第24話:いつか
あれから一週間。彼女は今までと何も変わらない。あの日のことは夢だったのだろうかと思ってしまうほど。だけど、アプリに残されたあの日の彼女とのやりとりが、夢ではなかったことを証明してくれる。定期的に見てしまう。
「柊木さん最近よくスマホ見てニヤニヤしてるよね。恋人でも出来た?」
隣の席のクラスメイトにそう言われて、慌ててスマホの画面を消して顔を整える。
「べ、別に……」
「えー。怪しい」
「あ、怪しくないわよ」
「えー? どんな人? クラスメイト? バイト先の人? 男? 女?」
「……教えない」
「居ることは否定しないんだー?」
「う……」
と、ウザ絡みされて困っていると、見かねたのか大福が助けてくれた。それを見て彼女は何か勘違いしたのか、私と大福を交互に見る。
「いや、私はノンケだから。無い無い」
「ノンケはノンケって言わないでしょ」
「言うでしょ普通に」
「そういうことにしておいてあげるよ」
「だーかーらー……はぁ」
大福がため息を吐くと「なになに? なんか楽しそうだね」とあずきちゃんの声。机の影からひょこっと顔が出てきて思わず驚く。
「うわっ、びっくりした。いつの間に」
「今来た。教科書忘れたから借りに来た」
「なんの教科?」
「日本史。ある?」
「あー。ここには無いけど、ロッカーにならあるよ」
「勝手に借りて良いか?」
「着いてく」
「ん。じゃあついてきたまえ」
「なんでちょっと偉そうなのよ。ふふ」
あずきちゃんに連れられて廊下に出ると、彼女は私の方を見ずに問う。「で、何見てたの?」と。
「え?」
「……話聞こえてた。スマホ見ながらニヤニヤしてたって。何見てニヤついてたの?」
「……分かってて聞いてるでしょ」
聞き返すと、彼女は振り返り「分かんない。教えて」と笑顔で言う。絶対分かってる顔だ。
「……あずきちゃんの意地悪」
「ははは。ごめんごめん。……ふふ」
「……楽しそうだね。あずきちゃんも好きな子には意地悪したいタイプなんだ」
「そうだね。明菜ちゃんほどじゃないけど」
「……あんまり意地悪すると、仕返しするよ」
私がそう言うと彼女は足を止めた。そして私の方を見て悪戯っぽく笑って一言。「良いよ」と。思わぬ返しに固まってしまうと、彼女はぷっと吹き出した。
「も、もう! 揶揄わないで!」
「あははっ! ごめんごめん。けど……うん。大丈夫だよ。君が私を大切に思ってくれていることは分かっているから」
だから大丈夫。彼女はそう、自分に言い聞かせるように繰り返して笑う。その笑顔はどこかぎこちなく見えた。本当はまだ怖いんじゃないの。だから私を試してるんじゃないの。そう指摘したくなるのを飲み込み、強がりに気付かないふりをした。そしてこれからも気付かないふりをし続けることにした。いつか、その強がりが必要なくなるまで。
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