第3話:仲良くなりたくて

 翌日。部活について話し合うために放課後の教室で三人で集まることに。結局、なんだかんだで心愛ちゃんも入ってくれることになり正式に部活動として申請するために必要な人数はあと二人。とりあえず募集のためにポスターを作ることになった。


「私は絵は苦手なのでお二人に任せます」


「大福、画伯だもんね」


「字は自信あるよ。書道やってたから」


「書道部入らなかったの?」


「私がやってたの硬筆だから」


「ああ、そうなんだ」


「あずきちゃんは中学の頃何部やってた? 私と心愛ちゃんは合唱部だったよ」


「私は……部活に入るのは今回が初めて」


「ずっと帰宅部だったの?」


「うん」


 この流れで、二人になら話してしまっても良いだろうか。


「……あ、あのさ、私……みんなに秘密にしてることがあって」


 緊張で声が裏返ってしまった。二人は私の緊張を察したのか、わざわざ手を止めて私の方を向いた。


「いずれはみんなにも話したいけど……どういう反応されるのかって思うと、怖くて。でも、誰かに知っておいてほしくて。聞いてくれる?」


「うん。大丈夫だよ。私も心愛ちゃんも口堅いから」


「……それって、先生は知ってるの?」


「うん。多分、知らない先生は居ないんじゃないかな。私が入試の時に私服で来てた理由、前に話したよね」


「制服汚しちゃったってやつね」


「うん。あれ、嘘なんだ。あと、県外の中学ってのも嘘。本当は市内の中学。桜山中」


「なんでそんな嘘を?」


「……私、ずっと入退院繰り返してて。中学はほとんど行ってなくて。同級生と同じ年に高校に入学することは出来なかったんだ」


「えっとつまり……?」


「私は本当は、君たちより歳上なんだ。今年入学した桜山中出身の子達の中に私の同級生は居ない。みんな後輩だと思う。だから……出身中学を話したら同い年じゃないことがバレるかもしれないって思って県外って誤魔化した」


 そうなんだと、思ったより反応が薄かった二人だが「こう見えて今年度で二十歳になる」と私が言うと「「は、二十歳ぃ!?」」と二人揃って目を丸くした。その反応は予想通りだった。私はどう見ても子供だから。高校生にすら見えないのに、今年度で二十歳だなんて言われても信じられないだろう。何か証拠になるものはあるだろうかと考えて、生徒手帳に生年月日が記されていることを思い出した。二人に見せると、二人は何度も私と私の生徒手帳を交互に見る。


「ははは。信じられんだろう。こんな見た目だもんな」


「でも、雰囲気が大人びてるなとは思ってたよ」


 じっと私の生徒手帳を見つめたまま、心愛ちゃんが言う。大福ちゃんも頷く。そして言った。「なんか、あの、あれだよね。吸血鬼みたい」と。心愛ちゃんが失礼だろと大福ちゃんを肘で突くが、私は別に不快には思わなかった。むしろ気に入った。


「別に人の生き血を啜ってるからこんな見た目になってるわけじゃないから安心してくれ。ちなみに、血は苦手だけどトマトとかトマトジュースは好きだぞ」


「そうなんだ。覚えとこ。ちなみに誕生日いつ?」


「一月一日」


 大福ちゃんの質問に、私の代わりに心愛ちゃんが答える。


「えっ、なんで知ってんの心愛ちゃん」


「入学式の時に話したからな」


「うん。毎月一日は小豆の日だから名前があずきになったって聞いた」


「えー。私初耳。ちなみに私の誕生日は二月九日ね。大福の日だよ。だからこの名前になったわけじゃなくてたまたまなんだけど」


 大福ちゃんの誕生日を忘れないようにスマホのカレンダーにメモする。友達の誕生日をカレンダーに書いたのは心愛ちゃんに次いで二人目だ。ちなみに心愛ちゃんの誕生日は九月三日。この日は別にココアの日というわけではない。


「にしても、元旦ってお祝いしづらいなぁ」


「お正月だもんね……」


「ははは。別に無理して当日に祝ってくれなくても良いよ」


「……あずきちゃん、誕生日きたら、二十歳になっちゃうんだね」


「ん? うん」


「……二十歳ってことは、成人だよね」


「うん。そうだね。まぁ、今は十八で成人だけど」


 そうだったねと心愛ちゃんは複雑そうな顔をした後、ハッとして言った。「年齢のこと隠してたこと怒ってるわけじゃないし、あずきちゃんのこと嫌いになったわけじゃないから」と。だけどとこう続ける。「なんか、一気に遠ざかっちゃった気がして」と。

 私は大人で、彼女達はまだ子供だ。私が中学生だった頃君達はまだ小学校低学年だった。それくらいの歳の差がある。本当は五つも年上だけど同級生だから今まで通り気を使わなくて良いと言われてもすぐには難しいだろう。だったら私の方から歩み寄るしかない。彼女の座る椅子に強引に尻を捩じ込んで座る。


「な、なに?」


「……遠ざかった気がするとか言うから近づいてやろうかなと」


「えっ。いや、私が言いたいのは物理的な距離の話じゃなくて」


「うん。分かってるよ。……正直、私は君達のことを未成年として見てる。四つ年下の少年少女だと思ってる。けど、下に見てるわけじゃない。クラスメイトとして対等に見てるつもりだよ。だから年齢のことも話しておきたいと思ってた。最初から話せなかったのはすまなかった。さっきも言ったけど、反応が怖かったんだ。歳が離れてるって言っても一つ二つじゃないし、どう見ても二十歳には見えないしな。年下だと言われた方が納得するだろう」


「……あずきちゃん的にはその見た目は、コンプレックスなの?」


「いや、実はそうでも無い。けど……合法ロリって言われるのだけは勘弁してほしい」


 それを話すと大福ちゃんが「ごめん。それ正直思った」と正直に白状した。

 見た目が幼いアニメキャラは合法ロリとかロリババアとか呼ばれることがあるが、私はあの言い方は好きではない。ロリババアはまだしも、合法ロリは女児だけど手を出しても違法にはならないみたいな言い方でゾッとする。私は大人で女児ではないし、それ以前に意思のある人間だ。そう説明すると大福ちゃんは納得したように頷き「そうだね。ごめん」と頭を下げた。


「良いよ。分かってくれれば。……私は年が明けたらみんなよりも一足先に大人になる。でも、どうか壁は作らないでほしい。作らないでほしいから、自分から話したんだ。歳上扱いされたいからじゃない。むしろされたくない。だから隠し通すことも考えた。けど、何かの拍子に知ってしまう可能性を考えたら、私の口から話した方が良いと思ったんだ。だから……遠ざかった気がするなんて寂しいこと言わないでほしいな」


「……うん。そうだね。私のこと信じて話してくれたんだもんね。ごめん」


 心愛ちゃんはそう言うが、どこか複雑そうだった。まだ心の中では整理がついていないのだろう。先生も言っていた。最初は浮いていたと。だけど、それは最初だけだったと。私も彼女達と仲良くなれる。そう信じたい。

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