第8話 クレイジーなトレイン
「電車混んでますね」
「ああ」
「たった15分遅れただけなのに……」
「だから言ったろ。準急は混むんだ」
電車の中、俺たちは立っていた。通常、普通に乗れば余裕で座れるのだが、朝からドタバタしたため、いつもの普通電車に間に合わなかった。だから準急に乗ったのだ。
「途中もたもたしたからですよ、お兄様」
「もたもたしたのは萌々子だろ」
「妹のせいにするなんて、兄としてよくないですよ?」
め! と強い目線で萌々子が俺をたしなめた。
なんでやねん!
……と、関西人ならツッコミ入れるところだろうが、あいにく俺は関西人ではない。はあ、と軽くため息をつくだけだ。
しかし、たった一、二本違うだけ、普通列車かそうでないかでこんなに混み方が違うとは。電車通学あるあるとはいえびっくりだ。
「ところで萌々子」
「はい、なんでしょう」
「どうして手を繋いでいるんだ?」
俺にとっては久しぶりの満員通学電車、萌々子にとっては初めての満員通学電車の中で、萌々子は俺の手を握っていた。
「駄目ですか?」
「うん。駄目だ」
まったく。思考が幼い頃のまんまなんだよな、萌々子。確かに小さい頃、混んでる電車の中では手を繋いださ。すぐ人の波に流されていったからな。
「さすがお兄様。こんなに混んでる電車、手を繋ぐだけじゃ危険です。ありがとうお兄様。お気遣い、感謝です。ぎゅ」
萌々子が抱きついてきた。両手を俺に腰に回し身体を押しつける
違う、そうじゃない。抱きつくのはもっと駄目だと言いかけたとき、
ガコン。列車が大きく揺れた。
「きゃ!」
萌々子の小さな悲鳴。
むに。
俺の体で萌々子の胸が押しつぶされた。さらに萌々子の下半身が俺の脚の間に挟み込まれる。
想定外の密着に心臓がドキドキし出した。落ち着け。女子と接触してドキドキするのは男子高校生なら当たり前の反応だ。これで既成事実まで突っ切る馬鹿はいない。それはただの変態だ。女を意識するな。萌々子は妹だ。実妹でも義妹でもないけど。深呼吸。はーすーはーすー。
「運転、荒くないですか?」
「確かに」
平静を装って会話を続ける俺。
「萌々子、こけて怪我しちゃう。ぎゅっとしててよかったね、お兄様?」
「……ま、まあ、そうだな」
ガコン。再び電車が揺れる。ちょ、マジ運転下手すぎじゃね? 4月だから新人が運転してんの? それともいつもの電車の運転手が上手いだけ?
「がたんがたん揺れて、萌々子こわいの」
萌々子がより一層俺に抱きついてきた。
「お兄様の胸って、おっきくて固いわ」
萌々子は柔らかいな。
「とっても頼りになるって感じ。ずっとこうしてていい?」
すりすりと萌々子が俺の胸に頭を埋める。シャンプーの匂いだろうか、可憐な香りが鼻腔を通り過ぎた。
「ああ」
「はーい」
気のせいだろうか。妙に視線を感じる。
無理もない。
端から見れば抱きあってる高校生カップルだよな、これ。
途中の駅で乗り込んでくる客で想像以上にぎゅうぎゅうになりつつ、俺は萌々子との電車通学というミッションをこなした。
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