第21話 強くなる為に

(遠野視点)

木村先生から課題トレーニングを言い渡されて翌日、課題トレーニングの日がやってきた。課題トレーニングが行われる期間は、4月中旬の期間となった。この期間は、ずっと課題トレーニングをする訳ではなく、30分はコートで打ち合いをする時間を設けるらしい。個人的にはボールを打つ事が大好きだったので、30分も打てるのは嬉しかった。


俺は先生の言う通り、相手の戦術に対応するのが主なパターンだったので、自分だけの武器が必要だった。もし、自分の武器があれば、自分から試合を組み立て、主導権を握る戦いができるので、その必要性は前から思っていた。しかし、それをたった2試合見ただけで、課題を的確に指摘したあの木村先生も凄いと思った。あの先生は俺達以上にテニスについて知っているのは間違いなかった。山田が前にテニスの事を知っている顧問が良いと話していたが、理想的な人が来てくれたなと思った。


学校の授業が終わり、喜納、山田と共に部室に向かい、部室のドアを開けようとしたその時…


「おっしゃー!」


「うぉあ!?」


突然ドアが開き、勢いよく飛び出してくる人物がいた。俺は驚いて、尻もちをついてしまった。こんなテンション高い奴は、この部活には1人だけだ。そう、絶対にあの人だ。顔を見上げると、俺の予想通りの人物が立っていた。


爽やかな印象のある髪型、整った顔立ちをしている活発な性格の国吉だ。国吉は、俺は学校のスターになると言っていたが、実際、国吉には入学してから1〜2週間しか立っていないが男女問わず知り合い、友達が多くいるようだ。着々とスターの階段を登り始めている彼の姿を下から眺めていると、本当にスターの雰囲気を持っているように見えた。そんな国吉は、尻もちをついている俺を見て、不思議そうな顔になっていた。


「どうした遠野?変なとこに座ってるな」


「違うって。国吉が飛び出してきて驚いて尻もちついちゃっただけだ」


「はは笑。そりゃ、悪かったな。早く打ちたくて仕方なくってよ」


俺達が会話している所に山田も加わり、


「相変わらず早いな。今日も一番乗りだったのか?」


「今日は俺たちじゃなくて、C組の方が早かったぜ。ほら、コートで赤嶺と与那嶺がもう打ち合ってる」


「本当だ」


「でも、良いよな、お前達は。こんなにSHRが早く終わるクラスで。俺達はいつも後からになっちゃう」


「ああ、本当に良い先生に当ったぜ」


羨ましそうにしていた喜納も会話に加わった。


いつも部室に先に来るのは、B組のメンバーが多いが、今回はC組のメンバーの方が早かったようだ。俺達A組も帰りのSHRが終わるのは早い方だが、B組のSHRの終わる早さは尋常じゃない。B組の担任の先生は本当に連絡しておかなければならない事以外は伝えない主義の先生らしく、それがSHRが早く終わる原因のようだった。なので部活に一番乗りで入ってくるのは、B組の国吉、宮城であったのだ。


「今日は、一番早く打てなかったな。でも、次こそは…」


「よし、行こう国吉。僕達も早く打ちたい」


「そうだな。よしレッツゴー!」


あっという間に国吉と宮城がコートの方へ行ってしまった。男子テニス部は平日は基本2面のコートを使う事ができる。早くテニスコートに行けば、そのコートを好きなだけ使う事ができるから、俺達の部活では、平日の日は誰が早くコートにたどり着いて、打てるかというコート取り合戦が勃発しているのである。もちろん、俺も本当はコートで早く打ちたかったので、今日の場所取り合戦は負けてしまった。俺は明日の木村先生のSHRが爆速で終わってくれるのを祈りながら、部室に入った。


その後、準備運動をして練習前にコートで打ちあっていると、木村先生がやって来て、ミーティングが始まった。


「今日から30分打ち合いをした後、それぞれの特別トレーニングを行ってもらう。それじゃあ、ラリー10分やったらポイントの練習だ。練習始め」


練習が始まった。ラリー練習を終えて、ポイント練習が始まった。俺の相手はこれから同じトレーニングを行う国吉。国吉は正直、何を打ってくるか分からないから対応が難しい。

こういう相手は俺と相性が悪い。


サーブは国吉から始まる。国吉は威力は劣るがサーブのコースの打ち分けはできるようになっていた。


(良いサーブ…)


国吉のワイドに打ったサーブを中央にリターンした。普通ならば、オープンスペースに打ちそうなものだが、敢えて国吉はサーブと同じコースにストロークを打ち込んだ。


(同じコース…?なぜ?)


意表を突かれた俺は体勢が崩れ、リターンも甘い。それを国吉はネットスレスレのフラットショットを打ち込んで決めた。


(やられた…)


「ナイスショット、国吉」


先生がそう言って、国吉を励ます。やはり、国吉は何をしてくるか全く読めない。その後も俺は国吉に翻弄され続けた。改めて自分だけの武器を持つ事の重要性を悟った。


「よし、ここまで。ここからはそれぞれの特別トレーニングに移ってもらうぞ。さあ、トレーニング場所に行ってこい」


「皆んな、頑張ってね。私達も出来る限りのサポートをするから」


玉城が皆んなを励ます。どうやら、玉城達マネージャーは、皆んなのトレーニング場所を回りながら、水分補給の為のドリンクを渡したりするそうだ。


こうして俺達は各自のトレーニング場所へと移動を開始した。そして、俺と同じトレーニングをする国吉と一緒にトレーニングルームへと向かった。


「遠野、これからよろしくな」


「うん。よろしく。そういえば、さっき先生に筋力トレーニングの内容が入った紙が渡された。これ見て」


「ん。どれどれ。…これはきついな」


「でしょ」


「でも、これやったらもっと強くなれるって事でしょ。楽しみになってきた」


「凄いポジティブだ笑。俺もやる気になってきたよ」


国吉はポジティブだった。これが彼のテニスの成長にも繋がっているんだなと思った。しかし俺も負けてはいられない。ここから自分の武器を身に付け、もっと強くなるんだ。俺はそう意気込んだ。


コートを後にしたら宮城と木村先生が話をしていた。いったい宮城はどんなトレーニングをするのだろうと気になりながら、トレーニングルームへと移動した。

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