第28話 仕上げ

(遠野視点)

それぞれの課題トレーニングが始まって数日が経ち、遂に課題トレーニング最終日となった。


俺と国吉は引き続き、筋力アップの為のトレーニングを行っており、最初の頃と比べると、腕や肩、腹筋、さらには足の筋肉もつき始めている。今はこういったトレーニングを重点的に行なっているが、通常メニューに戻った後も、筋トレを続けることで、更なる成長が見込めそうだ。俺達の課題トレーニングは順調に進んでいた。


(宮城視点)


僕のスピンとフラットの両立、そしてフラットドライブショットの練習も進んでいた。


「スピン」


「バゴーン」


「フラット」


「ボーン」


「フラットドライブ」


「ボーン」


スピンとフラットの打ち分けはもう完璧だ。ただ、フラットドライブ、このショットはまだ上手くできていない。成功する確率もまだ低い。


「フラットドライブはまだ完成していない。今はフラットとスピンショットをより完璧にしていこう」


「はい!」


フラットドライブはまだだが、着実に成長している実感はあった。後は試合でどれだけやれるか、その領域に入っていた。


(坂田視点)


「ハァ、ハァ」


「ハァ、ハァ、ゴールだな」


「うん」


与那嶺との長距離トレーニングで俺は持久力、足の筋肉増量に成功したと思う。与那嶺は持久力は勿論、スパートするタイミングといったペース配分の力をつけた。2人とも最初よりもどんどん3km走るタイムを縮めていった。


「なあ、後もう半周走らないか?」


「うん。走ろう」


(喜納視点)


「バゴーン」


俺、喜納佳明は課題トレーニングを着実にこなしていた。トレーニングを初めて四日経つ頃にはあの輪っかにボールを安定して入れられるようになっていた。


「今日は俺の勝ちだな」


「昨日は俺の勝ちだったから、まだ負けてない。これで五分だね」


「本当だったら決着つけたかったけど、仕方ない。これは試合で決着つけよう」


「オッケー」


赤嶺は3日目に初めてあの岩を落とし、木村先生から岩の付け方と道具をもらっていた。4日目からは岩を自分で取り付け、そして岩を落とす。その作業を繰り返した。


お互い安定して課題トレーニングをこなせるようになったので赤嶺が1日ごとに、どっちが早く課題トレーニングをこなせるか勝負することになった。対戦成績は今日の俺の勝利で互角の状態になった。俺達はゲーム感覚でこの課題トレーニングを楽しみながら、実力をつけていったのである。


(山田視点)


最後の動体視力トレーニングになった。ここまで阿西は自己ベスト28回、俺は自己ベスト31回まで到達する事ができた。


そして阿西が最後の動体視力トレーニングを行った。最初の時にあった戸惑いから焦って上手く出来なくなるという事は無くなり、冷静にボタンを押していく事が出来ていた。


記録は28回、自己ベストタイ記録だった。


「ふー、俺はここまでかな。山田、後は任せた」


「おう」


俺達は歴代トップ3に入ることを狙っていた。トップ3に入る為には32回以上制限時間内にボタンを押さないといけない。つまり、俺は自己ベストを更新しなければ、トップ3には入れない。これが最後のチャンス。俺は深呼吸をして最後のトレーニングに臨んだ。


スイッチを押して、スタートし、光ったボタンを押し続ける。このトレーニングを数日間やったおかげで周辺視野がだいぶ広くなり、反応もだいぶ良くなったと思う。動体視力が少しずつ鍛えられているのを実感することができていた。


終了の合図がなり、結果の出る場所を見た。記録は33回。自己ベスト、そして歴代2位タイの記録だ。


「やったな!山田!」


「ああ、後はこの鍛えられた部分を試合で出すだけだ」


「そうだな」


「それにこのトレーニングをこれから更に続ければ、もっと動体視力を鍛えられるし、歴代1位も達成できる。これからだ」


「いやはや、凄いなお前は。もう次に向かってる」


「まだまだ満足してないからな」


俺達は確かなトレーニングの成果を得た。だがまだ成長できる。更なる成長の為に自分の出来ることを探したいと思える、ポジティブなトレーニングだった。


(遠野視点)


こうして俺達の課題トレーニングがひとまず終了して、部活の終わりにミーティングが開かれた。


「皆んな、お疲れ様。それぞれ自分の課題と向き合うことはできたか?」


「はい。できました!」


「その様子だと良いトレーニングができたんだな。良かった。今回やった課題トレーニングは今後も家とか部活時間外でもやっていってほしい。これからも続けていけば、また成長できる、もっと強くなれるはずだ。今回、俺が個人的に渡したトレーニング器具はあげるから、是非使ってほしい。そうじゃない皆んなにも後でトレーニング器具を渡すからそれ使ってしっかりトレーニングするように」


「分かりました!」


「そして、明日からミニ部内戦を行う。10ポイントタイブレークで行うぞ」


「それは総当たり戦ですか?」


「いや、今回は1人1試合のみだ。対戦カードも決めている」


「決まってるんですか?」


「ああ、それじゃ対戦カードを発表する。

1試合目 喜納対宮城

2試合目 国吉対赤嶺

3試合目 与那嶺対阿西

4試合目 遠野対坂田


以上だ」


「先生、山田は?」


「山田は今回、山田本人と話し合って、お休みすることになった」


「皆んなの試合を改めて見てみたいとのことだ」


山田が今回の試合に出ないというのは、話しているとおり、まだ部の皆んなのテニスで知らない部分があるから。しかし、理由はそれだけではないはずだ。恐らく、今回の部内戦は実力の近い物同士で対戦カードが組まれている。まだテニスを始めたての国吉、赤嶺が対戦カードに組まれているから間違いないだろう。山田が組まれていない本当の理由は完全な山田の実力にまだ誰も対抗できないと木村先生が判断したから。確かにこの部で唯一ゾーンが使える山田はこの部の中でも、突出した実力を持っている事は間違いない。


だけど…やっぱり悔しい。山田の今の実力に対抗できていないとされているようで、俺は悔しかった。だからこそ、山田を倒せる程に強くなってやりたいとそう思った。それは恐らく他の部員も同じだった。


「対戦カードはこれで大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


「よし。じゃあ、明日からミニ部内戦だ。今日は休んで明日からの練習に備えよう。これでミーティングは終わりだ」


「きょうつけ。ミーティングを終わります」


「ありがとうございました!」


明日からミニ部内戦が始まる。この部内戦で自分の新しい武器というのはイメージできた。そのイメージを形にするトレーニングもした。後は試合で発揮するだけだ。相手は坂田。部内トップクラス、相手にとって不足なし。俺は闘志を燃やしながら帰宅の途についた。




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