第2話 配信事故(2/2)
《おつかれですね、先生》
妹の勉強に付き合ってから一時間後、俺は企画会議として編集者の森山さんとボイスチャットをしていた。
小説家……
「ご無沙汰してます」
《第2稿の進捗はいかがでしょう》
「今日中にあげます」
今日の配信で疲れていたのは、配信前までずっと執筆を行っていたからである。
無事に進捗をあげられて良かったという安心半分、やはり配信で疲れを見せてしまった弱さを悔いた。
[コメント欄]:
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>“なんか始まった?”
>“五条先生、まだ気付いてないし……”
>“まるで小説家みたいだ”
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『了解しました。……はぁ』
「森山さんもお疲れ様です」
《えぇ。編集の仕事もそうだけど、今ちょっと……推しが炎上しているみたいで、気が気じゃないの。早く退社して、何が起きたのか確認したいわぁ》
推しが炎上……それは大変だ。
俺も妹の推しを目指す以上、絶対に炎上しないよう気を付けている。
「それなら、会議は早めに済ませましょう。俺も眠いので――」
《いえ、気を遣わないで大丈夫です。四条凛先生こそ、イラストレーターの
森山さんは、実に頼もしい編集者さんだ。
そう……俺は小説家の四条凛であると同時に、イラストレーター……三条ルンである。
仕事の関係上、森山さんだけには正体を明かしているのだ。
もちろん、他に名義を持っていることは伝えていないが。
[コメント欄]:
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>“空耳か?”
>“四条凛って、人気ファンタジー小説家の!?”
>“待って、神絵師三条ルンとか嘘でしょ”
>“さ、さすがにネタだよな?”
>“五条蘭=四条凛=三条ルン=二条ロン!?”
>“盛り上がってまいしました~”
>“あわわわわ推しが推しで推し~~っ!?”
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と、そんな時だった――。
スマホのバイブレーションが鳴った。
こんな時に電話だ。
俺にプライベートの友人なんてものはおらず、電話をかけてくるとすれば妹か――。
「森山さん、すみません少し電話を」
《どうぞどうぞ》
俺はボイスチャットアプリのミュートボタンを押してから、電話に出た。
着信相手は、俺のことを良く知るマネージャーだった。
『れ、れれれ、んさん!』
「どうしたんですか? そんな慌てて。俺の名前は
『あああああああああああああああ』
電話越しに大声を出すマネージャーさん。
さすがの声量に、俺は一度スマホを耳から外した。
何をそんなに慌てているんだろう。
[コメント欄]:
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>“モデルの一条蓮って、あの?”
>“調べたけど、イケメンすぎ”
>“てかまだ十代じゃん”
>“男でも推せるレベルや”
>“私推しなんだけど”
>“完全にオーバースペックじゃん”
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『と、とにかく落ち着いてください』
「……マネージャーさんも落ち着きましょう」
『れ、蓮さんの方が今ヤバいんですって!』
お酒に酔っているのだろうか。
俺はマネージャーさんが心配で仕方なくなったが、そんな時――部屋の扉にゴンゴンと強いノックが響いた。
「お、おおお、お兄ちゃん!!」
「み、翠!? すみませんマネージャーさん……しばしお待ちを――」
「お兄ちゃん配信! 配信切れてないよ!」
「…………え?」
頭が真っ白になった。
愛しの妹が、まるで俺の秘密を知っているような物言い。
夢か何かかと思い、頬をつねってみる。
だが、夢から覚める事はなかった。
[コメント欄]:
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>“妹ちゃんが気付いた”
>“でも、もう時遅し!”
>“五条先生って……何者?”
>“最強すぎる”
>“もうこの人一人でよくないですか?”
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『落ち着いてきいてください。蓮さん……いえ、五条さん。配信が切れていません』
スマホから聞こえだすマネージャーさんの声。
俺は恐る恐るタスクマネージャーを開き、マイクとそして……配信がオンになっていることに気付いた。
「…………幻覚か」
「お兄ちゃん幻覚じゃないよぅ!!」
『正気になってください、蓮さぁん!』
森山さんがメンションしていた。
〈五条先生……会議、配信されていました〉
――――どうしよう。
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