第5話:年長者
二人に年齢のことを打ち明けて一週間ほどが経った。部活のポスターが完成し、生徒会の許可を得て廊下に張り出すことになった。一年生の廊下の掲示板にポスターを貼っていると、たまたま通りかかった女子二人が足を止めた。
「お菓子研究部?」
「お菓子作る部活なんてあったんですの?」
「いや、これから作るんだよ。そのためにあと二人必要だから募集してるの」
「「二人……」」
たまたま通りかかった二人は顔を見合わせた。もしかして入ってくれる感じだろうか。問うと、二人のうち、お嬢様っぽい雰囲気の子が入りますと手を挙げて即答した。もう一人の背の高い女子はそれを見て仕方ないなというようにふっと笑ってため息を吐いて「じゃあ私も」と言った。
「早っ。まだポスター貼ってないのにもう揃った」
「……あなた、大丈夫? 気を使わなくてもいいのよ?」
「いや、別に空気を読んで気を使っているわけじゃないよ。私もお菓子作るのは好きだし、部活なにやろうかって二人で話してたところだったから」
「わたくし、一年三組の
「私は五組の
「幼馴染兼恋人、ですわ」
彗と名乗ったお嬢様っぽい雰囲気の彼女の口から発せられた恋人というワードに私は正直ドキッとしてしまった。同性同士なのにそんなにサラッと言っていいのかと思ってしまった。しかし、大福ちゃんと心愛ちゃんは目を輝かせている。嫌な反応は全くしていない。たった四年だが、二人とは生きている時代が違うのだと痛感した。それと同時にホッとした。まだ確信があるわけではないが、自分はレズビアンだと思っていたから。とりあえずそうであることが確定してもそれが原因で二人との友情が壊れることはなさそうだ。
「で、私達はどうしたらいいのかな」
「本当に入るの?」
「うん。新しく部活を作るなんて楽しそうだし。ちなみに彗さんの実家ケーキ屋なんだよ」
「野生のプロだ!」
「大福ちゃんの実家も和菓子屋だったり」
「しないね全く。普通のサラリーマンと専業主婦です」
「大福って名前なの?」
「大塚小福だから大福。こっちが心愛ちゃんで、こっちがあずきちゃん」
「なるほど……じゃあ私は栗山だからモンブランかな。彗さんはケーキだね」
「モンブランは言いづらいからマロンとか」
「ちょっと可愛すぎないかなぁ」
「ちなみに私とあずきちゃんはあだ名じゃなくて本名だから」
「あ、そうなの? 菓子研だからみんな甘いものにちなんだあだ名つけてるのかと思った」
「たまたまなんだよ。面白い偶然だよね。ちなみに先生は須賀先生だからシュガーって呼んでる」
「須賀先生って数Iの?」
「そう。一組の担任。顧問やってくれるって」
とりあえず二人を連れて須賀先生の元へ向かう。早いなと苦笑いされた。
「たまたまポスター貼ってるところ見まして」
「そうか。なら次は部長と副部長を決めないとな。もう話し合った?」
先生に言われて気付く。その話は一切してこなかったことに。頭から抜けていた。しかし、部長は話し合うまでもなく、私がやるべきだろう。年長者だし。
「部長は私が」
「大丈夫か? 年長者だからって無理してないか?」
「いえ。大丈夫です」
「そうか。じゃあ副部長は?」
「はい」
迷いなく手を挙げたのは心愛ちゃんだった。押し付け合うかと思ったが案外即決してしまった。そしてその流れのまま、先生が申請をしてくれることになり、あとは許可が降りるのを待つのみとなった。
「……先ほど先生が仰った年長者って、どういうことですの?」
職員室を出ると、彗ちゃんが疑問を呈した。須賀先生の「年長者だからって無理してないか?」の一言が引っかかったらしい。今のところ私の年齢のことは大福ちゃんと心愛ちゃんしか知らない。二人以外のクラスメイトすらまだ私のことを十五歳の少女だと思っている。しかし、同じ部活の仲間になる二人にはちゃんと話しておくべきだろう。恐る恐る話すと二人は心愛ちゃん達と同じくそうなんだと薄い反応だったが、今年で二十歳になると聞くと心愛ちゃん達と全く同じ反応をした。思わず笑ってしまった。本当のことを話したら浮いてしまうなんて思っていたのはもしかしたら私だけだったのかもしれない。
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