第13話 決断

(榎本視点)

私、榎本凛は小2の途中から沖縄で暮らしていた。両親は共働きで忙しく、仕事が休みな土日ぐらいしか両親達とゆっくり過ごしたりお出かけしたりする事ができなかった。私達家庭は比較的裕福な方で、両親が働いていて家には私1人になってしまう為、両親はハウスキーパーを雇って、私に1人の時間を作らせないようにした。

ハウスキーパーは平日の時はほぼ一日中いた。なので、どちらかというとハウスキーパーの常本さんと一緒に居ることの方が多かったかもしれない。


「凄いー、榎本さんって何でこんなに料理上手いの?」


「料理はハウスキーパーの人に教えてもらったんだ」


「だいたいの料理は作れるの?」


「うん。多分」


中学校に入った頃から、本格的に常本さんから家事などを教えてもらっていた。だから、その時からある程度の家事はこなせるようになった。文武両道を目標に掲げていたので、それも精一杯頑張った。その甲斐もあって、私は勉強では学年5位以内には入るようになっていた。

中学校時代の友人からこう言ったことを言われたことがある。


「凛は、絶対いいお嫁さんになるね」


「え…」


「だって、頭良くて、運動も出来て、家事もできて、優しいじゃん。良いパートナー見つけないとね」


…パートナーか。それは恋人ということか。私もそういった恋愛には憧れがあったし、たまにカップルが腕を組みながら歩いているのを見て、羨ましいと思ったことがある。私は中学校時代から誰かに告白されることが増えた。でも私はそれを断り続けた。本気で好きと思う人と恋人同士にならないと、相手にとっても失礼だと思ったから。


それに、私には少し気になっているというか心配している人がいる。その人の名前は遠野悠馬。私の幼馴染で引っ越す前までは、よく一緒に遊んでいた仲だった。引っ越していてから、

3年くらいは手紙を貰っていたが、ふつりと手紙がこなくなった。こちらが手紙を送っても何も返しの手紙が来ない。一体何があったのだろう?何か大変な事があったんじゃないかと思って心配していた。


そして、今、私のクラスにはその遠野悠馬がいる。入学式の時に会ったときは、凄くびっくりした。また会えることができて嬉しかった。身長も凄く伸びていて、声変わりもしていて、男の子らしい体型になっていた。何か事故とか病気になったりしたのではないかと思ったので、とりあえずホッとした。しかし、彼の雰囲気は明らかに変わっていたように感じた。私の知っている悠馬は明るく、元気で少々マイペースな所があるという活発な男の子だった。でも、今の彼は違う。明るく、元気だったときのオーラは完全に消えていて、何か抱え込んでいるかのような感じだった。大人になったといえばいいのか、いや、何かそれとは違うような。ホッとした矢先に、また心配になった。


高校に入って私は体験入部を通して、どこの部活に入るかを決めようとした。1日目の体験入部ではハンドボール部に行った。皆んな優しく、指導してくれたりして楽しかった。同じクラスの女子とも色々と話す事ができた。同じクラスの女子の2人の話が聞こえた。


「そういえば、男子テニス部って廃部になったんじゃなかったっけ?」


「あれ、でも、テニスコートで打ち合ってるね」


「新しくテニス部を作るってことかも?」

「そうなんだ。あ、あそこにいるの山田さんじゃない?」


「本当だ。かっこいいよね。スタイル良くて顔も良くて、テニスも上手いなんて。これはこの高校のカリスマ的存在になるかも」


「うちのクラスの人も何人かいるんじゃない?ほら、喜納さんにそれに、遠野さん」


「あ、本当だ。どっちも上手いね。」


「ねえ、遠野さんも中々かっこよくない?」


「ああー、確かに。でも、何か遠野さん。少し他の人と雰囲気違う。なんていうか、闇のオーラを持ってるような。哀愁漂うような」


「そのミステリアスさが良いんだよ。はあ〜、もしかしたら、本当にこの学校当たりかもしれない。他の部活にもかっこいい人いっぱいいるし」


悠馬がかっこいいと評判になっていた。何だか嬉しい。ただ、やはり悠馬には何か他の人とは違う何かがある。それが何かは分からないが、多くの人は感じ取っているようだった。それにしてもテニス部は皆んな楽しそうだな。あんなに楽しそうな部活あまり見たことない。皆んなハツラツとしている。


「あれ、あの子…」


テニスコートをひたすら見ている1人の女子生徒が見えた。女子テニス部は外部で練習するはずだが…、少し気になっていたが、ハンドボールの練習の時間になったので、すぐに練習に入った。こうして1日目の体験入部が終わった。


