第7話 101回目の配信(2/2)
「じゃあまずは、『どうして色々な分野に手を出してるの?』という質問に答えるよ」
明らかに一番多い質問がコレである以上、答えない訳にはいかない。
なので勢い任せに応えると言ってしまったものの……。
結論から言おう。
俺は……唸った。
「うーん……ううーん」
[コメント欄]:
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>“めっちゃ悩むやん”
>“何でも答えるんじゃないんかい!”
>“言えない理由なのかな?”
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参った。
このままでは、また嘘を吐いてしまうことに。
何でもいいから、それっぽいアンサーを出さないと……。
「カッコいいから?」
[コメント欄]:
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>“そんなわけないでしょ”
>“普通、5つ名義なんてやらんて”
>“なんか適当に答えてない?”
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やる気があって睡眠時間削れば、人間意外と何でもできると思うし、変じゃないと思うけど……。
ええい、ままよ!
もうこの理由で貫いてやるしかない。
「いやさ、みんな子供の頃、夢の百つ千つあったでしょ?」
[コメント欄]:
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>“二つ三つでは……?”
>“もうボリュームが違うんだけど”
>“逆に五条先生、千個も夢あったってヤバし”
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「いやいや、宇宙飛行士になりたいし総理大臣になりたいじゃん。まっ、ロマンに突っ走っただけかな」
色々と手を出したのは、ちょっと欲張ったという話ということにしよう。
実際、妹を喜ばせるために、俺が欲張りだったというだけなのだから、嘘じゃない。
[コメント欄]:
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>“ただの男の子だった”
>“そこに痺れる憧れるぅ!”
>“ガキみたいな理由でとんでもないんだよなぁ”
>“妹ちゃんにも隠してた意味あった?(笑)”
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「妹に隠してた理由? あー……ほら、やっぱり恥ずかしいじゃん」
これは完全に本心だった。
やっぱり健全なお兄ちゃんとしては、妹を陰ながら支えるものだからな。
いやぁ、やっぱりカッコいいからって理由で間違いない。
……こうしてバレなければ、もっとクールだったと思うけど、そこは俺も詰めが甘かった。
[コメント欄]:
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>“意外と女々しかった……”
>“五条先生、カッコいいしかわいい”
>“ワイならSNSでイキり散らかすのに”
>“やっぱり……二条ロンは両性類だったのか”
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なんか『両性類』とかいう意味不明な造語がコメントに流れた気がするけど……きっと『両声類』の誤字だよな……?
俺は正真正銘の男だ。
というか、隠していた理由の一つには、自分の声があまり好きじゃないのもある。
女性と間違われるのは、やはり翠の『お兄ちゃん』としての尊厳が許せないからな。
そっとコメント欄のNGワードに『お姉ちゃん』を加えておいた。
すると、コメント欄の奇妙な流れに気付く。
[コメント欄]:
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>“このスペックで個人勢なの勿体ない”
>“Vtuberグループ、何処に入りますか?”
>“『ハローライブ』に一票!”
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どうやら、俺のVtuberとしての活動について、期待を煽るようなコメントの数々。
五条蘭はずっと個人勢を貫いてきた。
そもそもグループに入っていたら、コンセプトが『ボッチな俺が配信ヒトスジ!』になんて、ならないからな。
「次の質問、『Vtuberグループ、何処に入りますか?』なんだけど、ところで『ハローライブ』は女性オンリーの箱じゃなかったっけ……俺を炎上させにきてるアンチいる?」
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“さすがに草”
>“女の子に転生しない?”
>“今の五条先生ならイケる”
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イケるわけないし、イケてもしないけど……。
「いや、俺はVtuberとしてはまだまだだよ。色々と工夫してるし手を抜いている気もないけど、俺より努力してるすごい配信者さんとか沢山いるから」
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“謙虚すぎwww”
>“良いこと言うなぁ(同接チラリ)”
>“個人勢で見たことない同接なんだよなぁ”
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「……いやいや、今日はホント、色んな方々に配信来ていただけて嬉しいんだけど、偶然バズった感じだからさ……」
不幸中の幸いというか……俺からすれば、かなり意外な展開になっている。
俺の中では、色々と正体がバレた時点で、活動を自粛するつもりだったから。
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“偶然とは……?”
>“やっぱ声がいいからな~!”
>“やっぱガワがいいからな~!”
>“やっぱ実力じゃん!!”
