第6話 101回目の配信(1/2)

 掲示板を見る限り、どうやら俺のことを受け入れてくれている人は多いらしい。


 正直、みどりのことばかり考えてきて、ファンのことを考えてきたかと言われれば嘘になる。

 だから、ちょっぴり怖かったのだ。

 でも……杞憂だった。


 あの後、森山さんやマネージャーさんを含む関係者の人達に一通り話を通した。

 結果、彼女らも妹と同じ意見らしく、これといって活動を制限する必要なんてないと言われてしまった。


 というか『体調、大丈夫なんですか?』などと心配されてしまう始末。

 実際、若干の不調はまだあるけど、妹の顔を見れば一瞬でHP満タンだ。


 ――そんなわけで翌日。

 ファンや視聴者に対する声明を出すためにも、配信を開始したのだが――。


「こんにちは〜、じょうらんです。初めましての方もいらっしゃ……えっ、同接バグってない?」


 桁がいつもより2つ違う気がするのは、気のせいじゃないよな……?


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“キタアアアアア”

>“待ってました!”

>“『極雪のエレン』読みました”

>“コメント速すぎwww”

❖____________________◢


「あっ、ちょーっと待ってください。これでいいかな?」


 とんでもない勢いで流れるコメントの数々。

 配信者としてはとても嬉しいけど、落ち着いて対処する。


 配信が楽しいのはコメント欄も含めて、リアルタイムで感情を共有できるからだ。

 コメントに時間制限を設定してから、改めて挨拶することにした。


「改めまして、五条蘭です。記念すべき101回目の配信は、謝罪で始めさせていただきます」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“初見です”

>“コメント制限助かる”

>“ホントにロン様のお声だぁ”

>“謝罪で始めるのかよ笑笑”

>“え、なにこの流れ”

❖____________________◢


 時間制限を取り入れたとはいえ、コメント欄は賑わっていた。

 しかし、その中に戸惑いのコメントもチラホラ。


 名前とアイコンを見れば、俺の配信に来てくれている古参視聴者の一人だとわかる。

 どうやら、状況がわかっていない様子だ。


「えー、謝罪の前にまずはっ、昨日の出来事について説明させてください。知らないで見にきている方もいらっしゃると思うので」


 視聴者をコントロールすることなんて出来ないけど、まずは誰にとってもわかりやすい説明が必要だろう。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“まだ半信半疑だから助かる”

>“昨日の配信、消されちゃったからな〜”

>“一体どこまで本当なんだ!?”

>“今日は敬語モードなんすか”

❖____________________◢


 切り忘れた配信のアーカイブについては、申し訳ないと思いながらしっかりと削除した。


 というのも……翠の声がバッチリマイクに入ってしまったからだ。

 俺の私生活なんていくらバレても構わないけど、妹の声を残すわけにはいかない。


 ――妹の超絶キュートな美声を聞いて、うっかり惚れてしまう男共も多いだろうから。


 SNSで勝手に拡散されている切り抜きの音声データについては、ありがたいことにマネージャーさんが対処してくれている。


「結論から言いますと、俺は一条蓮という名前でモデルをしています。今は超絶イケメンなガワを被っていますが、普段はちょっとランクダウンしてます」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“ランクアップしてるの間違いじゃね?”

>“五条先生 < 一条蓮”

>“てか、それだけじゃないだろ――!”

❖____________________◢


「おい誰だよ今、俺と俺を比べたヤツは! 五条蘭のガワ描いたイラストレーターさんに謝れよ!」


 ボイスチェンジャーをかけて、加工した声で話す。

 おっと、いつものノリになると、つい敬語が抜けてしまった。


 でも、まったく失礼な話だ。

 絵師さんが丹精込めて描いたこの立ち絵をバカにするなんて、許されない。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“あ、いつもの五条先生だ!笑笑”

>“自己紹介かな?w”

>“俺と俺とは(真理)”

>“たしかに三条先生なら怒っていい”

>“今更だけど立ち絵描いたの三条ルンだよな?”

>“もう検証班が見抜いてて草なんだ”

❖____________________◢


 うん……バレてる。


「はい。というわけで、多分声でバレてると思うけど、二条ロンです。またイラストレーターとしての名義は三条ルンです。立ち絵は頑張りました」


 今までVtuber『五条蘭』を描いたイラストレーターは秘密にしていたため、初公開の情報だ。

 とはいえ、何やら検証班とかいう人達にはバレていたらしいけど。


「それで、小説も書いていて、そちらの名義は四条凛です。色々と名義を持っていますが、基本的には五条蘭として配信していきますので、よろしくお願いします」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“名前多すぎィ!”

>“ヤベェのは、すべて著名ってとこ”

>“四条凛、1000万部作家の中で最少年齢と発覚”

>“もうVtuberのグループメンバーなんよ”

❖____________________◢


「それで、ですね。これまで隠し通してきたことを、しっかりと謝罪させていただきたいです」


 俺はしっかりと頭を下げる。

 それもデスクの前でただその動きをするだけでなく、Vtuberの立ち絵も頭を下げるように動かした。


 コメント欄は優しくて、俺を責めるような言葉を打つ視聴者はいなかった。

 けど、俺にもケジメを付けなければならないことがある。

 それは――。


「温かいコメントありがとう。でも、これはきちんと今までの視聴者向けに言わせてほしい。五条蘭のコンセプトは『ボッチな俺が配信ヒトスジ!』だったのに、嘘吐いてごめん」


 ――そう。

 今回の一件は、俺が実際にはまったく配信ヒトスジじゃなかったという内容を示すものだ。

 こればっかりは明確な嘘だし、謝るべきだろう。


「なので、今回はなるべく多く、何でも質問に答えていく配信にしたいと思う」


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“ん?”

>“ん……?”

>“おや……?”

>“何でも……?”

❖____________________◢


 コメント欄がざわめく。

 勢いで言ってしまったが、『何でも』答えるのは、少し言い過ぎたかもしれない。


 訂正しておこうと思ったその瞬間だった。

 同じ質問が幾つも、コメント欄に散見されて、嫌でも目に入る。


[コメント欄]:

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄❖

>“どうして色々な分野に手を出してるの?”

❖____________________◢


 そりゃ、気になるだろう。

 うん……俺が視聴者だとしても、気になると思う。


 でも困った。

 言葉は慎重に選ぶ必要がありそうだ。

 さすがに翠を喜ばせるため……だなんて言える訳がない。



 だって、そんなの――公開告白じゃないか!?

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