第7話 抱いてもらった

「騙された、だって?」

「はい」

「どういうこと?」

「萌々子、別に倒れてなんかいません」

「じゃあなんで……」

「お兄様に抱いてもらうためです」

「はあ? なんだそれ?」

「萌々子に意地悪した償いです! お兄様が萌々子に意地悪するから、お詫びの印に抱いてもらいました」

「抱いてもらったって……」


 その言葉だけ聞くと誤解されるだろ。


「萌々子、本当に低血圧なんですよ? ひとりで歩いてて、駅まで行く途中倒れたらお兄様はどうするの?」

「どうするって言われても」

「わかりました。道路で倒れて、変態の車に拉致されて売り飛ばされたりしても、お兄様はどうもしないんだ」

「それは飛躍が過ぎるだろ?」

「過ぎません」


 萌々子が俺の顔をのぞき込む。まだ抱きあったままなのでめっちゃ顔が近い。


「……とりあえず、離れようか」

「いやです」

「このまま抱き合って学校に行けってのか?」

「はい」

「無理だろ」

「萌々子の辞書に不可能の文字はありません」

「じゃあ欠陥辞書だな。買いかえろ」


 よっこらしょ、と萌々子を引き剥がす。やだーと脚にしがみつく萌々子。


「ところで」


 萌々子に弁当を渡す。


「弁当、忘れていたぞ」

「え? ……本当だ。ありがとうございます。お兄様。やっぱり優しいですね。いつも萌々子のことを心配していてくれます」

「まあ……な」


 道路に座りこんだまま、片手で弁当を受け取る。もう片方の手は俺の脚を掴んだままだ。


「じゃ、弁当渡したし、その手を離してくれないかな」 

「やだ」


 首をぶるんぶるん横に振る。

 はあ。根負けだ。


「わかった。一緒に学校行こう」

「本当?」

「ああ」


 ぴょん。萌々子が立ち上がる。


「さ、行きましょう、お兄様!」

「現金だな」


 どこが本当に低血圧だ。

 ま、いっか。

 俺と萌々子は二人並んで駅に向かった。

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