13.毒を孕んで
賢彦が話した持田と亀井殺しは、殆ど達巳が言った通りだった。
乙津殺害の犯人が「人魚」という衝撃的な一言の真相が気になってそわそわする誠一をよそに、賢彦は順序を踏まえて話した。
持田は三波クリニックで毒を盛った後、腹を紐で括ったナイフで刺し、傷口から血液を採取した後、車で運び、目立たぬ崖から遺棄。ナイフは回収し――首尾よく失血死する。
亀井は発見現場である山に、登藤
自分の下足痕は、モモを理由に改めて山を登れば帳消しにできる。
傘の件で動揺した筈の言葉は、再び滑らかに綴られていた。決まりきったシナリオのようで、演出家がオペラの一場面を話すようでもあった。
「一年前、僕は『エデン』に乗船して乙津と取引をしました。僕の望みは、潮見
誠一もそうだったが、殺害の経緯を推理した達巳は更に深刻な顔をしていた。
「持田と亀井が、清香さん殺害の犯人だと……乙津が喋ったのですか?」
「そうです。乙津は仕事で国外に出ていた彼らを島に呼びました。彼らが百江に来られるまで、一年を要してしまいましたが」
一年か。二年前に淋が戻ってからの妙なタイムラグの内、一年は説明がつくが、最初の一年……淋が無事だったのは何故なのだろう?
尋ねたい気持ちを抑えつつ、誠一は話に耳を傾けた。
「乙津は彼らを裏切りましたが……僕も、初めから彼を裏切るつもりでした。清香さんの死に最も関わっていたのが乙津であるのは、『エデン』で会った
――予想……その程度で殺しに踏み切れるだろうか。
寿々子も、乙津を「嫌なヤツ」と言っていたが、犯人である確証には至らない。
「後は簡単です。スコールの日、二人を連れて行くフリをして乙津に会い、同じ方法で殺害しました。使用した毒は全て、イモガイ――アンボイナガイのものです。ごく少量、彼らが動けなくなる程度に使いました」
清聴していた末永が、ちらりと達巳と視線を交わし、ごく穏やかに訊ねた。
「先ほどの件ですが――傘で合図を送ろうとした人物は誰です?」
「――淋くんに」
はっきりした一言に誠一はどきりとしたが、すぐに首を振った。
「淋なら……駅に行かないと思いますけど……」
「本当は行く予定だったんです。そもそも……アリバイの為に島では珍しい防犯カメラに映ってもらうつもりだったんです。偶然、菜々ちゃんにも会えたし、スコールが降ったのもありますが、大鳥さんと一緒に居た方が間違いないと思ったのでしょう」
「先生は……淋が疑われないように、そう指示したんですか?」
「そうです。彼が真っ先に疑われるのは、事件後を見てご存知ですよね?」
そう言われれば……そうなのかもしれないが――……
「……違う。先生……俺は淋とその件を話していますが、あいつは――」
「そうそう――下手な芝居はやめろよ、賢ちゃん」
誠一の言葉に乗って響いた声に、皆が振り返った。
襖に手を掛け、片手に似合わないトートバッグをぶら下げた淋は、涼やかな容貌で賢彦を睨んだ。
「り、淋……なんで此処に……!」
呻いた賢彦同様、後退ったのは町長だった。淋の後ろに幽霊のように立っていた人物に目を見開く。
「
声を掛けられた三波夫人は、仕立ての好いワンピースを纏い、若々しい化粧をしていたが、顔色は蒼白だった。
「蓮美おばさんは、皆に話があるんだよ」
「淋、何言ってる……母さんは――……」
「話すだろ? 蓮美おばさん。息子には、とっくにバレてんだから」
賢彦の言葉を遮る淋に声を掛けられ、三波夫人はびくりと身を震わせてから、引きつった声で話し始めた。
「わ、わたくし……悔しくて……――」
――悔しくて?
唐突に飛び出た謎の言葉に、誠一のみならず、淋以外の皆が眉を寄せた。
「あ、あの女……潮見清香と淋、月島寿々子を……売ったのは……わたくしです……」
「違う!」
弾かれるように叫んだ賢彦が、彼とは思えない鋭い目で淋を睨んだ。
「淋……! 母さんに何を言わせて――」
「賢ちゃんらしくないね。とぼけるなら、もっと上手くやれよ」
淋の目も、幼馴染を見る目ではない。いつか、きつく睨まれた経験のある誠一でも、あれが生温いものだったのは一目瞭然だった。
「証拠ならあるよ。何なら動機も俺が話そうか?」
挑むような目で差し出した『それ』に一同は胡乱げな顔になった。誠一だけは、片手の白い電源タップにはっとしたが、今一人はもう片手に乗っていたものに、もろに狼狽えた声を上げていた。
「ど……どこでそれを……!?」
喘いだのは三波町長だった。釘付けになっているのは、タップではない方――大きく丸いボタンのような謎の貴金属だった。
「き、貴様、まさか盗んだのか……!?」
まなじり裂いて声を上げる町長を、淋は興が削がれたような顔で見た。
「町長サン、あんまり面白い言い掛かりはやめてよ。それじゃあ、あんたがこれの持ち主で、無くしていたって白状するんだな?」
「な、何だと――……」
呻く町長に対し、冷静な表情の末永が、手袋をはめながら淋につかつかと歩み寄った。
「見せて頂いても宜しいですか?」
恭しく差し出されたものを末永は几帳面に受け取って、鑑定士のように眺めた。
「ループタイ用の金具ですね」
町長の胸にループタイが掛かっているのを、末永は鋭い眼差しで確認した。
「記念品のようです。裏面は――ほう、有名大学の校章と『Takatsugu Minami.』――お名前が彫られています。卒業記念か何かでしょうか。町長、こちらはいつ頃、何処で無くされたのです?」
町長は顔を青黒くさせて、わなわなと震えていた。答えることもできない町長に、末永は諦めたのか、淋に向き直った。
「潮見くんはご存知ですか?」
「九年前、3月7日の夜明け前、ハンドレッド・ベイで――」
「……ち、違う……!! デタラメだ!!」
「では、どちらで?」
「お、覚えているものか……!」
「――あ、すみません警部サン、確かにデタラメ……間違えました。あれは九年前じゃなくて――……」
澄まし顔でいけしゃあしゃあと述べる淋の一言に、町長の喉がひゅっと鳴ったようだった。
「もっと前――二十七年前、島の外でだ。あんたと母さんが、俺について揉めたとき、無くしたんだよね? まあ、俺は赤ちゃんだったけど」
一同の顔色が変わった。急に視線を集めた町長は、首を振りながら後退った。
「……し、知らん……私は何も――」
「母さんは、コレを大事に隠してたよ。今日みたいな日が来ると思ってたのかな?」
淋のセリフは、地獄から這い出たようだった。
「だっ……黙れッ!!」
口角泡を吹き出して喚く男を一瞥して、淋はひょいともう片手を突き出した。
「足りないなら、これもあげるよ」
すかさず目を細めたのは末永だ。
「電源タップですね」
「……に、見せ掛けたアレですけど」
「なるほど、盗聴機ですか」
解釈の早い末永に手渡されるそれを目で追いながら、誠一は自分が当事者であるように狼狽えた。
「……り、淋……それ、まさか……」
「あぁ……安心しなよ、誠一くん。これはあんたに見せたのとは別」
裏のアルファベットを見てごらん、と言われて、末永の手から確認して気付いた。
よく見ると、以前見たものよりも表面がうっすら黄ばみ、古いもののようだった。
「じゃあ……これは?」
「さあて……これを仕掛けた悪戯っ子は誰だっけ?」
淋の目は、セリフほど勿体つけなかった。目線の先で表情を強張らせていたのは、賢彦だった。
「若気の至りだよね、賢ちゃん。でも、コイツはとんでもない内容を拾ったんだ。そうだろ?」
「……」
「……た、賢彦……お前――!」
「お父さん、少し静かにして下さい」
その声は、苛立つような響きだった。
「――そうですよ。その盗聴器は僕が仕掛け、父の……いいえ、僕らの秘密を聞きました」
町長の顔から血の気が引く音が聴こえるようだった。
「僕と淋が、異母兄弟であることを」
「異母兄弟……! 淋と、賢彦先生が……?」
――あれは殆ど兄弟てカンジね――寿々子のセリフが胸に反芻する。
場が静まり返り、真夏から突如、氷室に押し込まれた心地がした。
「……よくわからないのですが」
おどろおどろしい沈黙を破ったのは末永だ。
彼は冷静な顔つきのまま、周囲を見渡した。
「まず、賢彦先生が盗聴器を仕掛けたのは何故です?」
「彼の母……清香さんのことを知りたかったからです」
答える賢彦もその母も、胸を病んだような顔をしている。末永は軽く頷いて、顎を撫でた。
「では、『海隠し』の犯人は三波蓮美さんで、今回の殺人事件の犯人は三波賢彦さんということですか?」
一連の告白からはそうなる。しかし、まだ賢彦は乙津の件に「人魚」の謎を残したままだ。
「潮見さん……貴方は、スコールの日、月島さんが持っていたクリニックの傘の件にお心当たりはありますか?」
「何のことやら」
首を振る淋に頷いて、末永は賢彦を振り返った。
「では話して頂きましょう。あの傘でメッセージを送った人物が、本当は誰なのか」
「……」
いつかの誠一のようにぎゅっと拳を握った賢彦は、急に重い荷を背負ったように肩を落とした。
「……登藤八千代さんです」
達巳が顔を上げた。
「そうですか――三波蓮美さん……先ほど貴方は、その名前を仰らなかったですね? 貴方の計画に、登藤さんは含まれていなかったのですか?」
「は、はい……わたくしも新聞を見て……何がどうしたのかと――」
「貴方が取引をなさったのは、乙津ですか?」
「ええ……そうです……」
「受け取った金額には――登藤八千代さんの分は含まれていましたか?」
「金額? いえ、私はむしろ乙津に報酬を――」
「わかりました。では、三波町長」
さらりと振り返った警部に、町長は小柄な身をぎくりと震わせた。
「ハンドレッド・ベイが立ち入り禁止の理由をお聞かせください」
「な……なんだと?」
「ハンドレッド・ベイが、立ち入り禁止である真の理由です」
一体、末永は何を言っているのか?
誠一は腑に落ちない顔のまま、本物の敏腕警部に睨まれた町長を見ていたが、その顔がどんどん青くなるのはよくわかった。
「そ、それは……離岸流事故が――――」
「町長、時間の無駄です。その言い訳はもはや不可能であることが今すぐ立証できます。ご自身の町の警官を、あまり甘く見ないで頂きたい」
末永は冷静な顔つきだったが、声には今日一の苛立ちを含んでいた。さあ、と促されて、嫌な脂が浮いてきた町長の額に、冷や汗が滲んだ気がした。
「……い、遺体が――……奴らの遺体があるから――……」
引きつった言葉に、驚く間を与えず、末永は頷いた。
「どこの誰の遺体です?」
「教会だ!」
ついに狂ったように町長は叫んだ。
「あの入り江には……売り飛ばせない奴らの遺体が沈んでるんだ!」
だから何だとでも言い出しそうな叫びだった。タガが外れたように尚も吠える。
「仕方ないだろう! あいつら……これまで『海隠し』の件で使ってやったというのに……あんなボロ教会の再建費用をなどと言い出しおって――出せないなら訴えるなどと言い出したんだ!」
「登藤八千代さんは、ハンドレッド・ベイの観光地化を提案していたそうですね」
「そうだ……あの小娘……よそ者のくせに口やかましく……! 地域起こしなどと……バカバカしい! 何も知らんくせに!」
「だから貴方は、こっそり奥様の計画に上乗せし、登藤八千代さんを『エデン』に乗せようとした。しかし、直前で問題がわかった。――『エデン』の正規スタッフに、彼女の兄が居たから。急遽、乗せるわけにいかなくなった」
万が一、船内で鉢合わせでもしたら、兄の目はごまかせない――その上、登藤は至極まともなスタッフの一人だ。絶対にぼろが出る。
悪徳企業が瓦解するきっかけは、多くが内部告発だ。
「だが、八千代さんをそのままにしては、海隠しの件も、教会関係者の遺体遺棄の件も、いずれはバレてしまう――とにかく、彼女をどうにかする必要があった。だが、殺人は大いにまずい――あの当時、台風で被害を受けた百江では、復興の為に外部の人間も多く入っていましたし、自衛隊や報道陣も居ましたからね。何処で何が目撃されるかわからない」
「……」
「体よく島から追い出す方法――貴方の持てる力を使うとしたら」
末永の目が、猫のようにすっと細められた。
「浅ましい警官を買収し、迷惑行為を訴えるのが最も楽でしょうね」
ほぼ、正解なのだろう。三波町長の冷や汗が見えるようだった。
「長く同じものを一つ所に置き続けるのは良くないですね。腐敗の温床になる……おかげさまで、尊敬されるべき先輩は、美味い餌にありついて肥え太っていました。貴方の望み通りにワンと鳴いて尾を振る程度には」
鼻で笑ったのは淋だった。
「なるほどね……他ならわかんないけど、この島なら、島民が迷惑を受けたって言えば皆信じるもんな。警察が後押しすりゃ尚更」
「…………」
三波町長はへらへら笑う淋――もう一人の息子を青筋浮きそうな表情で睨みつけたが、反論はしなかった。
「如何ですか町長?」
最高に厭味な問い掛けに、町長は歯軋りで答えた。
「……そうだ。だが、小娘は出て行ったのではない。勝手に消えた。私は知らん……!」
「彼女は……自ら消えたということですか?」
「そうだよ、誠一くん。なんで消えたかは俺が知ってる。賢ちゃんもね」
すると淋は、真剣な眼差しをしていた達巳に向き直り、彼にしては愁傷に頭を下げた。
「ごめんね、達巳さん。夏子さんには話してあげたかったんだけど、八千代さんが駄目だって言ったんだ。二人のことは好きだけど、警察は信用できないからって」
耳が痛いセリフだったが、達巳は何も言わずに首を振った。
「淋くん……八千代さんは、何をするつもりだったんだ?」
「調べるつもりだったんだ。教会関係者がどうなったのか」
「教会の――……では、ハンドレッド・ベイを?」
「そう。登藤八千代ってのは、日本での名前。本当は
これには彼女を知る達巳も驚いたらしい。
「楊……? それはタマさんの――……いや、何故……淋くんがそのことを……?」
「同志だから」
謎めいた言葉を口にすると、淋はにっこり笑って末永を振り返った。
「沢村館長もグルだ。此処にメモもあるけど――沢村さんは、彼女が夜に潜れるように手配してた」
淋が人魚姫の絵本から取り出したメモを末永に差し出し、彼がそれを検める間、誠一はふと気が付いた。
「……お前が、ハンドレッド・ベイに出入りしてたのは……」
「そ。見張るためだよ。八千代さんが探し物をしてる間に、邪魔が入らないようにね。俺が居れば、大抵の奴は俺に注目するだろ? しょっちゅう行けば行くほど、印象は強くなるよね」
確かに、これ以上ない目くらましだ。現に誠一も、ハンドレッド・ベイを見下ろす度に淋のことを考える羽目になった。
「待てよ、じゃあ……あの三人が殺されたのは……?」
「殺されたんじゃなくて……『殺されたことにした』ってのはどう?」
提案を口にするような淋が見ているのは、賢彦だ。
その顔に、出足の余裕は皆無だった。
「勝手に死ぬように仕組んだのは賢ちゃんだから、犯罪者なのは変わりないかな。だろ?」
淋がぞろりと口にした言葉に、賢彦は身を固くしたようだった。
「――お前は……本当に容赦がない……」
悲し気な呟きと共に、賢彦は深い溜息を吐いてから顔を上げた。
「……そうです。確かに僕は、先にお話しした計画を実行するつもりでした。しかし、偶然が重なって……真実は異なります」
描いたシナリオが、ひとつ、またひとつ崩れるように、彼の表情もようやく嘘が剥がれ落ちた素面になったように見えた。
「……まず、持田と亀井が百江に来たのは、乙津に呼ばれたからでも、淋を手に入れる為でもありません」
賢彦の言葉に、末永は興味深そうに顎を撫でた。
「それは……これまでの推測を根底から覆す話ですね」
「持田と亀井の目的は乙津本人の見張りです」
「ふむ。乙津は何をしに……百江に?」
「百江そのものへの用が表向きで、彼自身は淋と八千代さんが狙いでした」
思わず見てしまった誠一に、淋は苦笑して肩をすくめた。
「僕は二年前……戻ってきた淋に、清香さんたちの行方を問い詰めました。でも、彼は話さなかった。僕が清香さんの復讐に走ると思ったからでしょう……――仕方なく、彼が戻るまでの足取りを追い、一年前にエデンに辿り着きました」
「乙津とは、そこで?」
「はい。彼は僕の名前を知ってすぐに気付いた。そこで、僕は九年前……いや、それ以前にも、うちの家が何をしてきたのか知りました」
町長夫妻は、もはや項垂れて声も出ない。
「当時の乙津は、淋が抜けたことで利益の損失に悩まされ、上役は淋が生存していた場合、エデンの秘密フロアが世間に知られるのを恐れ、移転を予定していました。その移転先を――百江にすることを検討していたんです」
「こ、この島に――あんな施設を……?」
恐ろしい企みに呻いた誠一に、賢彦はそっと頷いた。
「企画が通らなければ、乙津は降格……いえ、本当はもっと重い処分だったのでしょう。彼は必死でした。僕に、父さん――町長の説得を依頼し、できなければ月島寿々子さんを国外に売却すると言い出しました。もともと、僕のせいで巻き込まれた彼女を、これ以上辛い目に遭わせるわけにはいかない……僕は彼女の解放を条件に、奴の依頼を呑みました。しかし、乙津が約束を守る保障は無いですし、そのままにすれば、いつ、淋が犠牲になるかわからない……だから僕は持田と亀井にも接触しました。乙津が利益を持ち逃げしようとしている嘘と、淋を連れて別の商売を目論んでいることを吹聴して――彼らは安易に信じましたよ。奴が社への報告なしにこの家をよく訪れ、偽名を名乗り、淋に接触し、更に淋が客を取っているかのように見えれば――何かあるとしか思えませんから」
「では、図書館の『見つけた』というメモは……」
「乙津の行動に対し、社への造反の証拠を『見つけた』と記したのだと思います」
「彼らがメモでやり取りをするよう仕向けたのも、先生ですか?」
「ええ……僕はいわば、彼らにとっての二重スパイです。不意の電話やメールで感付かれては困ると告げ、そうさせました。公共施設でやり取りをしてくれれば、彼らの関係性は曖昧になりますし、スタッフに彼らを認識させることもできます。……僕が、『確認しない』ことも、彼らにはわかりません。その点では、大鳥さんも利用させて頂いたことになります」
「お、俺ですか?」
自身を指差す誠一に、賢彦は“彼らしい”穏やかな笑みを僅かに浮かべて頷いた。
「貴方がこまめにパトロールをして、島民と接していたからです。彼らも貴方の姿は、僕の周囲は勿論、図書館や、マークしている淋くんの近くに居るのを見ていた筈。彼らが面倒な連絡方法をしたのも、直接的な接触が殆ど無かったのも、貴方が居たからですよ」
きょとんとしてしまった誠一を、小馬鹿にするような顔で淋が見た。
「褒められてんだよ、お節介のお巡りさん」
「ひ、一言多いんだよ、お前は……」
気恥ずかしそうに頭を掻きながら、誠一は賢彦を見上げた。
「では、持田と亀井はどうして……乙津がやったんですか?」
「事故死ですが、正確には、殺人でしょう。死ぬとわかる場所に行くよう仕向ければ」
再び冷たくなる賢彦の言葉は、深い海の底から囁かれるようだった。
「何の装備も無くハンドレッド・ベイに潜れば、高確率で例のイモガイに刺されます。この入り江の位置から救急車を呼んでも、まず、間に合いませんし、この入り江は途中から急に深くなるので、大の大人を泳いで救助するのはまず不可能です。ボートを用意する手間をかけている内に、毒或いは麻痺によって溺れ死ぬでしょう」
「持田と亀井が……ハンドレッド・ベイに潜るよう仕向けた……と?」
末永の一言に、賢彦は蒼白な顔で頷きかけたが、先に声を上げたのは淋だ。
「そうさせたのは、乙津だよ」
口を挟んだ淋をちらと見てから、賢彦は諦めた顔つきで頷いた。
「乙津が当初、会社の指示で百江に来たのは事実です。ですが、淋が生きていたことと、うちの両親が金を出すことを確認すると、奴は考えを変えた。パラダイス・チケットを裏切り、淋を連れて逃亡することを目論んだ。その為には、持田と亀井が邪魔だったのでしょう……」
「……どうせ、あそこに何か隠したとか言ったんだろ。あいつの事だし、『エデン』の売り上げをくすねたりしてたんじゃないの。ハンドレッド・ベイが突然深くなる入り江だってことも、イモガイが居る事だって、知らない人にはわからない。乙津は九年前此処に来てるから、二人より土地勘はあったってこと」
そう、あの入り江は何の説明書きも、何なら遊泳禁止の看板さえ出ていない。唯一の出入り口に立ち入り禁止と記されているだけなので、入ってしまうと危険を感じるものは何もない。
むしろ、綺麗なのだ。あの入り江は。引き込まれるようなブルーと白い砂浜。不気味なぐらいの静けさと、人がにわかに立ち入らぬ神秘性。
戯れに、人魚と出会いそうな。
「死んだ二人を、どうやって回収なさったんです?」
「……途中までは、二人とも懸命に浜に戻ろうと泳いできたと思いますよ……その後は特に何も。少し待てば、腰高の位置まで流されてきますから、引き上げるのはそう難しくない。この結果だけでも、離岸流の話が眉唾であるとわかりますね」
町長の肩が細かに震えていたが、賢彦はそちらを振り向くこともなかった。
「後は、乙津の連絡を受けた僕が、ご説明した通りに遺体を処理しました。亀井の遺体だけ移動させたのは、ハンドレッド・ベイが殺害現場だと悟られたくなかったからです。あの場を調べられれば、教会関係者の白骨体が発見されてしまう可能性がありました。乙津が父を強請るつもりのネタを先に警察に渡したくないのは、当然のことです」
「その乙津を殺したのは……人魚だと仰いましたね。合図を送りたかった――登藤八千代さんと、同一人物ですか?」
「……」
沈黙は、肯定のようだった。末永は尚も鋭い視線を向ける。
「今、彼女は何処に? ……いえ……そもそも、彼女はこの島の何処に潜伏していたんです?」
「潜伏先は……図書館では、ありませんか?」
呟いたのは、誠一だった。
「変だと思っていたんです……公共施設なのに、今時、セキュリティが無いなんて」
玄関にセキュリティはなし。鍵も特殊なキーでもなく、電子ロックすら無い。二階はスタッフ以外立ち入り禁止。しかも、スタッフの殆どは階段に程近い休憩室にしか入らない。休憩室は水も出るし、電子レンジもある。更にこの施設はもとは人が住んでいた洋館だ。
奥の部屋には、寝室、或いは風呂場などもあるのではないか?
