第5話 召喚術再開

「深淵より来たりし古の神、黒翼の霊鳥よ。その聖名みなに於いて我が願い

聞き届け給え」


ナガセが祭壇に置かれた『八尺瓊勾玉』に向かって、バンバンと二度片足を

踏み鳴らしパァンとまるで柏手を打つように合掌をして言霊を紡ぐと霊玉から

光が溢れ出した。

続いてナガセは朗々と詠唱をしながら素早く手で印を組み替えていくと、霊玉から

光る積層型魔法陣が浮かび上がると濃密で夥しい量のマナが霊玉から部屋中に

広がった。


それを傍らで見ていた、副召喚士長である八千代にコクリと頷いて合図する。


合図を受けた八千代は、バっと右手をまっすぐ天に向かって上げ「詠唱開始!!」と叫び同時に上げていた手を召喚堂の床に描かれた大きな召喚魔法陣に向け振り下ろすと召喚士達が一斉に詠唱を始めた。


『三千世界大軍勢召喚』と呼ばれるこの召喚術は理論上、最高千体の英雄を

召喚できると言われているが、触媒とされる人型の人形の鋳造には職人の

高度な技術と希少な素材が必要になるので、今回の召喚では百体を揃えるのが

限界だった。

それでもこの国の危機的状況を打破できる可能性は十分に秘めているのだ。


この召喚術で最も難易度を引き上げているのは、人形の準備であるが他にも

今召喚士達が踏んでいる法円陣である『金剛式八極聖法印』と呼ばれる魔法陣も

超高難度と言われている。八角形をした法円は魔法陣としてはかなり希少で、

その文様は複雑で緻密に構成されている。


文様を描く際も霊験あらたかなご神木で作成された貴重な筆で描き、その時に

使用される墨汁ですら霊的なマテリアルをふんだんに練りこまれているのだ。

その八角形の法円を取り囲むように配置された触媒の人形は、雌型と雄型があり、

雌型は正座で雄型は座禅を組んだ姿で安置されている。


この召喚が成功すれば、この人形に異世界の英霊たちの御霊、正確には霊魂の複製体エコーが入り込む事になるはずだ。


召喚士達が詠唱を始めて数分すると、法円の中心部に先ほど霊玉から放出された

大量のマナが集まっていき、やがてそれはガス惑星のようにグルグルと

渦を巻きながら楕円の球体を形成していった。


「よし、そろそろ頃合いだろう、千代!仕上げるぞ。手伝ってくれ!」


「はい、士長ただいま!」


力場が安定した頃合いを見て、ナガセが八千代を呼び術の最後の仕上げにかかる。

2人で並び立ち、全召喚士達の見守る中2人が最後の詠唱に掛かる。


『天地八層八極の理において、異なる世にてその名を馳せし勇者、賢者、王者、英雄達よ今一度この地に降りてその意を示し給う!我が求めに応じ顕現せよ!』


最期の詠唱と同時に2人はバババっと両手で印を素早く組むと、先程形成された球体は徐々に美しい人の顔に変化していった。

この予想外の光景にナガセと八千代は大きく目を見開いて固まってしまった。


見たことも無いようなその美しい容姿の女性の姿をした霊体は、カッと目を見開くと

金色に光り輝く双眸でナガセ達を睥睨した。

ナガセ達がそのこの世の物ではないだろうその神秘的な光景に圧倒されていると

その女性の霊体が厳かに口を開き、言葉を紡ぎ出した。


「・・・・・・ザッ・・・・PN53星系ヨリ座標N564・・・S1643・・T2004・・メインシステムへのアクセス要求・・・

・・・認可されました。多次元世界と連結します・・・・・・構築しています・・ザー」


まるで神話の世界の女神のような神々しさを感じる霊体、いや聖幽体とも言うべき

聞いた事も無い言語で何事か話し始めた。

ナガセ達に話しかけているというよりも、どちらかと言えば独り言に近い感覚だろうか?


ナガセは思わず八千代と顔を見合わせると、彼女の少し困惑したような不安げな

表情が目に入る。だが彼は黙って自信満々な笑顔で頷いて見せる。


彼自身も何故かとんでもない禁忌に触れてしまったような、得体の知れない

謎の背徳感を感じ背筋に冷たい物が流れたが、皆を不安にさせないよう精一杯

虚勢を張って笑顔で前を見た。

そんなナガセの姿を見て、八千代も普段の冷静さを取り戻し事態を見守った。


「ザザッ・・・連結に成功しました。これより特定SS級スキル保持者情報をランダムに

選出します。・・・確定しました。百名の遺伝子情報抽出及び指揮者コンダクターを呼び出します」


そこでしばらくの静寂が流れた。他の召喚士達は力場を安定させる為に絶えず

作業をしながらも不安げに事態の進行を見守っている。


「・・・・抽出完了。コレヨリ触媒に遺伝子情報をインストールします。エーテルサーキットオープン・・・・

ドライブシーケンス実行中」


ここで初めて大きな動きがあった。霊玉から溢れ出している濃密なマナが集まり出し

複数の人型の霊体を形成し始めたのだ。

輝きを放つその霊体群は、次々と用意してあった触媒である人形に入り込んで

いった。


霊体が入り込んだ人形は瞬く間に姿を変え、英雄の在りし日の姿に変貌を遂げた。

前回召喚を試みた際には成しえなかったこの光景に全召喚士達からどよめきが

上がる。


「SSスキル保持者百名のインストールを完了、指揮者コンダクターを呼び出しています。警告!指揮者の器が確認できません。器を用意してください」


「器?器だと?そんなものがいるとは聞いてないぞ?どういう事だ?」

 

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