第23話 気になるの先

(榎本視点)

私、榎本凛は、同じマネージャーである岩見香里奈と玉城あずみと共に水分補給と栄養摂取の為の飲み物を作ることになった。家庭科室を利用できるということで、家庭科室に移動した私達はそこで飲み物を作る作業に取り掛かっていた。


「凛って料理上手いね〜。手際も良いし。これは凛に全部任せちゃおうかな〜」


「ちょっとあずみ。大変だと思うけど、3人で分担って約束でしょ。ほら、さっさとやる」


「うえーん。厳しいな凛は。こうなったら香里奈に…」


「私も凛さんと同じで厳しいですよ」


「う…鬼…」


出会ってから1〜2週間が経って、私達はお互いを名前で呼び合えるほど、仲を深めることができた。3人で話をする時は、あずみが会話を盛り上げてくれる事が多い。色んな話題を提供してくれている。あずみが香里奈をイジったりしてそれに、香里奈がそれにツッコんだりしている様子も面白い。今、私はこうして楽しい時間を過ごさせてもらっている。元々、交友関係のあった2人に割り込むような形となったので、馴染めるか不安な所もあったけど、2人とも良い子でそんな不安はすぐに無くなった。私は幸運だった。


「よし。後はこれを冷蔵庫に入れるだけ」


飲み物を作り終え、冷蔵庫に持っていこうとすると…


「ドン」


「…っ」


「ごめん。え…あずみ?」


あずみとぶつかったようだ。そしてぶつかったあずみは膝を押さえてうずくまっている。


「あずみさん!」


「あずみ、ごめん!大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ。ちょっと怪我してる所に当たっちゃって」


「怪我してる所…?」


「…そういえば、話してなかったね。私が何でテニス部のマネージャーに入ったのか」


「え…」


「私、中学校の時にハンドボール部だったことは言ったよね。実はそこで膝の大怪我しちゃって、お医者さんから長時間の運動はできないって言われちゃって、だから運動部には入れなくなっちゃったんだ」


「そんな…」


確かにハンドボール部に入ってた人がいくら友達が入るからといって、ルールも余り分からないテニス部のマネージャーをやるだろうか。そういう違和感はあった。まさか、こういった理由があったとは…


「でも、スポーツは好きだったし、何かしら部活には入りたいって思ってたから…」


「それでテニス部のマネージャーに…」


「うん。香里奈も一緒にいるなら良いなと思って…」


「そうだったんだ。ごめん。さっきは怪我した所にぶつかったみたいで」


「ううん。気にしないで。それに、テニス部のマネージャーになって、今、自分にできる事が出来てるって感じがして、とっても楽しいの。

もちろん。怪我した時は辛かったけど、今はそれを忘れちゃうぐらいに充実してるからあんまり気にしてないよ。これは本当だよ」


「そっか…あずみ。これから頑張ろうね」


「ありがとう、凛」


私はあずみとグータッチを交わした。


「ほら、香里奈も」


「私もですか?」


「うん。これから頑張ろうという事で、3人で」


「…ふふ。分かりました」


私は香里奈ともグータッチを交わした。


香里奈とあずみもその後、グータッチを交わしてそれぞれの作業に戻って、いつもの時間がやってきた。皆んな生きていれば、色々ある。でも、お互いに支え合って生きていければ乗り越えられる。そう信じて私は生きる。今もこれからも。


飲み物を作り終えて各トレーニング場所へと向かう事にした。まずテニスコートにいる宮城と木村先生に。その後に赤嶺と喜納のいる壁打ち場へと向かってドリンクを渡した。私達の作ったドリンクは好評だったようで嬉しかった。ドリンクを渡して次の場所へ移動した時、


「ちょっと私、トイレ行ってくるから待っててね」


あずみがそう言って去っていった。そして、私と香里奈の2人になってしまった訳だが、ここで香里奈が私に問いかけた。


「あの…凛さん」


「ん?」


「気になってる事聞いても良いですか?」


「…?答えられるものなら答えるよ」


「凛さんって遠野君の幼馴染でしたよね」


「うん。そうだよ」


「…遠野君の事好きですか?」


「え!?どうしたの急に」


「すみません。少し好奇心で気になって…」


「確かに幼馴染ではあるけど…何で好きって…」


「前、部内戦した時も、遠野君の事よく知ってる感じで、部活の時も、遠野君を見てる回数が多いなと感じたので…」


「そ…そうかな…」


急な香里奈の発言に私は冷静さを失っていた。悠馬とは幼馴染で仲間で友達でそういった感覚で彼と接してきたはずだ。でも、身長が伸びて体格も変わって、大人っぽくなった彼の姿はかっこいいなと思う事があった。そして何よりテニスをしている彼の姿はイキイキしてて、凄く楽しそうで昔の彼を見ているようだった。私はその時の彼の姿が一番カッコいいと思った。でも、それを恋と呼ぶのだろうか…私は異性からそういう感情を向けられた事はあるが、中途半端な気持ちで付き合うという行為はしたくなかったから、断り続けていた。だから、恋愛については分からない部分が多い。


「…好きとまではいかなくても、気になってるはあるかも。でも、それが恋愛的かどうかは分からない。私は今の悠馬と昔の悠馬が違う雰囲気になってて、何かあったのかなって感じで気にはなってたから」


「昔の遠野君はどんな感じだったんですか?」


「明るくて元気いっぱいで外で遊ぶのが大好きな子って感じだった。よく私も一緒に遊んでた」


「確かに今とは結構違う人物像ですね。今は落ち着いてる雰囲気のイメージが強いのに。大人になったとかでしょうか?」


「大人になったんだとは思うんだけれど、本当にそれだけなのかと思ってね。私と悠馬は小3から高1になるまで会ってないから、7年間の間に何かあったのかと思って…」


「遠野君って高1から沖縄に引っ越したんですよね?」


「うん」


香里奈は少し考え込んでいた様子だった。でも、今は個人の感情で相手の事情に入り込みすぎるのも良くないし、それに今、私はテニス部のマネージャーだ。今、やるべきことに集中しないと。


「やっほー。お待たせ」


あずみが戻ってきた。


「何の話してたの?」


「え?」


女の子の勘という物は時折恐ろしい物だ。



(事情を説明した後の会話)



「なるほど…幼馴染同士、これは熱いね…」


「ちょっとからかいすぎ…まだそうと決まった訳じゃないし」


「ごめんね。まあ、時間はいっぱいあるし、自ずと分かってくるんじゃない。恋なのかどうかも、遠野の事も。私は応援してるよ」


あずみがグッと親指を立てていた。あずみも内心、私の気になるとは恋なのだろうと思っているのだろう。やばい。頭の中がそれでどんどんいっぱいになってくる。これからどんな顔で悠馬と会えばいいのか、私は途方に暮れながら飲み物を渡しに行った。



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