第2話 そして、いま・・・

「こんなものかしら」


 私は筆を置くと手紙をざっと確認する。


「問題はなさそうね……」


 一つ頷き私は封筒へ入れて封をしました。


「この手紙を読んだら、お母さまは怒るかしら、呆れるかしら……それとも笑われるのかしら?」


 春の陽だまりのように胸をぽかぽかと温かくしてくれる……お母さまのそんな笑顔を想い出すとほんの少しだけ寂しさが湧いてきました。


「お嬢様ぁ、ショーンさんがお見えですよぉ!」

「は〜い」


 階下から大声で呼ぶメイナ・・・の声に応えると、私は鏡の前でさっと手櫛で髪を整えた。その場でくるりと回って再確認。


 よし、おかしくないわね。


 身なりを確認するとトタトタと階段を急いで降りる。


「お嬢様、ショーンさんがソワソワと待っておいでですよ」

「メイナ、私はもうお嬢様じゃないわ」

「ふふふ、長年の癖はなかなか抜けないもので」


 家を追い出された私を迎え入れてくれたのは、カーマイン家に仕えてくれていた元侍女のメイナでした。


 去って行ったカーマイン家の使用人達には、紹介状を持たせて隣の領へ就職を斡旋していました。そのおかげで、この街には見知った顔が幾人かいるのです。


 庭師のデンガーさんは領主に雇われていますし、料理人のミールさんは自分の料理店を持つ一国一城の主です。


 私はメイナと一緒に小物を扱う可愛いお店を開いてそれなりに暮らしています。


 その商売が縁で商人である恋人のショーンと出会いました。


 店へ顔を出せばショーンが手を挙げ優しく微笑んでくれました。


「お待たせ」

「早く来すぎたみたいだね」


 でも、君に1秒でも早く会いたかったんだと言われ、私は思わず熱くなった頬を両手で押さえました。


「ふふ、セレシアは本当に可愛いなぁ」

「もう! そんなお世辞ばっかり言って」


 私は気恥ずかしくなって誤魔化すようにプイッとそっぽを向いて拗ねて見せる。


「お世辞なもんか。セレシアを振った男には感謝しているんだ」

「え?」

「おかげで君と出会えたんだから」

「ショーン」

「セレシア」


 どちらからともなく手を取り合い見つめ合う。


「イチャイチャは他所でやってくれます?」

「「メイナ!?」」


 私達はバッと手を離し真っ赤になってあわあわしました。


 そんな様子をメイナやお客さん達がニヤニヤと……うううっ、ここが店内だと失念していました。


 恥ずかしいです。


「い、行こうかセレシア」

「そ、そうね」


 誤魔化すようにそそくさと店を出ると目的の店へと向かいました。


 今日はショーンとデートなんです。


 それも、ただのデートじゃないと思う。


 きっと彼は今日……


 それから、私達は食事をして、露店を回って、笑いながら時間を過ごしていきました。


 そして、日も傾き街の中央広場の噴水前で、ショーンが私の手を取ったのです。


「セレシアは元貴族令嬢で、とても綺麗で上品で……それに頭も性格も良くて……」

「ショーン?」

「それに比べて僕はしがない商人だ」


 そんなに自分を卑下する必要ないのに。

 ショーンには立派な商才があのだから。


「それでも……そんな僕でも……」

「うん……」


 そこでショーンは言葉を切ると大きく深呼吸しました。


 ふふふ、すっごく緊張してる。


 だけで、それは私も同じ。


 ショーンの次の言葉に期待と緊張で心臓が破裂しそうなくらいドキドキするの。



「そんな僕でも結婚してくれるかい?」

「ええ……ええ……もちろん!」


 ああ、ショーン好きよ……大好き……愛しています。


――パチパチパチパチ……


 周囲で私達を温かく見守ってくれていた人達から拍手が沸き、噴水が噴き上がる音と共に私達を祝福してくれたのでした……

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