2日目の体験入部の日、今日が体験入部最後の日、今日で部活を決めなければならない。昨日行ったハンドボール部は楽しかった。今日も引き続き、そっちに行くか。それとも、別の所に行ってみるか迷っていると、テニスコート近くに昨日見た女子生徒がいた。見た感じ、彼女も私達と同じ1年生。今日も女子テニス部は外部での練習なので、恐らく男子テニス部に用があるのだろう。でも、何か困っている感じだった。

彼女に話しかけてみた。


「どうしましたか?」


「へ!いや、ちょっと…」


「急に話しかけてごめんなさい。私の名前は榎本凛。何か困ってたようなので」


「ありがとうございます。あ…私岩見香里奈です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。もしかして男子テニス部に用があるんですか?」


「あ…はい。少し…」


「行きづらい感じですか?」


「そうなんです」


「そうですよね、男子だけの所に割って入るのは勇気入りますよね」


「はい。だから、行こうにも行けなくて。…でも、悔しいですね。マネージャーになりたいっていう思いがあるのに、一歩を踏み出せない」


「マネージャーになりたいの?」


「はい。私、中学校時代に千葉に行った時に不良みたいな人に絡まれてしまって、困っていた所、あそこにいる山田君に助けてもらったんです」


「最初は誰なのか分からなかったんですけど、テニスの雑誌を見ていたら、怪我から復活を狙う有望株のコーナーに山田君が載っていて、助けてくれたのは、この人なんだって分かったんです。だから、あの時、呆然としててちゃんとお礼が言えてないですし、何か恩返しできればと思って」


「岩見さん…あなた凄いね。恩返ししようって思うなんて、凄く良い人だね」


「いや…、そんなことは、それに、テニスは前から好きで、中学校時代はテニス部だったんですけど、全然上手く出来なくて、それでもテニスは嫌いにはならなくて、高校ではプレイ出来なくても、何かしら関わっていけたら良いなと思って」


「それで、山田さんの居る男子テニス部のマネージャーなんだ」


「はい、そうなんです」


そういった話をしていると、こちらに向かって歩いていく女子生徒が見えた。


「香里奈、何してるの?」


「あずみさん。少し男子テニス部のマネージャーやりたいという話を榎本さんと」


「榎本…さん」


「初めまして。1年A組の榎本凛です。よろしくお願いします」


「ああ!あなたが榎本さんですか!」


「え」


「男子達の間で可愛いと評判になっているんですよ。確かにめっちゃ顔整ってる。大人っぽい雰囲気」


「そうなんですか」


「はい!えっと…香里奈とはいつ頃からお知り合いで?」


「さっき知り合ったばかりです。少し岩見さんがお困りのようで気になって話しかけて、色々話をしていました」


「そうだったんですね。うちの香里奈が申し訳ない」


「ちょっと、いつからうちの香里奈になったんですか」


「ふふ、まあいいじゃん」


「良くないです」


「ふふ」


「私達、中学校一緒だったんです。香里奈は中学校の頃、女子テニス部で私はハンドボール部でした。高校ではどこに入るかまだ決めていないんですけど…そっか、香里奈はテニス部のマネージャーやるのか。私もやってみようかな?」


「え⁈」


「嫌?」


「いえ、全くそんなことは、むしろ、凄く嬉しいというか、安心できます」


「そっか、良かった」


「そうだ。榎本さんもやる?テニス部のマネージャー?」


「え、私?」


「うん」


確かにテニスは好きなスポーツの一つでルールとかも大体分かる。それにマネージャーもやってみたいって気持ちもあるし、皆んなとっても楽しそうにテニスをする。そして、悠馬の事も少し気になる所があるし。やってみるか。


「…うん。やろう」


「よし、3人でテニス部のマネージャーやろう!でも、どうやって言おう。男子達ばかりの所にいきなり割って話しかけるのは少し緊張するな…」


やっぱり玉城さんも緊張しているようだった。確かにこれは難しい。何て言おうか考えている時にちょうどテニス部のミーティングが始まり、すぐに皆んなが散らばり校舎内へと入っていく。ここかもしれないと思った。


「私、男子テニス部に知り合いいるから少し聞いてみるね」


そうして2人のもとを離れ、悠馬を探しに行った。そこで、悠馬を見つけ、3人ともテニス部のマネージャーになることができた。


これが、私が蒼京学園男子テニス部のマネージャーになるまでの物語であった。






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