第11話:恋なんてしたくなかった

 しばらくすると、寝息が聞こえてきた。振り返り、彼女の背中に手を伸ばしかけて、引っ込める。そして寝返りを打って、彼女に背を向ける。友達だし、女同士だし、抱きしめても不自然じゃなかったかもしれない。むしろその方が自然だったかもしれない。だけど、出来なかった。

 私は今年で十六歳になる。あと二年もすれば成人だ。そしたら、この恋心を打ち明けることを彼女は許してくれるのだろうか。そもそも、好きだと言われたくないのは、私が子供だから? それとも、別の理由があったりするのだろうか。あるいは、彼女は私に好きだと言ってほしくないと思っているということ自体、私の勘違いだろうか。


『私も君のこと友達だと思ってるからね』


 彼女のあの言葉は、私には、私を恋愛対象と見ないでくれという牽制に聞こえた。気のせいではないと思う。気のせいでないとしても、告白するのは怖い。彼女が誰かと付き合うのも嫌だ。誰にも取られないように閉じ込めておきたい。そんなことを思ってしまう自分が怖い。取られるだなんて、彼女は物じゃないのに。


 中学生の頃、一度だけ女の子と付き合ったことがある。何度か告白されて、最終的に彼女の熱意に根負けして流される形で付き合ってしまったが、結局私は彼女に恋することはできなかった。好きではあった。だけど、彼女が私に向ける独占欲に疲れてしまった。『いい加減にしてよ。私は物じゃないんだよ』私は彼女についそう言ってしまったが、今なら彼女の気持ちが分かる気がする。今更分かったところで、今の彼女には新しい恋人が居ると本人から聞いているし、私も今更彼女を好きになることはないと思うけれど。今は、あずきちゃん以外の人を好きになれる気がしない。なれたら楽なのにとは思うけど、なりたいとは思えない。彼女が良い。彼女じゃなきゃ嫌だ。その感情は、かつて元カノも私に抱いていた。だけど今は別の人に向けている。私のこの感情も今だけのものなのだろうか。そうであってほしいと思うと同時に、消えてほしくないとも思う。別の人に上書きなんてされたくない。彼女が良い。矛盾した感情がせめぎ合い、心がぐちゃぐちゃになる。眠れない。

 背後で動く気配がして、再び彼女の方を振り返る。彼女はこちらを向いていた。私が貸した小さなぬいぐるみを抱いて丸まっている。

 可愛いなと思うと同時に、彼女に抱かれるぬいぐるみを羨ましいと思ってしまう。私も彼女に抱きしめられたい。抱きしめたい。触れたい。触れ合いたい。


「っ……」


 思わず伸ばしかけた手を止めて、再び彼女に背を向ける。

 私は彼女を合法ロリだのエロいだの言う連中を心底軽蔑している。だけど多分、私も彼らと同じような感情を彼女に抱いてしまっているのではないか。大好きな人にこんな醜い欲望を抱く自分に吐き気がした。こんな感情、いつか消えるなら今すぐにでも消えてほしい。大好きという純粋な気持ちだけを残して。そうしたらきっと、悪夢を見て怯える彼女を抱きしめてやることも出来たのに。

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