レツVSジンガ
ライブハウスの正面ではイヤホンから聞こえてきた不穏な音にレツが顔をしかめていた。そして、黒いリュックサックを背負って悠然と近づいてくる男に顔を向ける。
「
「周りの警察を無力化すんのに手間取ったんだ。ギリギリ間に合ってよかったよ。……お前は門番ってところか?」
レツは周囲を見回す。寂れた町ゆえにひとけはない。ジンガの話が本当ならば警察が駆けつけるのは遅くなりそうだ。
ジンガは心底面倒くさそうにレツを睨む。
「警察はこっちから出向いたから無力化で留めたが、立ち塞がるってんなら……殺すぞ」
レツは左手をポケットに突っ込み、睨み返した。
「こちらとしてはその方が好都合だ。正当防衛を主張できるからな。これ以上、貴様らに理を乱されるのは勘弁だ」
両者の間で見えない火花が散る。一台の車がライブハウス前の車道を通り抜け、それが開戦の合図となった。
ジンガは右手を腰のガンホルダーに伸ばすと拳銃を取り出した。それを素早くレツへ向けると、
「──っ⁉」
拳銃を握る手の中指に衝撃と激痛が走る。思わず手を離した。そこに間合いを詰めてきたレツの右脚によるハイキックが迫り、ジンガは咄嗟に左腕でガードする。
ジンガは足もとに落ちた拳銃を見下ろす。傍らにパチンコ玉のような鉄球が転がっていた。
(こいつ、ポケットから取り出したこれを指で撃ち込んだのか。いわゆる指弾……。漫画やアニメのキャラ以外でこんな芸当をできる奴がいるのかよ)
(君乃アリス襲撃の際にはまともな武器がなくて時柴に場を支配されたが、僕は二度同じ轍は踏まない。習得しておいてよかった。……それにしても、今のを防ぐか)
二人はこの攻防でお互いが達人であることを理解する。ジンガは赤く腫れた右手の中指をちらりと見ると、拳を作らないまま掌底をレツの顔へと放った。
(今の指弾で右拳は潰せたな)
分析しながらレツは後方に跳んで回避する。その隙を突いて、ジンガは地面に落ちた拳銃を足で掬うように蹴り上げて宙へ浮かすと左手でキャッチした。銃口をレツへと向ける。
レツは右のポケットから取り出した小ぶりな鉄球を指弾として放った。鉄球は勢いよく銃口の中に突っ込んで嵌まる。
引き金を弾きかけていたジンガは慌てて指を止めた。危うく暴発するところであった。
(もう一丁は爆弾と一緒にリュックの中だぞ、クソが)
使い物にならなくなった拳銃を放り捨てると、レツが放ってきた頭部を狙った指弾を躱した。そこに駆け出してきたレツの鋭い右ストレートが伸びてくる。
「おっと……!」
ジンガは左手でレツの手首を掴んで受け止める。すかさず右手を引いて掌底を放つ構えを取った。しかし、
(僕の左手がフリーだぞ)
レツはポケットから取り出した鉄球を人差し指と親指に装填する。それでもジンガは動じない。
(胴に食らうぶんには問題ねえ。流石に肋をへし折る威力はねえだろ。頭を狙った指弾は首を逸らして避けられる。指弾の照準は指の角度を見りゃわかるからな。このままぶっ叩く!)
(と、貴様は考えているのだろうが……。僕が狙うのは、ここだ!)
レツは自身の右手をホールドしているジンガの左腕目掛けて親指で鉄球を弾いた。
だが、放たれた鉄球は目的地に辿り着く前に、伸びてきたジンガの右手によって受け止められた。拳と化したその右手がレツの腹部に食い込む。
「があっ……!」
「それも予測済みなんだな、これが」
レツの身体がくの字に折れた。彼は込み上げてくる嘔吐感を抑える。
(拳を握れたのか……!)
右手を掴まれている関係上、殴られてもジンガから離れることはできない。身を屈めるような態勢になったレツにジンガは膝蹴りを叩き込もうとする。
しかし、レツは素早くジンガの右足を踏んづけて彼の足を上がらないようにした。
「なっ──がっ!」
驚いて目を見開くジンガに、レツは頭突きを見舞う。ジンガは堪らずのけ反り、掴んでいたレツの右手を離した。しかし、今度はレツが足を踏んでいるためやはりお互いの身体は密着したままだ。
二人は態勢を整えると、同時に右拳を顔面へと打ち合った。レツはよろめきながらライブハウスの扉にぶつかり、ジンガは後ずさるも倒れるのを堪える。
ジンガは鼻血を手の甲で拭い、
「予想以上に強いな、お前。正直びびってるぜ」
レツも殴られた腹を擦りながら、
「ならば退け。リーダーである貴様が僕と互角なら勝ち目はないぞ。中にいる相棒は僕と同等の強さを持つ。中のお仲間が哀れだ」
「おいおい。組織のリーダーが最強だと誰が決めたよ」
ジンガの余裕の物言いにレツは顔を怪訝な表情を浮かべる。
「ライブハウスにはゴエモンとリリっつうメンバーを潜り込ませている。そのうち、ゴエモンは俺より遥かに強い。俺の戦闘の師匠だからな」
レツは黙り込んだ。その話が事実かどうかはわからないが、彼はFDの中には
パキポキ、とレツが首を鳴らす。
「仕方ない。多少無理をしてでも貴様を倒すと──」
『レツ、扉の近くにいるなら離れて!』
いきなりイヤホンからクイナの声が聞こえてきた。どういうことかと思考する間もなく、背後の扉が開き、ライブハウスの中から大勢の観客が逃げるように飛び出してくる。
「な、何が……っ⁉」
溢れ出てきた観客に突き飛ばされ、レツが手前につんのめった。ジンガは駆け出すと、よろける彼の顔面に膝を叩き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます