これが危機管理能力って奴や
どうも、現在絶賛国外逃亡中のジル君やで。
なんで逃げとるか聞きたいって? しょうがないなぁ、教えたるわ。
まず考えてほしいんやけど、俺って王様から見たらどんな存在に映るのか。そうやね、逆賊宰相さんにホイホイ金で釣られた薄汚い傭兵や。最後の最後で裏切ったとはいえ、王様達に剣を向けた罪は大きいで。
それにレティシアにも大分舐めた口きいとったからな。これも不敬罪キメとるね。
総括すると、捕まったら死刑!!!!!!! ってことや。
そらもう国外逃亡するしかあらへんよな。流石の俺も命が惜しいで。
何故か拘束というか監視? が甘かったから簡単に逃げられたけれども。重犯罪人であるジル君に対して拘束具も付けなかったのは、王様達のぬるさが出とる。
やから宰相さんに寝首かかれたんとちゃうん? まぁそのぬるさに助けられたんやけど。
結局あのあと、縄でグルグル巻きにされた宰相さんと、そのまま帰ろうとしていた俺は馬車に放り込まれた。諸共犯罪者用のボロっちいというか無機質なやつに乗せられると思ったら、レティシア達と同じやけに豪華なものに乗せられたから脂汗が止まらなかったで。
なんや、俺に何をするつもりなんや、ってバクバクが止まらなかったわ。
王様はいの一番に頭を下げて、その後にレティシアまで頭を下げよった。もちろんすぐにやめてくれと懇願した訳やけど、今考えたらアレ罠やね?
薄汚い傭兵風情(俺)に頭を下げる高貴な人達(レティシアと王様)……間違いなく顰蹙を買うわ。
つまりあのままにしとったら、
『貴様! 王族に頭を下げさせるとは、何たる無礼!』
『ひぇっ、お許しを……』
『黙れぇ! 死刑だぁ!』
『ぐあぁぁぁぁぁっ』
こういう結末を辿ってたってことや。
流石に国家を運営する一族、直接的な力では俺に敵わんと見て、最も効率的な殺し方を即選択するとは頭のキレが違うわ。油断してたら今頃お陀仏やね。
その後も今まで見たこともないような豪華な料理を出されたり、フッカフカのベットとかを提供されたわ。どう考えても最後の晩餐の類やろ。深夜に城を抜け出してきて正解やった。
「ふー…………関西弁糸目キャラも大変やね」
俺は安堵のため息を付きながら、テクテクと整備された街道を歩いていた。
何も持たずに抜け出してきたものやから、いまいち安心安全という訳やないけど……命あっての物種やからね。贅沢は言えんわ。
関西弁糸目キャラはミステリアスって相場が決まっとるから、頑張って寝なくても大丈夫なように修行しとって良かったわ。おかげで結構城から距離稼げたで。
転生してきてからビックリしたんやけど、この世界の国って隣接しとるわけやないんやね。城壁に囲まれた街――というには大きすぎる国が、ポツポツと点在している感じや。イメージとしてはポリスが近いんかな?
そんな感じで次の国を求めて三千里してた俺やけど、途中で村に繋がってそうな細い脇道が伸びてたから、ちょっと休憩していくことにした。
いくらなんでも休み無しで歩きっぱなしって訳にもいかんからな。まだ俺は人間の範疇におる。
ちょっと前までは農村とかの小さいコミュニティーは排他的やったらしいけど、最近は勇者とかの活躍で旅人が増えとるらしいね。その影響で外の者にも寛容になっとるとか。
ちょっと前に村に立ち寄ったら、思ってたよりも歓迎されて吃驚したものや。いい時代になったんやね。
おそらくはどんぐりの木であろう森を抜けると、そこには小さな農村があった。
◇
最初は、申し訳ないですけど胡散臭い人に見えました。
黒髪で中肉中背、まぁこれくらいだったらちょっと珍しい人です。しかし変な話し方に決して開かない両の目、むせ返るほどの怪しい雰囲気を醸し出していれば、誰がどう見ても胡散臭い人。
むしろ初対面で訳の分からない話を振られて、結構まともに対応していた私のほうが凄いのではないでしょうか。
そうでなくても、その時の私はお父様が殺されて這々の体で逃げていた身。何とかレジスタンスの方々の元に逃げ込んで、ようやく一息つけると安心していたところに現れたのです。思わず刺々しい反応を返してしまうのも仕方がないでしょう。
……何故か、途中からは警戒心もなくなっていましたが。
これって私がチョロいとかそういう訳じゃないですよね?
