第22話 偶然の産物

(宮城視点)

僕、宮城浩司は特別トレーニングを行う事になった。その内容はフラット系ラケットでスピンボールを打てるようになり、尚且つフラットとスピンの使い分けができるようになる事。僕に課せられたトレーニングにはそういった目的があった。しかも、それを顧問の木村先生が直接コーチしてくれるそうだ。こんなチャンスは滅多にない。必ず課題をこなしてみせる。そう決意した。


「宮城、今からスピンをかけるようにする為のコツを教える。そこからストロークの練習をする。それを一通りやったら、次はスピンとフラットの両立ができるように練習するぞ。結構体力使うけど、覚悟はいいか?」


「はい。大丈夫です」


「よし、始めるぞ。まず、スピンをかける練習だな。スピンは前に押すというよりかは、斜め45度にスイングするようなイメージだ。今から打ってみるぞ」


「分かりました」


打ち始めてみると思ったよりも難しい。元々スピンのかかりにくいラケットという事もあるし、今までフラット系ショットばかり打ってきたせいで、スピン系ショットの感覚があまりない。スピンをかけようとしても、ボールが飛ばす、ネットの遥か下、もしくは大きくオーバーしてしまい、コントロールが効かない。


「腕だけで打とうとするな。もっと体全体を使って打つようにするんだ」


「はい!」


そう、僕はスイングの事だけ考える余り、無意識に腕だけのスイングになってしまっていたのだ。そして、僕が今までスピンが得意ではなかったのはこういった理由があったからだ。もっと体を横にしてボールを見て、ボールに体重を乗せるイメージで打つ事が必要。そう意識して次のボールを打った。


「バゴーン」


(いった!)


「ナイスショットだ宮城!今の感じを忘れるな!」


完全にスピンボール。ネットよりも高い所を通り、コートに落ちていくボール。スピンボールが完成された瞬間だった。


「バゴーン!」


「よし、スピンの練習は終了だ。次からは打ち分けの練習だ。俺がスピンって言ったらスピン、フラットって言ったらフラットのボールを打つんだ。いくぞ!」


「スピン」


「バゴーン!」


「フラット」


「ボーン!」


打ち分けは思ったよりもできている。スピンのコツは完全に掴んだ。でも、自分でも分かる。スピンとフラットの時のスイングが違いすぎる。テイクバックが違いすぎるのだ。これを同じにできれば…


僕はそれを意識しながらスピンボールを打った。


「ボゴーン!」


「!」


「!」


「今の…」


今まで打ったボールとはまるで違った。スピンとフラットが両立したショットだった。何でこんなショットを打てたのかは正直分からなかった。でも、このショットが打てるようになれば多くの試合で勝てる。そう信じきれるくらいなショットだ。


「…今のはフラットドライブっていうショットだな。このショットは通常のスピンボールよりも低い弾道で飛んでいくがスピンもかかり、尚且つスピードも両立できるショットだ。難易度が高めのショットだから、この課題が終わったら、挑戦してみるか」


「はい!やってみたいです」


「分かった。よし、トレーニングを続けるぞ」


こうして課題解決に取り組みながら、フラットドライブという新しいショットを身に付けるというやりがいのあるトレーニングは続くのだった。













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