第9話 テニス部の過去
(遠野視点)
「テニス部がないってどういうことですか?」
「どういうことか説明してください?」
俺達2人は驚きと焦りを隠せず、先生に質問攻めのような形で聞き、回答を求めた。
先生の話によると、去年の11月男子テニス部は乱闘騒ぎをしてしまった。主犯は主に当時2年生だった副部長とその他2年生8人で、1年生への過度な暴力、暴言が日常化してしまって、それに耐えられなくなった1年生が2年生に殴りかかり乱闘騒ぎになった。事が発覚して事態を重く見た学校は主犯である2年生部員9人を強制退学、男子テニス部廃部という制裁が課せられた。そして、事件の起こった責任として、校長、教頭、理事長が事件の責任を負う形で去年学期に辞任。
確かにここに入学する前にテニス部の事を調べたが、新人大会後の大会データが全く無く、少し違和感を覚えていたがまさかこういった事が起きていたとは。
この学校は県内よりも県外から来る人の方が多いという珍しい学校で入学生もこの事件を知らなかったという人の方が多かった。喜納もその1人でおそらく阿西も、凛も山田さんも知らない。話を聞き終え、職員室から出た俺達は黙り込んだまま、廊下を歩いてた。喜納が沈黙を破った。
「山田さんもこの事知ってないのかもな」
「うん、多分。…この先どうしようか?」
「とりあえず、テニスコートに行こう。山田さんいるかもしれないし」
「そうだね、いってみよう」
テニスコートに向かうとやはり山田さんはいた。喜納が山田さんに話しかけて、さっき聞かされたことを話した。
「その話は聞いているよ。俺も最初は信じられなかったよ。まさかこの高校であんな事があったなんて」
「知っていたの?」
「1週間ほど前に、近所の人から聞いたんだ」
「そっか…でも、この先どうする?」
「テニス部ないんだったらやっぱりテニスは諦めるしか…別の部活を…」
喜納がそう話していると、山田さんはバッグからプラカードを取り出して、俺達にそれを見せた。
「それは?」
「部員募集の為のプラカードだ」
「まさか…」
「そう、今からテニス部の部員を集めて新しいテニス部を作る」
「えー、いくら何でも無茶でしょ、不祥事があったばかりのテニス部を復活させようとしたって誰も集まらないよ?」
「誰も集まらなくたって1人でもやるつもりだ」
「無謀すぎるよ。なあ、遠野もそう思うだろ?」
俺は終始黙り込んでいた。確かに喜納の言っていることも正しい。この事件を知っているのは入学生の中では4割程度、でもその4割からこの事件の事が広まっている確率はかなり高い。そんな事件が起きた部活なら皆、避けていくのも自然な話だろう。でも、それでも俺は…
「遠野?」
俺は山田さんの側にあったもう一つのプラカードを取り出した。
「僕もやります。部員募集。だってテニス好きですから」
「分かりました。ありがとうございます。…本当にありがとう」
「喜納はどうする?」
「…分かった。負けたよ。2人に。俺もやるよ」
こうして俺達3人での部員募集が始まって、30分後に集めた人を連れて、再びテニスコートに集まることになった。俺と喜納が2人で山田は1人で部員募集をすることになった。
30分経って、テニスコートに俺達は集まった。
俺と喜納は2人。そして、山田は4人。恐るべきコミュ力、人脈。
何はともあれ、こうして9人が集まり新男子テニス部が結成された。
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