感動的すぎて居た堪れんわ

「あー、俺への依頼はレティシアを宰相さんに引き渡すことで良かったんやよね?」

「えぇ、その通りです。どうやら無事に達成して下さったようですね」

「ほんま疲れたで。なんたってこないに良い天気やのに、石が降ってきおったから」

「おやおや大丈夫でしたか? 私もジョセフさんとレティシア様がご無事そうで何よりです」



 けっ、嫌味なやつ。目の奥で「死んでいればよかったのに……」と思っていることがバレバレや。

 背中に隠したレティシアから強い怒りを感じるが、ここで出ていかれても面倒くさいことになるだけなので何とか抑えてもらう。気分はまるで子供をあやす先生やで。

 


「ところで尋ねたいんやけど、この大量の兵隊さんらはなんや? 皆引き連れてピクニックかいな」

「そう洒落込みたいところですけどね、あいにく我が国に重大な悪影響を及ぼす存在がいると聞きまして……涙をこらえて、討伐しに来たのです」

「そりゃお疲れ様」



 判を押したような鎧に同じく槍。さぞかし軍事に予算突っ込んでるんやろね。ばっちり訓練が行き届いていることが見るだけで分かるわ。王様は優秀やったんやね……まぁ、人を信じすぎるところが玉に瑕か。あんなあからさまに野心もりもりの宰相に寝首をかかれるなんて、やっぱり国家運営は身内に気をつけなければならないんやな、って。



「ではジョセフさん、その娘をこちらへ」

「………………うーん」



 にこやかに、しかし内心の気持ち悪さが外に出ているような笑みを浮かべ、彼はこちらに手を伸ばしてくる。大して暑くもないのに汗にまみれてるそれに触れたくないなぁ……。

 俺は腕を組んで首を傾げ、疑問に思っていたことを口に出した。



「俺に対する報酬っていつ払われるのやろか」

「は?」

「ほら、宰相さんって基地ごと対象を抹殺するような鬼畜やん? じゃあ報酬も『お前に払われるのは冥土への片道切符だよ!』とか言い出しそうでなぁ」

「そ、そんなことしませんよ……っ」



 おぉ、こめかみがピクピクしとる。何故かキレとるようやね。

 俺は依然馬鹿にするような態度を崩さないまま、わかりやすくため息を付いてやった。



「ぬるい環境で育ってきた宰相さんには分からへんかもしれんけど、傭兵ってこれくらい用心深くなきゃ駄目やねんな。仲間やと思ってたやつが急に剣を向けてくるとかよくあるねん」

「なるほど……」

「せやからここで報酬満額払ってもらな、こん娘さんを渡すわけにはいかんなぁ」

「いやしかし、そんな大金すぐには――」

「ほなら帰ってーや。ほら、帰れ帰れ」



 ぷちん。



 眼の前にいる男から、何か・・が切れる音が響く。



「――下手に出ていれば付け上がりよって! 所詮薄汚い傭兵は頭も回らんか!! おい、お前たち! あいつもろともレティシアを斬り殺せぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!!」



「…………えぇ? 急に何なん、こわ」

「ぜったい貴方のせいですよどうするんですかあんなにいたら逃げることなんて出来ませんよ!?」



 どう見てもブチギレている宰相さんにドン引きしていると、レティシアが顔を青くして襟を掴んできた。

 ブンブンと振り回される俺のほうが青くなってきたが、何とか抑える。



「まぁまぁ落ち着き。ほら、世界はこんなにも美し――」

「そんな美しい世界を見られなくなりそうだから困ってるんですどうするんですか!!」

「うーん……」



 だんだんと近づいてくる兵隊たちを眺める。

 やはり訓練されているだけあって、横一列に並んで隙は見当たらない。だが、おそらくは前国王の元で働いていたのだろう、レティシアに槍を向けることに躊躇しているというのが隙といえば隙か。



 詰み、やね。



「詰みじゃないんですよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「それは置いておいて、これって宰相さんからの依頼は破棄ってことでええんかな? 俺今にも殺されそうやし……」

「そうなんじゃないんですかねぇ! それよりも私は明日の太陽を拝めなさそうなことが気になります!」

「なるほど」



 じゃあ抵抗しても正当防衛ってことやね。なんか当たり屋みたいな感じになっとるけども。



「お嬢さん後ろに下がっとき。危ないで」



 白目をむいて色々乙女としての尊厳をかなぐり捨てているレティシアやけど、一応配慮して肩を押す。

 意外に抵抗はなくすんなりと従ってくれたけど、アレ意識がここにないだけやね? 

