第7話 101回目の配信(2/2)

「じゃあまずは、『どうして色々な分野に手を出してるの?』という質問に答えるよ」


 明らかに一番多い質問がコレである以上、答えない訳にはいかない。

 なので勢い任せに応えると言ってしまったものの……。


 結論から言おう。

 俺は……唸った。


「うーん……ううーん」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“めっちゃ悩むやん”

>“何でも答えるんじゃないんかい!”

>“言えない理由なのかな?”

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 参った。

 このままでは、また嘘を吐いてしまうことに。

 何でもいいから、それっぽいアンサーを出さないと……。


「カッコいいから?」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“そんなわけないでしょ”

>“普通、5つ名義なんてやらんて”

>“なんか適当に答えてない?”

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 やる気があって睡眠時間削れば、人間意外と何でもできると思うし、変じゃないと思うけど……。


 ええい、ままよ!

 もうこの理由で貫いてやるしかない。


「いやさ、みんな子供の頃、夢の百つ千つあったでしょ?」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“二つ三つでは……?”

>“もうボリュームが違うんだけど”

>“逆に五条先生、千個も夢あったってヤバし”

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「いやいや、宇宙飛行士になりたいし総理大臣になりたいじゃん。まっ、ロマンに突っ走っただけかな」


 色々と手を出したのは、ちょっと欲張ったという話ということにしよう。

 実際、妹を喜ばせるために、俺が欲張りだったというだけなのだから、嘘じゃない。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“ただの男の子だった”

>“そこに痺れる憧れるぅ!”

>“ガキみたいな理由でとんでもないんだよなぁ”

>“妹ちゃんにも隠してた意味あった?(笑)”

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「妹に隠してた理由? あー……ほら、やっぱり恥ずかしいじゃん」


 これは完全に本心だった。

 やっぱり健全なお兄ちゃんとしては、妹を陰ながら支えるものだからな。

 いやぁ、やっぱりカッコいいからって理由で間違いない。


 ……こうしてバレなければ、もっとクールだったと思うけど、そこは俺も詰めが甘かった。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“意外と女々しかった……”

>“五条先生、カッコいいしかわいい”

>“ワイならSNSでイキり散らかすのに”

>“やっぱり……二条ロンは両性類だったのか”

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 なんか『両性類』とかいう意味不明な造語がコメントに流れた気がするけど……きっと『両声類』の誤字だよな……?

 俺は正真正銘の男だ。


 というか、隠していた理由の一つには、自分の声があまり好きじゃないのもある。

 女性と間違われるのは、やはり翠の『お兄ちゃん』としての尊厳が許せないからな。


 そっとコメント欄のNGワードに『お姉ちゃん』を加えておいた。


 すると、コメント欄の奇妙な流れに気付く。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“このスペックで個人勢なの勿体ない”

>“Vtuberグループ、何処に入りますか?”

>“『ハローライブ』に一票!”

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 どうやら、俺のVtuberとしての活動について、期待を煽るようなコメントの数々。

 五条蘭はずっと個人勢を貫いてきた。

 そもそもグループに入っていたら、コンセプトが『ボッチな俺が配信ヒトスジ!』になんて、ならないからな。


「次の質問、『Vtuberグループ、何処に入りますか?』なんだけど、ところで『ハローライブ』は女性オンリーの箱じゃなかったっけ……俺を炎上させにきてるアンチいる?」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“さすがに草”

>“女の子に転生しない?”

>“今の五条先生ならイケる”

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 イケるわけないし、イケてもしないけど……。


「いや、俺はVtuberとしてはまだまだだよ。色々と工夫してるし手を抜いている気もないけど、俺より努力してるすごい配信者さんとか沢山いるから」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“謙虚すぎwww”

>“良いこと言うなぁ(同接チラリ)”

>“個人勢で見たことない同接なんだよなぁ”

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「……いやいや、今日はホント、色んな方々に配信来ていただけて嬉しいんだけど、偶然バズった感じだからさ……」


 不幸中の幸いというか……俺からすれば、かなり意外な展開になっている。

 俺の中では、色々と正体がバレた時点で、活動を自粛するつもりだったから。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“偶然とは……?”

>“やっぱ声がいいからな~!”

>“やっぱガワがいいからな~!”

>“やっぱ実力じゃん!!”

