第3話 同伴登校

 萌々子は俺と同じ私立高校に入学した。

 そして俺と同居した。


 理由は「両親が海外赴任したから」だ。


 俺の親父と萌々子の親父は同じ自動車部品系の会社に勤めている。それも同期。同じ社宅に住み、同じ頃に結婚し、1年違いで子どもが出来た。それが俺と萌々子。


 俺が高校に入るのと同時に親父は中国に言ってしまった。EVつまり電気自動車の開発の関係で中国との合弁企業に派遣されたのだ。40過ぎてもラブラブな俺の親父と母さんなので、親父は母親を連れて中国に行ってしまった。


 いや、普通、単身赴任だろ?


 そんなわけで俺は高校入学と同時に一人暮らしとなった。


 そして今年。


 萌々子の父親と俺の親父、仲が良いだけ、同期なだけ、じゃない。なんと同じ部署で同じ専門なのだ。まるで俺の親父を追いかけるかのように萌々子の父親も中国の合弁企業へ派遣となった。やはり奥さんを連れて。


「いやーまさかこのタイミングで中国とは。ということで萌々子をよろしく」と笑顔で言われたのが3月下旬。その一週間後に萌々子が俺の家に引っ越してきた。


 もともと家族3人で住んでいた一軒家。おまけに両親の計画では子どもは二人だったらしい。自然の摂理により結果として俺は一人っ子だったのだが、二人の家族計画では妹が出来る予定だったらしく、ちゃんと子ども部屋が二つ用意されていた。


 てか、家建てたの、結構あとだぞ? いつまで妹作ろうと……。


 いや。やめとこう。両親のそういうの、考えたくない。


 そんなわけで萌々子の部屋は用意されていた。で、今に至る。


「一緒に通学なんて久しぶりです、お兄様」

「そうだな。去年は俺が高1、萌々子が中3だったからな。学校違っていた」

「そうですよ、お兄様。萌々子、ひとり寂しく通学していたんです」


 美少女である萌々子はストーカー被害に遭いやすく、その護衛を兼ねて俺は萌々子と一緒に通学していたのだ。


「大丈夫だったか、ひとりで」

「はい。これ持ってましたから!」


 防犯ブザーか。


「それ、小学生でも持っているだろ?」

「もっと高機能なんです。GPSも付いていて警備会社に緊急通報してくれるんですよ」

「ふーん」

「だから、萌々子、大丈夫でした!」

「そんな良いの持ってるなら、俺と一緒に通学しなくて大丈夫だな」

「だ、大丈夫じゃないです!」


 ぎゅ。萌々子が俺の手を握ってきた。


「私が大丈夫でも、お兄様が危険です! こーやって、手を繋いでおかないと……道路にはみ出ちゃいます!」

「いや、手を繋いで横に並ぶ方がはみ出るだろ?」


  手を離して縦一列になる方がいいんじゃね? と言おうとしたその時、俺は二の腕に何やら柔らかい感触を感じた。


 ……萌々子の胸の膨らみが当たっている。俺の二の腕に。萌々子が腕を組んできたのだ。


「手を繋ぐより、こっちの方が安全です!」

「……違う。そうじゃない」

「え? もっとくっついた方が良いですか?」


 ぐいぐいと萌々子がくっつく。


「あのな、萌々子。そんなにくっついたら……誤解されるだろ?」

「誤解?」

「そうだ、誤解」

「どんな誤解ですか?」

「……」


 恋人、カップル。いかん。そういう単語は禁句だ。萌々子が調子に乗ってしまう。

 萌々子は俺との恋人ごっこが好きなんだ。俺が萌々子と婚約していることを本人に隠しているのも、そんな萌々子の性格を知っているからだ。


 というか、幼い頃の約束なんて効力ゼロだし。親父は「いや、結婚してもらう」とうるさいが。


「仲良すぎって誤解だ」

「兄妹だから、仲良くていいんですよ?

「あのな、萌々子。俺たちってさ、戸籍的には兄妹じゃないよな?」

「そんな悲しいこと言わないでください!」

「事実だろ。てか、実の兄妹でも高校生にもなって腕を繋いで登校なんてありえないだろ?」

「ありえるもん。実の兄妹じゃない兄妹だったら、あり得るんだもん」

「萌々子。駄々をこねない」


 立ち止まり、萌々子の目を見る。


「……うん」


 悲しそうな目で萌々子が頷いた。名残惜しそうに腕をほどく。


「なーんて!」


 萌々子が飛びついてきた。今度は両腕で俺にしがみついている。2つの膨らみがぐいぐい俺の上半身に押しつけられてる。ダブルだとより一層柔らかい。


「ちょ、萌々子!」

「あのね、お兄様」


 萌々子が俺の目をじーっと見つめる。


「萌々子、我慢します。学校では、お兄様のこと、ちゃんと、『同居中の年上の幼馴染み』ってことにしておきますから! 妹だってことは秘密にします!」


 は?


「だから妹じゃないっての」

「妹だもーん」

「血は繋がっていないだろ?」

「義妹ってことですか?」

「だーかーらー!」

「冗談です、お兄様」


 おどけた調子で萌々子が飛び退く。


「萌々子は偉いから、お兄様のいうこと聞きまーす」

「うん、良い子だ。じゃ、急ごう」

「はい」


 大半が葉桜となった桜並木の街道を歩き、俺たちは駅へと向かった。


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