑う。もはや注目すら集めない、むしろ避けられている。


「おお遠藤よ! 俺は今、我が世の春に心踊ってるッ! スプリング・ハズ・カム! 訳して、時は来た!」


 春が来ただろ、それ。


「ふーッ、ふーッ」

「なんで興奮してるんだよ」

「ふ。説明せねばなるまい。この胸の高鳴りを!」


 いや、しなくていい。


「俺はラブコメが好きだ。特にラノベな。それもエッチなヤツ」


 知ってる。


「そんなラブコメラバーな俺の分析によればだな、幼馴染みというのは正ヒロインにはなれんのだよ! 無駄にモテモテな主人公に翻弄され、傷心する。それが幼馴染み。つまり、負け組。そして登場する俺。これの意味するところがわかるか?」

「わからんな」

「わかれ」


 無茶言うな。


「おい、もう教室行くぞ。ST始まる」

「おう、もうそんな時間か。では急ごう。よく聞け遠藤。さっきのかわいこちゃん、聞けば貴殿の幼馴染みというではないか。ということはだ、あのかわいこちゃんと貴殿は結ばれることはない! どんなにかわいこちゃんが貴殿を慕っていても、正ヒロインの座は奪えない。宿命よのう」

「お前、言葉遣い変だぞ」

「話は最後まで聞け。そう遠くない未来、彼女はお前に振られてハートブレイクな結末を迎える。そこに現れるのが、俺。そう、好きな人の親友。ギザギザハートだった彼女を優しく包むロンリーチャップリンな俺。いつしか2人の間には恋が芽生えるってわけさ!」

「はあ、そうですか」

「悪いな遠藤。あの娘は俺の彼女になる運命なんだ。回り出した運命の糸車はもう止められねーぜ? うおおお、朝日がまぶしいぜ! まるで俺の運命を祝福してるかのようだのう!」

「今日曇ってるぞ」


 太陽がお前の運命象徴してるなら、暗雲立ち込めてるのではないのか?


「さ、教室行こうぜ遠藤。STに遅れるぞ」

「それ、お前が言う?」


 小走りで玄関へ。


「なあ、遠藤、俺、クラスどこだろ?」

「ネットで確認してないのか?」

「ネット?」

「在校生専用サイトに新クラス一覧出てる。各自で確認して教室に行けってなってただろ?」

「そうなの? 俺、それ知らないんだけど」

「終業式で連絡あったじゃん」


 何も話聞いてないな、植木。


「ふうむ。在校生専用サイトで新クラス発表。まさにIT革命だな。……で、在校生専用サイトって何?」

「お前、それでよく1年間無事に学校生活送れたな。これだよこれ」


 俺はスマホを取り出し、ロックを解除した。在校生専用サイトにアクセス、IDとパスワードを入力して「お知らせ」をタッチ、「新2年生クラス名簿.pdf」を選択した。


「うわ、字、ちっさ! 読めねーだろ!?」


 驚愕する植木。

 俺は無言で画面をピンチ、名簿を拡大した。


「うおおお!? 字、でかくなりよったで! ハイテクやないかい!」


 いつの時代の言葉だ、ハイテクって。あと、なんでエセ関西弁なんだ。


「植木は俺と同じ6組。文系世界史クラスだ」

「おお!? 俺、世界史選択だったんだ!」


 いろいろ大丈夫か、植木。


「さ、教室行こう。2年生は2階だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る