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「いや……声は実力じゃないんじゃないか? ほら、ボイスチェンジャーで加工してるし」
視聴者はみんな俺を褒めてくれるけど、そんなに担ぎ上げられても困る。
いや、嬉しいんだけどさ。
[コメント欄]:
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>“なお加工前の方がイケボの模様”
>“五条先生、ある意味で天然だよなwww”
>“ツッコミどころが多すぎるんだが”
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みんな……何言っても褒めてくれるけど、逆に怖いよ?
「あ、でもこの立ち絵の2Dモデリングは結構頑張ったから、少し自画自賛してる」
さっき謝罪した時も、きちんと頭を下げるモーションが機能していた。
初めて作ったにしては、かなりいい出来に仕上がったと思っている。
別に謙遜したい訳じゃないので、ハッキリと自慢していくことにした。
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“え、モデリングも五条先生なん?”
>“サラッととんでもないこと言ってない?”
>“モデリングもできるのか……”
>“モデラーわい、絶句”
>“同じ次元に生きてる?”
>“逆に何ができないんだよ、この男は”
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あれ……謙遜のし過ぎかと思って、一個自慢しただけなのに、なぜか「すごい」と言われる。
いや、褒めてほしくて言ったけど、過剰に褒めたたえすぎじゃないかな。
五条蘭の視聴者にはイエスマンしかいないとか噂されたら、イヤなんだけど……。
よし、話題を変える為に……次の質問を探そう。
――って、さっきの質問答えてないや。
「えーっと、そんな訳で今のところVtuberとして困っていることは無いので、グループには入りません! はい、次っ! 『コラボしないんですか?』……うーん、そうだなぁ」
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“おおおおお!”
>“え、コラボ!?”
>“マジでやってほしいっス”
>“コラボには乗り気なんだ・・・期待!”
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などとコメント欄は賑わっているものの、話の流れを変えたくて強引に言ってしまっただけなので、何も考えていなかった。
コラボ……? え、コラボする意味ある?
勢い任せで口走ったとはいえ、コメント欄は期待の嵐。
さっきよりも困ったことになってしまった。
――いや、待てよ……?
「ははは、知り合いならいいかな……俺から誘って断られたら悲しいので、声をかけてもらうのを待つ感じかな」
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“言質取ったからな?”
>“コラボ楽しみ~”
>“さすがに断る人いないでしょ笑笑”
>“引く手あまただし、良い考えかも”
>“あれ、五条先生の知り合いなんていたっけ”
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さて、お気づきだろうか。
五条蘭の古参視聴者ならご存知だが、悲しいことに俺は『ボッチ』なのだ。
いや、コンセプトが『ボッチな俺が配信ヒトスジ!』の時点で気付けると思うけど。
すなわち、俺に知り合いなんていない。
一時は困ったことを口走ったと焦ったけど、これでコラボなんてものは回避したも同然だ。
勝ったッ! 第3部完!
「いやー、コラボ楽しみだなー……誰が声かけてくれるんだろー(棒読み)」
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“なんで棒読み”
>“もしかしてコラボしたくない?”
>“おい、知り合いなんていないだろ!!”
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どうやら、気付く視聴者も出てきたようだ。
コメント欄は荒れているけど、実際のところ五条蘭の配信はいつもこんな感じなので、これでいい。
――などと調子を取り戻したその時。
[Super Thanks]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄♫
【水原美音】>“久しぶり一条くん。子役時代、お世話になった水原です。私も今、イラストレーターとして活動しているんだけど、知り合いってことでコラボ申し込んでもいいかな? あ、絵描きの名義は、DMで送るね”
♫____________________◢
「え……?」
突然の投げ銭と同時に映された名前は、間違いなく俺の知っている名前だった。
しかも、イラストレーター……だと?
[コメント欄]:
◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖
>“え、女優の水原美音?”
>“待って、子役時代って何だよ!”
>“盛り上がって参りましたーーー!!!”
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わけがわからないよ。
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈あとがき┈┈┈┈┈••┈୨୧
森山さんとマネージャーさんの霊圧が・・・
こちら本編完結しました
・『カフェで笑顔の可愛いデレ天使の正体が、誰にも微笑まないクール担当アイドルなわけ』
https://kakuyomu.jp/works/16817330660441855801
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
実はモデルであり声優であり絵師であり小説家でありVtuberの俺、配信切り忘れたらすべて同一人物だとバレたぁぁぁぁぁ!!!!! 佳奈星 @natuki_akino
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