第15話 部内戦開幕

(遠野視点)

部内戦が始まった。部内戦は三日間かけて行われ、1日ごとに各グループ1試合ずつ行われるという方式で行われる。


最初の試合は喜納と国吉の対戦。


「まさか、部での最初の試合を国吉とやれるなんてな」


「俺も嬉しいぜ。ここで勝って俺はスターへの階段を歩む」


「そうはさせない。全力で倒しにいく」


こうして、部内戦最初の試合が始まった。喜納のサーブから始まったこの試合、大方の予想通り喜納が圧倒的な試合展開を見せていた。喜納のサーブはフラットサーブとスライスサーブを混ぜたような速くて、低く滑るという特殊なサーブを持っていて、サービスゲームはほぼサーブでポイントを取っていた。リターンゲームも技術と経験に勝る喜納が長い手足を生かした堅いディフェンシブのラリーで国吉にポイントを与えさせない。


試合は5-0 0-40 喜納のマッチポイント


「このままじゃ終わらせない…」


国吉はこの試合で一番のサーブを打って、チャンスボールを誘った。国吉に初めてのチャンスがやってきた。誰もがチャンスボールをスマッシュで決めると思った。しかし、彼はなんとジャンピングバックハンドで決めにいった。誰も予想できなかった展開、喜納も同様だった。国吉のボールは物凄いスピードで喜納は一歩も動くことができなかった。


「は…」


「ア…アウト。ゲームセットアンドマッチウォンバイ喜納 6-0」


国吉のボールはアウトだった。ボール1個分のアウトだった。もし、これが入ってたらと思うと… まだテニスを始めて1ヶ月も経ってなかったが、その才能の片鱗を見せた国吉。試合後、彼は少し満足げな表情だった。


「あー、負けちまったぜ。でも、最後は良いショットが打てた」


「いったいあのショットはなんだったんだ?狙ってたのか?」


「一発かましてみたいなと思って、どんなショットを打てば、見ている人を盛り上げられるかなと思って」


「…凄いな。国吉は。またやろう」


「ああ!」


勝った喜納は悔しそう、負けた国吉は嬉しそうという予想外の幕切れでこの試合は終了した。


「これは…面白いな。よし、次は阿西と坂田だ、いってこい」


「はい」


次はグループB第1試合、阿西と坂田の試合。


「また、こうして試合ができるなんてな」


「ああ、決着をつけよう」


阿西と坂田は中学校時代沖縄でテニスをしていたが対戦した事があったのだろうか。


「宮城、あの2人は前に試合したことがあるのか?」


「ああ、彼らは中学校時代はよく当たっていたよ。対戦成績は2勝2敗だったかな」


「へー。互角なんだな」


「県での実績は坂田の方が上なんだけど、多分、相性とかなのかな」


「そうか。この試合も面白くなりそう」


試合は予想通り白熱したものになった。阿西のどこからでも打てる強打でねじ伏せるという展開を多く見られた。対して、坂田の強みはエッグボール。強烈な回転がかかったスピンボールはまるでボールが急降下していくような重そうな打球。これが坂田の武器で、その武器でラリーの主導権を握り、ポイントを取る場面を多く見ることができた。


試合は互角の展開で進み、5-4 30-40 で坂田にマッチポイントが訪れた。だがサーブは阿西なので阿西にもまだ十分にチャンスがある状態だ。

阿西はサーブをセンターに打つ。そして返ってきたボールをすかさず強打。早めの展開にして坂田にエッグボールを打たせないという狙い。

これが今日の阿西の戦い方だった。坂田は数的不利な状態で一か八かのバックハンドストレート。これが威力はないがコート隅に突き刺さる。阿西はなんとか返球するが若干甘くなり、すかさず坂田が得意のエッグボールを打つ。これを阿西も得意の強打で応戦。しかしボールはネット。試合が終わった。


「ゲームセットアンドマッチウォンバイ

坂田 6-4」


「ふー、前戦ったときより、エッグボールの重さが増してる感じがするよ。返すだけで精一杯だった」


「ありがとう。でも、まだまだだ。もっとエッグボールの質を上げていかないと」


「そうか」


レベルの高い試合だった。阿西ももちろん強いが、坂田はこの部でトップクラスに強いかもしれない。そう感じる試合だった。


「さあ、今日最後の試合だ。遠野、与那嶺いってこい」


「はい」


いよいよ俺の出番だ。ここの学校に来てからの初めての試合。自分が今、どれぐらいのテニスができるかをこの試合で測りたい。そして、俺自身の弱点に打ち勝ちたい。その思いで俺はコートに立った。

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