第18話 部内戦最終日
(遠野視点)
部内戦最終日、それぞれのグループが最後の試合に挑んだ。グループAは、国吉対宮城、グループBは阿西対赤嶺、グループCは遠野対山田である。
グループA、国吉対宮城はまだ初心者な部分が残る国吉を宮城が得意のフラットショットで押し込んでいく。スコアはあっという間に3-0で宮城のリード。
「掴んだぜ」
国吉のその一言から試合の流れが変わり始める。国吉は急に鋭いサーブを打ち、そして返ってきたチャンスボールをジャンピングスマッシュで決めてきた。
これまでの部内戦の試合と、今の試合でサーブ、スマッシュのコツを掴んだというのか。しかもただのスマッシュではなく、ジャンピングスマッシュで。喜納戦の最後に見せた才能の片鱗は開花寸前といった感じか。また、恐ろしい才能が見つかってしまった。
その勢いでサービスゲームをキープした国吉。このままいくかと思われたが、国吉はまだ荒削りな状態。まだミスが多く、その修正が必要なことは明白だった。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ
宮城 6-3」
国吉のミスは多かったが、4ゲーム目からは、互角の試合展開だった。この2試合で国吉は初心者から完全に脱出し、蒼京の頼もしい戦力になった。そしてそれは赤嶺も一緒であった。
グループB最終試合、阿西対赤嶺。前の試合、終盤ではあの坂田と互角の勝負を演じていた赤嶺だったが、今回もその時の調子を維持し、実力者である阿西と激闘を演じた。
阿西の強打に赤嶺のドロップショット。それぞれが相手の強みに苦戦し、攻略できぬまま、ゲームは進んだ。
6-5で迎えた第12ゲーム。ゲームカウントはアドバンテージ阿西。阿西のマッチポイントになった。サーブは赤嶺。
赤嶺は既にフラットサーブ、スライスサーブ、スピンサーブの使い分けができており、今回はスライスサーブを打った。低く滑るスライスサーブで阿西に強打させない。そのまま、主導権を握ったまま、ラリーを展開する。ラリー戦で阿西は強打を試みるも、赤嶺は全てのボールをフラット気味に、それに加えて若干スライス回転を掛けていた。それにより、ボールは低くバウンドし、上手く強打できない状況になっていた。
「ちくしょ…」
完全に赤嶺ペースだった。このままではまずいと思った阿西は、これまでとは違う強打ではなく、スライスショットを打ってきた。このボールは威力は無いが、ベースラインスレスレに落ちた。
俺含め、皆んな予想外だったはずだ。今までスピンショット、フラットショットでの強打だけを使ってきた阿西が初めてスライスショットを使ってきたのだ。それは赤嶺の予想を狂わせるものになり、赤嶺はほぼ威力0のボールをコート中央に返すしかなかった。それを阿西は見逃さず、得意の強打で叩きこんだ。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ
阿西 7-5」
阿西の勝利で決着がついた。阿西に笑顔は無く、最後のスライスショットは苦肉の策だったんだろう。すごい落ち込みようだった。まるで阿西の方が負けた人のようだった。そんな阿西に木村先生は話しかけた。
(試合後の阿西と木村先生の会話)
「悔しいか?」
「はい。…今まで自分の持ち味の強打で相手を倒していきました。強打だけが自分の取り柄でそれならトップの相手にも通用していて、その武器に何も疑いは無かったんです。でも、今日、初めて自分の武器に疑いを持ったんです。このままでは勝てないと。それがスライスショットを打った理由で…強打で相手をねじ伏せるという自分のプライドがへし折られた感じです」
「でもな、最後のスライス、お前の武器を活かす重要なカギになると思ったぞ。あのスライスでラリーの流れは間違いなく変わっていた」
「ですが…」
「強打で相手をねじ伏せる為にはより強打を打ちやすくする環境が必要だ。その為には色々なことをするべきだ。さっきのスライスだったり、ロブだったり、ドロップショットだったり、オプションを増やす事で、お前のテニスは更に進化するぞ」
「…」
「阿西は強打以外のショットが苦手なのか?」
「…はい」
「だから、今までスライスショットは打ってこなかったんだな」
「…はい。それで苦手なショットを打たないようにしてやってきたんです」
「そうか。でもな、長所を活かすのももちろん大事だが、短所から目を逸らしっぱなしにはしないでほしい。俺はお前は短所の部分を改善できると思ってる。今まで取り組んでこなかっただけで。だから、阿西にはこれから得意の強打練習だけでなく、スライスショットの練習もしてもらうぞ。上手くいけば、九州、いや、全国でも戦える。だから、一緒に頑張らないか」
「…分かりました。苦手なショット、打てるように頑張ります」
「ありがとう」
(遠野視点)
さあ、部内戦最後の試合、俺と山田の試合が始まろうとしていた。恐らく部内最強クラスの山田との試合。この相手を倒したいという気持ちが俺の中で渦巻いていた。
「よろしく」
「よろしく」
両者、挨拶を交わした。
「凄い、緊張感だね」
「うん。あいつら、どっちも勝ちたいって気持ちがビリビリ伝わってくる」
宮城と喜納の会話が聞こえた。サーブ決めの時、山田が話しかけてきた。
「遠野は戦術眼が鋭いな。与那嶺戦凄かった」
「ありがとう。そっちだってあの守備力、凄まじかったよ。今日はその守備、破りにいくから」
「ああ、臨むところだ」
サーブは俺から始まることになった。先手を打つ。そういった気持ちで俺はフラットサーブを山田正面、ボディに打った。スピードは十分、良いサーブだ、そう思っていた…
「え…」
しかし、俺の打ったサーブは気づけば、俺のコート左隅に突き刺さっていた。いったい何が起こったんだ?
「よし、このままいくぞ」
山田の声が僅かに聞こえた。
まずい…
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