「ようやく冴えてきたね」
小生意気な淋に、誠一は悔し気にしつつも肩をすくめた。
「わからないのはお前だよ、淋。『同志』ってのは何なんだ? 乙津を殺した犯人は、本当に八千代さんなのか?」
「いっぺんに聞かないでほしいな。俺の『同志』は同じ境遇のお友達。殺人犯は、八千代さんじゃないよ」
意外にも、あっさり淋は答えたが、聞いて尚、腑に落ちない。
「では、誰が?」
「海に居るものだろ?」
ちらりと賢彦を見、淋は言った。
「言っとくけど、八千代さんが人殺しなんてする筈ないよ。俺の足を治療した病院の看護士さんなんだから」
「看護士?」
「そう。ダイビングは趣味で、日本や海外でも潜ってる」
「待て待て、頭が追い付かない。一から説明してくれ」
頭を抱えた誠一に、淋はちらりと末永を見、彼が頷いたので話してくれた。
「『エデン』から海に飛び降りた俺を助けてくれた病院に居たのが、九年前に百江を脱出した八千代さん――雅玲さんだったんだ」
走馬灯かな、と思いながら……淋は目を覚ました。
溺れて沈んだと思ったのに、気付けば病院のベッドだった。
「……あの、」
突然喋ったので、医師と思しき男は少し驚いたようだった。
「……俺、生きてるんですか?」
か細い問い掛けに、医師は二度瞬いて、何か喋った。
淋は少々面食らった。日本語ではない。全くわからないが、中国語だろうか?
医師は二人の看護師と会話し、淋にはにこりと微笑んだ。
看護師の一人が出て行き、しばらくするとパタパタと走って来る音が響き、ささっと別の看護師が入って来た。スポーツが好きそうなスレンダーな印象の綺麗な人だ。
女性にしてはかなり短い髪をした彼女は、淋の傍に歩み寄り、その顔をまじまじと見つめてから、医師に頷いた。
二人はやや深刻そうな顔で何事か話し合っていたが、やがて医師は淋の手をぽんぽんと優しく叩いて立ち上がり、もう一人の看護師と共に去って行った。
残されたスレンダーな看護師を見上げると、彼女はにこと小さく微笑み、声を出した。
「ワタシの言葉、わかる?」
いくらかたどたどしい日本語を紡いだ女性に、淋が驚いて頷くと、ほっとしたように彼女は胸を撫でおろした。
「アナタ、潮見淋サンでしょう?」
「……どうして、俺の名前を……」
まさか、あの連中の――微かに腰を浮かせて、左足から鋭く響いた痛みに淋は呻いた。看護師はそっと淋の手を取り、静かだが、確かな声で言った。
「心配しないデ。ワタシはアナタの味方。百江島の……『海隠し』の秘密を調べテいます」
「『海隠し』……? あんた一体誰? 此処は何処なんだ?」
「ワタシは
そこまで言われて、淋も気付いた。
『エデン』に連れて行かれる前に、百江を訪れていた女性だ。以前はもう少し長い髪で、化粧もしっかりしたスーツ姿だった為、印象がまるで違う。観光地を新規開拓する事業者を名乗り、ダイビング好きとして、泳ぎの上手い夏子と親しくしていた。
「あんた……俺が何処に居たか、知ってるの……?」
「……ある程度ハ。ワタシも狙われていたから」
すると、雅玲は淋の手を取ったまま、祈る様に頭を垂れた。
「ごめんなさい。アナタたちを助ける、できなかた。日本の警察、信用できナイ。もと、証拠が必要。お金も……」
「まず、足治さなくテは。アナタ若い。すぐ良くなる」
雅玲は穏やかに言った。淋はその温かい色の目を見つめていたが、不意に胸が苦しくなった。
「俺は――…………」
カラカラに乾いている喉と裏腹に、涙がこぼれた。
「……俺は……、俺なんか……海に沈めば良かったのに……!」
「潮見サン」
「なんで助けた……!」
あらゆる痛みに顔を歪めた淋を、雅玲はそっと抱き締めた。
「落ち着いテ。大丈夫。此処に魔物は来ない。足治しテ、他のことは、それから考エましょう」
「それが、三年前のこと」
海の底のように静まった部屋で、淋は言った。
話の途中から末永が何かに気付いたらしく、何処かに連絡をしていたが、淋は気にせず話した。
「俺は左足を治療しながら、雅玲さんに色々聞かせてもらった。俺たちより前の『海隠し』で、行方不明になった外国人が大勢いること。その中に、雅玲さんの親戚が居たこと。彼女は捜索を依頼したけど、日本警察は事故と断定して相手にしなかった。だから彼女は独自に調べる為に、百江に来た。町長の反応がわかりやす過ぎて、すぐに確信したってさ」
