第12話 顧問探し②
(遠野視点)
顧問探しの話が出てからの翌日、俺達は部員全員で顧問探しをすることになったが、この件は簡単には決まってくれなかった。手分けして色々な先生に顧問のお願いをしてみたが、やはりどの先生もどこかの部活の顧問についていて、部活を担当していない先生はほとんどいなかった。そして顧問探しが難航しているのにはもう一つ理由があった。廃部となった男子テニス部には余り良いイメージが無く、不祥事が発覚したばかりなので厄介事に巻き込まれる可能性もあるからである。
顧問を誰かにやってもらうなんて無理かもしれないと思い始めた矢先に山田がやってきた。
「遠野、顧問は見つかりそうか?」
「ううん。やっぱりテニス部の顧問っていうのがネックになってるみたいで、誰もやりたがろうとしないし、それに顧問になっていない先生が中々いないってのもあって、全然見つからない」
「そうか」
「部の結成に関しては、校長先生達は許可してくれたの?」
「ああ、大丈夫だって。ただ、顧問を見つけないと部の発足は認めてくれないから、それが条件だって」
「そうか、じゃあ、俺は誰かやってくれそうな先生いないか探してみる」
「分かった。また後でな」
そう言いつつも、見つからないんじゃないかという諦めの気持ちが少しあった。それと、やっぱりテニスがしたいから諦めたくないという相反する矛盾が生じた気持ちになった。何だかモヤモヤする。そんな状態になっている俺に1人の生徒が話しかけてきた。
「悠馬?」
「凛か」
話しかけて来た相手は榎本凛。幼馴染かつ今の俺のクラスメイトである。
「どうしたの?立ち尽くして」
「ああ、実は今、新しくできる男子テニス部の顧問を探しているんだけど、中々決まらなくて…」
「男子テニス部新しくできるんだったね」
「うん。皆んなテニス大好きでさ、結構いい雰囲気でやれてる。どうにかして発足したいって気持ちはあるんだけど上手くいかなくって」
「あのさ…、そのテニス部の顧問探し私も手伝ってもいい?」
「え…、でもいいの?凛も部の集まりとか何かしらあるんじゃ…」
「それは大丈夫。私、テニス部のマネージャーやるから」
「まじ!」
これは予想外だった。顧問もいない、まだ正式に部活として認められていないのに、マネージャーを希望する人まで現れるとは。しかも、驚いた事に、マネージャーを希望する人は凛以外にも2人いるということだ。びっくりすぎて顧問の件が吹き飛ばされそうだった。しかし、吹き飛ばされずには済んだ。凛が一つの提案をしてきた。
「部活の顧問のことなんだけど…木村先生には聞いた?」
「そういえば、聞いてない」
「あの先生、新人の先生でまだどこの部活の顧問もやってないみたい。それに、最初のHRでよくスポーツ観戦をするって言ってたから、テニスの事も知っているかも」
「確かに。よし、聞いてこよう。凛も一緒に来る?」
「うん」
1年A組担任、木村翔太先生。確かにあの先生ならスポーツの事を知っていそうだし、山田の考えている顧問の条件にも合いそうだ。木村先生はHR教室に残っていた。俺と凛は教室に入って来て、木村先生に声をかけた。
「こんにちは、木村先生。少しお時間よろしいでしょうか?」
「おー、遠野どうした?」
「あの…僕達男子テニス部を作ろうと思っていて、今、部員が9人、マネージャー希望が3人いるという感じなんです」
「うん」
「良かったら、男子テニス部の顧問をやってもらいたいんですけど、どうでしょうか?」
「…遠野にとって、テニスはどういうスポーツだ?」
「え…」
「答えられそうか?」
「…僕にとってテニスは人生を救ってくれたものだと思います。僕は幼少期からテニスに触れることが多く、テニスを通じて、ポイントを取る楽しさ、技術を磨くことの楽しさ、努力する事の大切さを知る事ができました。辛いことがあっても、テニスをしてればその辛さも無くなっていく感じがして、いつまにかテニスは僕の人生において無くてはならない存在になりました。だからテニスをこれからも続けていきたいです。だって、僕はテニスが大好きですから」
「…真っ直ぐだな。…分かった。テニス部の顧問引き受けても大丈夫か」
「はい!ありがとうございます!」
「遠野、凛、これから改めてよろしくな」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして男子テニス部顧問の先生が決まった。
そして、すぐにミーティングがテニスコートで始まった。
「えー、テニス部の顧問を引き受けるになりました。木村翔太です。よろしくお願いします」
「やったぜ!テニス部の顧問も決まったことだし、これで部活ができるぞ」
「俺はビシバシ指導していくつもりだ。これからよろしくな」
「はい!」
「後、それにマネージャー希望の人もいるんだったな?」
「はい。それじゃあ、マネージャー希望の人達も軽く自己紹介してもらっても大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「初めまして、榎本凛です。テニスの経験はありませんが、ルールなどは把握しています。皆んなをサポートして部に貢献できればと思っています。これからよろしくお願いします」
「えっと…初めまして、1年E組の岩見香里奈です。テニスは中学校時代やっていました。皆さんの事を全力でサポートしたいです。よろしくお願いします」
「初めまして。同じく1年E組の玉城あずみです。テニスの事はあまり分からないですけれど、
全身全霊でサポートして皆さんに元気を届けたいです。これからよろしくお願いします」
「おいおい、顧問が決まっただけでも嬉しいのに、マネージャーが3人もいるなんてなんて贅沢すぎるだろ。こりゃ、入ってよかったぜ」
「お前、その目的もあったよな笑。まあ、確かに幸運だ」
国吉と喜納がそう言ってるのが聞こえた。確かに、凛は既に1年A組のアイドル的ポジションを確立してるし、岩見さんは小柄で凛と同じくらい。玉城さんはその2人と比べたら高い方で160センチ近くある。どちらも可愛いと噂になっているというのを聞いたことがある。俺自身もマネージャーのいる部活は初めてで新鮮な気分だ。
そして俺達の部活は部長には山田、副部長には与那嶺が選ばれた。どちらも中学校で部長を経験しており、適任だった。そして、部長の山田から皆んなに話があるということで皆んなが山田の方を向いた。
「皆んな。俺達で目指してみたい目標があるんだが、聞いてくれるか?」
「何だ、山田?」
「俺達で目指してみないか、インターハイ」
「!!」
皆んな驚いてる。俺も最初は驚いた。皆んなはこの目標についてどう思っているだろうか。
「面白そう」
赤嶺が呟く。
「めっちゃいい」
宮城が言った。
「全国行きたいな」
坂本がそう言った。
「絶対行こう」
阿西がそう意気込む。
「全国で戦ってみたい」
「全国行けば、俺はスターになれるぜ!」
喜納と国吉はそう言った。
「絶対勝ち続けて、全国へ行く」
与那嶺がそう意気込む。
「皆んなこの目標に協力してくれるか?」
「ああ!」
「よし、いい目標だ。お前達のそのやる気があれば、きっと成し遂げられるぞ。こりゃ、指導がいが出てきったってもんだ」
「私も全力でサポートする」
「わ…私もチームの為にがんばる」
「全国、皆んなで行きましょう」
「ありがとう、皆んな」
俺達は肩を組み合った。
「俺達の部活はまだ始まったばかり。この先、苦しいこと、辛いことが待っているかもしれない。でも、俺達はそれを皆んなで乗り越えて必ず、目標を達成させよう。行こう、インターハイ!」
「オー!!」
こうして新生蒼京学園男子テニス部の物語が始まった。
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