 ぺたんと腰を下ろした彼女を横目で見て、俺は気だるげな雰囲気を消さないまま兵隊らのところまで歩いていった。ダルそうにしてるやつは強いって全世界共通のルールやねん。いわんや関西弁細目は。

 


「殺すのはちょっとアレやし……拘束しとこか」



 植物魔法。



「うわああああああああああ!? なんだこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」



 俺が地面に向けて手をかざすと、硬い地表を割って自分の腕ほどもある太さのツルが伸びてきた。それらは簡単に兵士たちの脚に絡みつくと、体重などを感じさせず宙へ浮かばせる。

 そこに更なる蔓が追加。もはや外から見ると緑の繭みたいなものが完成した。

 エロゲーとかでこういうの見たことあるで。まぁ俺は清純派の関西弁糸目キャラやからそんなものやったことないけど。それはそれとしてむさ苦しい男どもが拘束されてる姿って需要ないなぁ。



「な、なにぃ!?」

「宰相さん宰相さん。報酬が払えないからって、こんな武力で踏み倒そうってのは良くないと思うで」



 サッと移動して彼の背後に回る。気配を消して肩をツンツン。オサレポイントを百ゲットやね。



「うわっ!」

「なんやその反応。いくら影の薄いイケメンである俺でも凹むで」

「い、いつの間に……!」



 兵士にしたのと同様に、地面から蔦を召喚して拘束する。宰相さんは重すぎたのか宙に釣り上げずに、警察が犯人を取り押さえるみたいな感じで地面に押し付けられていた。

 この蔦、実は俺が完全に操ってるわけやなくて、ある程度自由意志を持ってるんよね。やからこうして自分の思ってなかった動きをされることがあるんやで。



「離せぇ……! この私にこんなことをしてどうなるか分かっているのか……!」

「ほーん、じゃあどうなるかご教授願うわ」

「お前はこの国の"王”に逆らったのだ! まともに生きていられると思うなァ!! それどころかこの場で処刑!!! 八つ裂きにしてやるぞ!!!」

「王……?」



 うーん、と俺は首を傾げる。



「でもなぁ、王様そこにおるで」

「あ゛……?」



 ちょいちょい、と指を指した方向に案外素直に顔を向ける宰相さん。

 すると彼はみるみる驚愕に目を見開き、脂汗を滲ませ叫んだ。



「ど、どうしてお前がここに!」



 そこに立っていたのは本物の"王”……つまりはレティシアのパッパやった。



「どうしてって……生きてるからに決まってるやろ」

「奴は殺したはずだ! ジョセフ、貴様が私の目の前で!」

「これ、一度は言ってみたかったんよな……。『一体いつから、俺が王を殺したと錯覚していた……?』」



 宰相さんは呆然としとる。まぁ完全に殺したと思いこんでいたのが目の前に現れたら怖いよな。分かるで。

 


「幻覚ってやつやで。関西弁キャラは幻覚とかその類の能力を持ってることが多い気がするから頑張って習得したねん。もちろん物理的な強さもバッチリや」

「嘘……お父様……?」



 俺がこれから涙あり笑いありの幻覚を取得するための過去話をしようとしたが、誰も聞いとらん。なんや空気読めない奴みたいやん。悲しくなるわお家かえる……。



「どうして……死んだ、はずじゃ……」

「レティシア。悲しませて済まなかったな」



 えらい感動的な話やね。俺みたいなネタキャラが水を差せる場面じゃなくなってしもたわ。

 ホントに帰ってええか???



「お父様……っ」 



 それからは簡単に想像できることやね。

 家族や召使いたちと滂沱の再開を遂げたあとは、国家反逆を企てたとして宰相さんが処罰を食らっとった。まぁ処罰とか甘っちょろいものじゃなかったと思うけど。俺部外者やから詳しいこと知らんねん。

 兵隊さんたちは剣を向けたとはいえ躊躇しとったから、ほとんどお咎めなしだった。



 んで、俺はと言うと……。



 ◇



「――はぁ!? ジルさんが逃げたぁ!?」



 国外逃亡やで!!!!!!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る