顔も上げられない実父を見る淋の目は、ごみ溜めの害虫を見るよりも冷たい。
「一年考えて、俺は彼女に協力することにした。だから二年前、百江に戻った。俺が戻れば、島民も、『エデン』の連中も、関わった全員が俺に注目する。それに紛れて、雅玲さんは島に入ったんだ」
「そうか――……淋くんが、観光シーズンに戻って来たのは……」
思わず呟いた達巳に、淋は頷いた。
「そう。百江に部外者が入ってもおかしくないシーズンはそこしかない。それに、俺が目立てば、尚更、他の人は気にならなくなる。大荷物の人が、タクシーで図書館に来てもね」
「今も、彼女は図書館に?」
「まさか。とっくに島を出たよ」
あっさり答えた淋に、訊ねた末永も瞠目した。それも観光シーズン? だとしたら、彼女がこの事件に関わることはできない筈だ。
「つい最近、有ったろ? 大勢の部外者が入って来たことが、二回くらい」
『マスコミか……!』
声をハモらせた本物の敏腕捜査官である達巳と末永に、淋が愉快そうに笑った。
「そうさ。図書館にすし詰めになった連中。あれが引き揚げる時に一緒に出たよ」
確かにマスコミに紛れれば、大きな機材や荷物を持っていたり、あまり見られない車を運転していても怪しまれない。
「では、彼女は……」
「台湾で、遺骨の鑑定中」
「貴様あッッ!!」
突如、噴火のような大声を上げたのは町長だ。
淋に体当たりするように肉薄した男を、すんでのところで賢彦が受け止める。淋はぴくりとも動かず、賢彦を押しのけようと藻掻く男を見据えた。
「なんだその目は! 清香が産むというから見逃してやったんだ……! 出産費用も、養育費も私が出してやったんだぞ! それを……それを、恩を仇で返しおって……!!」
これには誠一も絶句した。恩? 恩とは何のことだ。
勝手に妊娠させておいて、出産を他愛もない出来事のように言うとは……何という言い草だろう。
「父さん……もうやめて下さい……!」
「
刹那、町長の身が弾かれる様に吹き飛んだ。畳に無様に転げた男が、殴られたのだと気付く頃、その襟元を凄まじい力が掴んでいる。
「……誠一くん」
ぽつりと呟いたのは淋だ。突然の激痛に声も出ない町長が仰ぎ見た先では、仁王のように睨み付けてくる男が居た。
「取り消せ……!」
地獄から唸る様に誠一は言った。
「あんたも人の親だろ……! 子供を何だと思ってるんだ!!」
「こ、こいつ――警官の癖に――……」
狼狽える町長と、もう数発は殴りかねない様子の誠一が達巳や警官らによって引き剥がされる。激しく喚きながら暴れる町長を、数名の警官が取り押さえて出て行った。部屋の隅でガタガタと身を震わせた夫人が幼子のように声を上げて泣き始める。
その傍らで賢彦は膝をつき、拳を握りしめて項垂れた。
「……大鳥くん、気持ちはわかるが、暴力はいけない」
優しく肩を叩いて窘めた上司に、誠一は怒りに震える肩を呼吸と共に落とし、頭を下げた。
「……はい。申し訳ありません」
処分は後だと温和に告げた上司に頷いて顔を上げると、こちらを見る淋と目が合う。彼は左足を擦りながら歩み寄ると、黙っている誠一の胸をトンと拳で叩いた。
「バカだな……お節介くん」
「……そうだな。俺はバカだから、つい、やっちまった」
苦笑した淋が首を振る。
「……ありがと」
ひどく小さな声は、泡が弾けるようだった。
淋はそのまま、賢彦の後ろに左足を引き摺った。
「賢ちゃん、裏切ってごめん」
「……いいんだ、淋……最初に裏切ったのは、僕の方だ」
それは、いつの話なのだろう。彼は脆く崩れそうな笑みを浮かべた。
「お前が来てくれたのは、僕が親を殺すと思ったからだろ?」
「……うん。賢ちゃんが、ずっと母さんのことを好きだったのは、知ってたから」
「僕の部屋は覚えてるか? 荷物の中に、あの貝が居る。持ってきて、警部さんに渡してくれないか」
わかった、と淋は静かに部屋を出て行った。その背を見送りながら、賢彦は独り言のように呟いた。
「本当は……使うつもりだった。……でも、人間の責めを……貝に委ねるなんて、あまりにも卑怯だ……」
それは、生き物に謝るような響きだった。
彼が多くの生物を心から愛するのは本当だとわかる。意思疎通ができる筈の同族だけが、彼を愛するあまり誤り、彼のことを理解できずに利用した。
肩を落とす背に、末永が静かに問うた。