❖____________________◢


「いや……声は実力じゃないんじゃないか? ほら、ボイスチェンジャーで加工してるし」


 視聴者はみんな俺を褒めてくれるけど、そんなに担ぎ上げられても困る。

 いや、嬉しいんだけどさ。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“なお加工前の方がイケボの模様”

>“五条先生、ある意味で天然だよなwww”

>“ツッコミどころが多すぎるんだが”

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 みんな……何言っても褒めてくれるけど、逆に怖いよ?


「あ、でもこの立ち絵の2Dモデリングは結構頑張ったから、少し自画自賛してる」


 さっき謝罪した時も、きちんと頭を下げるモーションが機能していた。

 初めて作ったにしては、かなりいい出来に仕上がったと思っている。


 別に謙遜したい訳じゃないので、ハッキリと自慢していくことにした。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“え、モデリングも五条先生なん?”

>“サラッととんでもないこと言ってない?”

>“モデリングもできるのか……”

>“モデラーわい、絶句”

>“同じ次元に生きてる?”

>“逆に何ができないんだよ、この男は”

❖____________________◢


 あれ……謙遜のし過ぎかと思って、一個自慢しただけなのに、なぜか「すごい」と言われる。

 いや、褒めてほしくて言ったけど、過剰に褒めたたえすぎじゃないかな。


 五条蘭の視聴者にはイエスマンしかいないとか噂されたら、イヤなんだけど……。


 よし、話題を変える為に……次の質問を探そう。

 ――って、さっきの質問答えてないや。


「えーっと、そんな訳で今のところVtuberとして困っていることは無いので、グループには入りません! はい、次っ! 『コラボしないんですか?』……うーん、そうだなぁ」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“おおおおお!”

>“え、コラボ!?”

>“マジでやってほしいっス”

>“コラボには乗り気なんだ・・・期待!”

❖____________________◢


 などとコメント欄は賑わっているものの、話の流れを変えたくて強引に言ってしまっただけなので、何も考えていなかった。


 コラボ……? え、コラボする意味ある?

 勢い任せで口走ったとはいえ、コメント欄は期待の嵐。

 さっきよりも困ったことになってしまった。


 ――いや、待てよ……?


「ははは、知り合いならいいかな……俺から誘って断られたら悲しいので、声をかけてもらうのを待つ感じかな」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“言質取ったからな?”

>“コラボ楽しみ~”

>“さすがに断る人いないでしょ笑笑”

>“引く手あまただし、良い考えかも”

>“あれ、五条先生の知り合いなんていたっけ”

❖____________________◢


 さて、お気づきだろうか。

 五条蘭の古参視聴者ならご存知だが、悲しいことに俺は『ボッチ』なのだ。

 いや、コンセプトが『ボッチな俺が配信ヒトスジ!』の時点で気付けると思うけど。


 すなわち、俺に知り合いなんていない。

 一時は困ったことを口走ったと焦ったけど、これでコラボなんてものは回避したも同然だ。


 勝ったッ! 第3部完!


「いやー、コラボ楽しみだなー……誰が声かけてくれるんだろー(棒読み)」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“なんで棒読み”

>“もしかしてコラボしたくない?”

>“おい、知り合いなんていないだろ!!”

❖____________________◢


 どうやら、気付く視聴者も出てきたようだ。

 コメント欄は荒れているけど、実際のところ五条蘭の配信はいつもこんな感じなので、これでいい。


 ――などと調子を取り戻したその時。


[Super Thanks]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄♫

【水原美音】>“久しぶり一条くん。子役時代、お世話になった水原です。私も今、イラストレーターとして活動しているんだけど、知り合いってことでコラボ申し込んでもいいかな? あ、絵描きの名義は、DMで送るね”

♫____________________◢


「え……?」


 突然の投げ銭と同時に映された名前は、間違いなく俺の知っている名前だった。

 しかも、イラストレーター……だと?


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“え、女優の水原美音?”

>“待って、子役時代って何だよ!”

>“盛り上がって参りましたーーー!!!”

❖____________________◢


 わけがわからないよ。









୨୧┈••┈┈┈┈┈┈あとがき┈┈┈┈┈••┈୨୧


森山さんとマネージャーさんの霊圧が・・・



こちら本編完結しました

・『カフェで笑顔の可愛いデレ天使の正体が、誰にも微笑まないクール担当アイドルなわけ』

https://kakuyomu.jp/works/16817330660441855801


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

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実はモデルであり声優であり絵師であり小説家でありVtuberの俺、配信切り忘れたらすべて同一人物だとバレたぁぁぁぁぁ!!!!! 佳奈星 @natuki_akino

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