崩落する拠点から脱出して、これで大丈夫と思ったところに、宰相が出てきて終わりだと思いました。
しかしジルさんは平然とその場を切り抜けると、なんとお父様が!
もう二度と会えないと思っていた家族と再開でき、思わず乙女として色々と人に見せられない顔になってしまいましたが、おそらくジルさんには見られていないので大丈夫です。
それから何故か逃げようとする彼を留めたり、命を救ってくださった恩に感謝を告げようとしたのですが……。
「あー、頭上げてくださいな。俺はそんな大層なことしてへんよ。むしろ宰相さんに手を貸したんやから、立場としては逆賊やで?」
「そんな……ジルさんは私を命がけで守ってくれたり、多くの傭兵に囲まれたお父様やお母様を幻覚で守ってくれたではありませんか……」
「うーん、ほら、そら仕事やったから。報酬目当てでやったんや」
ポリポリと頬を掻きながら、馬車の窓から外を眺めるジルさん。
どうにもその言葉が嘘臭く思えて、私は笑ってしまいました。
「そうです、報酬の話です。確か宰相の三倍の額と仰っていましたよね?」
「あー…………そんなことも言っとったなぁ」
「これは私の依頼です。お父様に頼らず、自分の力だけで払ってみせます。時間はかかるかもしれませんが、必ず支払いますので、その額をお教えください」
「んー……」
彼は腕を組んで首を傾げると、しばらく目をつぶりました。
「……じゃあ、銅貨三枚」
「え」
「子供の駄賃みたいなものやろ?」
そう言って、器用に片目だけでこちらを見やる。
得意気なその顔に不思議と言葉が詰まって、でも、私は叫んでしまって。
「しかし! 宰相は『そんな大金すぐには払えない』と言っていました! そんな銅貨一枚が報酬だった訳な――」
「でも支払われてないで? 実際になかったものを断言するのは無理やないか?」
「……っ」
でも、でも、でも。
一国の王族を殺すなんて、そんな依頼、まともな金額じゃ受けません。
それほどまでに、法外な金額だったはず。
それなのに、ジルさんはまるでなんとも思っていないかのように、先程までと同じく窓の外を眺めています。何も言えなくなってしまった私は、微笑ましいものでも見るかのように目を柔らかくするお父様と目があって、顔が赤くなるのを自覚しました。
「レティシア。ジルさんがそう言っているんだ、そういうものなのだろう」
「お父様――!」
「まぁまぁ、恩に報いるというのは、何も金銭だけではないのだぞ?」
お父様は快活に笑いました。それは最近見ることのなかった、本当に心の底からの笑顔です。
「なぁに、私もこの座に辿り着くまでに相当無茶をしたものだ。確かに戦闘にはとんと向いておらんが、そういう方面は任せなさい」
「これは、その……本当に食べても大丈夫な奴なんやろか」
今まで飄々としていたジルさんが、
そこにあったのは私ですらそうそうお目にかかれない御馳走達。本来の報酬には到底及ばないでしょうが、それでも僅かに恩に報いろうという意志を形にしたものです。
……それでも不満があるとすれば、自分で恩返しがしたかったですけれど。
彼の意外なほどに手慣れた様子の完璧なテーブルマナーに私が驚いたり、またまたお父様が用意した豪華なベットにジルさんが驚いたりしましたが、間違いなく幸せな一場面があったのです。
何も、問題などなかったはずなのです。
それなのに。
それなのに……どうして逃げたりしたんですか、ジルさん。
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