「賢彦先生、乙津殺しの――『人魚』の正体をお教え願えますか」
「……イルカンジクラゲです」
奇妙な呪文のような響きに末永さえ目を瞬いたが、賢彦は振り向いて静かに答えた。
「コブラの百倍の猛毒を持つクラゲです。傘は二センチ程度、触手は長くて数十センチになりますが、ほぼ透明なので姿は殆ど見えません。オーストラリア近海に生息し、現地人には長いこと『怪物』と恐れられた生物です。昨今、日本近海にもいるオーストラリアウンバチクラゲの毒性に比べれば良い方ですが、刺されたことには気づきにくい上、急ぎ対処しなければモルヒネが効かない程の激痛の末、死に至ります」
淀みない解説をした後、賢彦は溜息を吐いた。
「乙津が直接洩らすことはありませんでしたが、八千代さん――雅玲さんの存在は薄々感付いていたと思います。彼が淋を連れ去らずにいつまでも百江に駐留していたのは、彼女を捕まえる為に図書館を張っていたのでしょう。彼女と乙津は、九年前に会っていますからね。乙津は彼女が生きていることに身の危険を感じていたでしょうし、見張りの二人を始末した後、会社が次の手を打つ前に、拉致の方向で狙っていたはず。あのスコールの日、確信を得たのかもしれない」
あの日、乙津は禁じられている二階に踏み込むと言った。既に持田と亀井の件で賢彦を共犯者だと思っている乙津は、雅玲の件でも助けを乞おうと電話をかけてきた。
「夕刻に例の女を狙う。先生、車を出してくれるか」
この呼び出しに応じる前に、賢彦は帰宅する菜々子に傘を持たせた。危険を報せる為ではなく、今日中に乙津を捕えるという意味で。
「信じて頂けるかわかりませんが、僕らは乙津を殺すつもりはありませんでした。あの男が死んでしまうと、『エデン』の全容解明が難しくなる。『パラダイス・チケット』を完全に潰し、同系統の犯罪が二度と起きないよう、突き出すつもりでした。だから僕らは待っていたんです……あの男が淋、若しくは雅玲さんのどちらかを拉致しようとする瞬間を」
狙い定めた雅玲は、首尾よく逃走した。逃げ出す彼女を追って、乙津はハンドレッド・ベイに入り込んだ。フリーダイビング用のスーツを着た雅玲はそれこそ人魚のように瞬く間に沖に逃げ、賢彦の到着を待ち、乙津を確保するつもりだった。
一方、腰高の位置まで追った乙津だったが、イモガイの脅威を知る彼は深い場所まで行くことを躊躇い、浜で待ち伏せようと考えた。
どうせ、周囲でまともに上がれる浜辺は此処だけだ。
スコールが降り始めた中、忌々しそうに弾ける海を掻き分け、乙津は浜に戻った筈だった。賢彦は人目に付かぬよう、図書館ではない場所に車を停め、ハンドレッド・ベイに急いだ。
だが、そこに居たのは、雅玲だけだった。
正確には雨を避ける観光客めいた様子でトンネルの奥に立っていた。
「……そんなところで、何を……?」
声を掛けた賢彦に、雅玲は首を振った。
「彼、沈んダ……『目に見えない殺人鬼』の仕業と思ウ」
「それが……そのクラゲですか……?」
そこにちょうど、淋が戻って来た。一見、砂と水しか入っていないような小さな瓶を、末永に手渡す。つい、危険クラゲの海に
末永も瓶を眺めつつ、同様の疑問が浮かんだようだ。
「些か、腑に落ちませんね。スーツを着ていた雅玲さんはともかく、幾度も素足でハンドレッド・ベイに浸かっていた潮見さんが刺されず、たった一度の偶然で乙津が刺される……確率としては、割に合いませんが」
誰かが、クラゲを放ったと考える方が現実みがある。そう告げる末永に、賢彦は顔を上げた。
「だから僕は……人魚の仕業だと思うんです」
泣いているのか笑っているのか、危うい表情で賢彦は言った。
「前の二人も一緒です。人魚の海に、薄汚い人間が踏み入るのを許さなかった……」
その胸に映る人魚は、
「何にせよ、僕に言えるのはこれだけです。あとは、雅玲さんの証言を取って下さい。僕は逃げも隠れもしませんから。刑務所だろうと、牢屋だろうと、何処にでも行きます」
夫人がひきつった嗚咽にむせぶ。静まり返るタイミングに合わせたか、誰かがドタバタと走ってくる音が聴こえてきた。
「警部!」
慌てふためき飛び込んできた警官は、とんでもない一言を放った。
「三波町長が、刺されました……!!」
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