第4話 底なしに厚かましく愚かな犯人たち

松本の断末魔の悲鳴が真夜中に響き渡るなど明らかな異常事態が起きていたにもかかわらず、近所の住民は誰も通報しなかったらしい。

犯行が発覚したのは、何と二日も後の2月18日午前10時半ごろだった。


それは和歌山県の松本浩二の母が「16日から息子が電話に出ない」と東京在住の姉、すなわち松本の伯母に様子を見に行ってくれるように依頼したことによる。

この伯母とは出水に奪われた航空大学校への入学祝い金五万円を送った人物だ。


203号室を訪れた伯母は部屋に鍵がかかって応答がないことから不動産会社から合鍵を借りて入ったところ、そこで変わり果てた姿となった甥を発見したのだった。


半狂乱になった伯母の通報で駆け付けた警察の捜査により、すぐに出水智秀と飯田正美が捜査線上に浮かぶ。

勝手に生活していた205号室まで血の足跡が残り、その室内からは血の付いたタオルなどの物証が出てきたし、同じアパートに住む学生が不審な男女を見たという証言もあった。

何より宮崎に逃げていた本来の住民である名尾の口から出水と飯田のことが語られたからである。


捜査本部が置かれた警視庁玉川署はさっそく二人を重要参考人として手配した。


一方の出水と飯田は犯行現場を離れた後、静岡県熱海市へ逃亡。

同市内の銀行で松本から奪ったキャッシュカードで現金を引き出したりして当初はホテルにも宿泊したが、パチンコで使い果たすなどして瞬く間に懐が寂しくなるや熱海市伊豆山にある企業の別荘に入り込んで潜伏した。

またも無断での侵入である。


その間に自分たちに捜査の手が及んでいることを知った。

すでに青山学院大生が自宅アパートで殺されたことがテレビで報じられており、容疑者と疑われている男女が自分たちとしか思えなかったからだ。


22日午後4時、所持金も数十円しかなく、もう逃げきれないと観念した出水が決意したのはまたしても勝手に入り込んだ場所で心中することだった。

他人に迷惑をかけずに死のうという奥ゆかしさはみじんもないのだ。


二人は別荘内の押し入れに入ってガスコンロを持ち込み、ガス心中を図る。

そして今度も腹立たしいことに死ななかった。


出水が信じられないくらいマヌケなことをやらかしたからだ。


最後の一服を吸おうとガスが充満する中でタバコに火をつけたのである。


当然爆発が起こり、火元だった出水は大やけどを負ってのたうち回った。


一方の飯田は軽傷。

苦しむ彼氏を見て夜になって119番通報した結果病院へ運ばれるが、別荘の関係者でないことは明らかであったためにすぐさま熱海署に住居侵入の容疑で逮捕された。

また、青山学院大生殺人の重要参考人であることもその日のうちに分かったことから、翌23日捜査本部のある玉川署に移送される。


同日、両人ともあっさり容疑を認めて強盗殺人容疑で逮捕された。

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