第17話 2日目
(遠野視点)
部内戦1日目の全試合が終了し、2日目の試合が始まろうとした。俺は昨日の試合の後、スマッシュを打たなかった理由、過去に何があったのかを全て話した。木村先生も少し驚き、呆然とした顔をしていたような気がする。木村先生とは今後の練習の仕方を少しだけ話し合って、俺はその場を後にした。今日は試合が無いので、皆んなのプレーを見て、研究する機会にしようと考えた。
最初の試合はAグループの喜納対宮城。喜納は1日目に国吉との対戦はスコア的には圧勝で調子は良さそうだ。宮城はフラット系ショットが得意な攻撃的ベースライナー。喜納とは逆のプレースタイルであるが、どんな試合展開になるのだろう?
試合はお互いサービスゲームのキープ合戦になった。喜納がフラット系スライスサーブで宮城にハードヒットさせず、宮城は自身のサービスゲームは、得意のフラット系ショットで喜納の守備を打ち崩し、ポイントを重ねていった。
キープ合戦が続き、スコアは喜納から見て4-3
次は宮城のサービスゲーム。徐々に喜納は宮城のフラット系ショットに対応できるようになっていた。喜納が宮城のフラット系ショットを返し始めた矢先、宮城にミスが増えてきた。フラットショットは威力が高い反面、ネットの低い所を通るためミスショットの可能性は高くなる。
そして、遂に喜納が宮城のサービスゲームをブレイクし、スコアは5-3。喜納のサービングフォアザマッチ。喜納の独特なサーブに宮城は最後まで対応しきれなかった。返球できた場面もあったが、しっかりとした返球では無く、攻略する段階にまでは辿り着けなかった。相手の武器の攻略の早さがこの試合の明暗を分けた。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ
喜納6-3」
これでAグループの1位は喜納に決定。喜納は昨日の国吉の試合とは違って、試合後は満足気な表情を浮かべた。喜納にとっては、今日はリベンジマッチだったのだろう。
次はBグループ。坂田と赤嶺の試合。昨日の試合は坂田が部内トップクラスの実力を証明した。対して赤嶺はまだ初心者の段階。試合は圧倒的な坂田ペースで進み、わずか15分で5-0となった。
ただ、少しずつラリーが続くようになっていた。最初のゲームは3球目で決まっていたが、そこから4球、5球、6球とラリーの回数は徐々に増えていた。そう、赤嶺は坂田のボールに対応してきて、いつしか互角のラリーを繰り広げていた。
まだテニスをし始めて1週間ぐらいの赤嶺がここまで上達するのは、正直信じられなかった。そして、彼はこのゲーム、ドロップショットを打ってきた。このドロップショットはただのドロップショットでは無く、タイミング、コース、バウンド、どれを取っても完璧なドロップショット。彼は天才かもしれない、そう見ていた全ての人は思った。
なんと赤嶺は坂田から1ゲームを奪い取った。その後も坂田と互角の試合を繰り広げた。赤嶺はもう初心者とはいえない領域に達していた。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ
坂田 6-1」
5ゲーム15分だった試合は、最終的に7ゲーム40分の試合になった。そうさせたのは、赤嶺のドロップショットで、彼のタッチセンスはずば抜けていて、極めたらとんでもないことになりそうだった。
今日最後の試合はCグループの与那嶺対山田。山田は俺と同様のプレースタイルで、どう与那嶺のディフェンスを破るかが焦点となる。
この試合、山田はどう与那嶺の守備を崩すのかを楽しみにしていた。しかしこの試合、守備を崩せなかったのは与那嶺の方だった。
「ゲームセットアンドマッチウォンバイ
山田6-1」
試合は山田の圧勝に終わった。
「嘘だろ…、与那嶺以上の守備力を見せつけ、尚且つ与那嶺を左右に走らせまくって体力切れさせて勝つなんて」
「これはとんでもないな…」
「山田ってあんなにディフェンシブだったか?」
「確かに。練習の時は攻撃的なプレイと守備的なプレイ、どっちもやってたけど、今日は完全に守備的なプレイをしていた。それにしてもここまでとは…」
「もしかして山田は試合に応じて、攻撃的に行くか、守備的に行くかを決めているんじゃ…」
「復活してきたな…」
「え…。どういうことですか先生?」
「実は山田は、2年前、千葉県大会優勝の男だったんだ」
「!」
「全試合、6-0の圧倒的な勝利だった。その無双ぶりは話題になって雑誌にも取り上げられるほどだった。メディアは彼を将来のインターハイチャンピオンと呼んでいた」
思い出した。2年前のプロテニス雑誌を見た時に
山田大地、彼の名前と写真があったことを、だから引っ越し初日に彼を見た時、既視感があったのはその為だった。まさかあの雑誌に載っていた山田大地、彼がその人だったとは。
先生は山田についてまた語り始めた。
「だが、彼は関東大会直前に右手首の大怪我をしてしまって、それ以降大会に出ることはなかったんだ。引退説も囁かれるほどだった」
「でも、彼は今年から沖縄に引っ越し、この高校に入ってきた。部員の名簿を見たときは、正直、驚いた。だが、嬉しかった。また、彼がコートに戻ってきてくれて。まだ完全ではないが少しずつ戻ってきていると話していたな」
「全盛期から比べると今はどれくらいなんですか?」
「俺も全盛期のプレイをちゃんと見た訳じゃないから分からないが、本人は50%と話していた」
「50%!?」
なんと、今日の与那嶺戦のパフォーマンス、あれで50%ということだった。そして、俺は確信した。明日、戦う相手はこれまでの人生の中で最強の相手だと。そう思った途端、ラケットをしまう彼の後ろ姿がもの凄く大きく見えたのだった。
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