関西弁糸目キャラに憧れた馬鹿の話。

音塚雪見

関西弁糸目キャラは強キャラって古事記にも書いとる

 こんにちは、関西弁糸目キャラのジル君やで。ちなみに転生者や。

 前の俺は関東圏出身の非関西弁話者だったわけやけど、好きが高じてエセ関西弁話者になったんや。初めは知り合いとかに笑われとったけど、いつの間にかこの喋り方が定着して、ついに何も言われなくなったで。

 意志の勝利やね。



 ついでと言っては何やけど、俺は糸目キャラでもあるねん。関西弁プラス糸目は強キャラ。古事記にも書いてある世界の常識やね。

 今世の両親には喋り方で心配されたけども、このまま貫き通してたら何も言われなくなったで。気持ち悪い子供ですまんね。その代わり親孝行するから許したってや。



 転生してから二十年。俺は関西弁糸目キャラとして、ひたすらに強さを求めてきた。

 関西弁ってだけで強いのに、強キャラの必須アイテムと言っても過言ではない糸目もあるんやから、弱かったら話にならないからね。頑張ったわ。

 具体的に言うと、誰も帰ってきたことがないとか言われてるダンジョンを踏破したり、千年以上前から生きてるとかいう森の賢者に弟子入りしたりとかな。

 前者は何とかなったんやけど、後者はホントに死ぬかと思ったわ。流石ゴリラやね。



 まぁ苦労したおかげで、多分俺はこの世界でも十本の指くらいには入る実力者になったで。

 みんな大好き冒険者にはなってないから、世間的には無名やけども。無名の実力者なんて若人の大好物やもんね? もちろん俺も好きやで。



 そんなこんなで考えうる限り完璧な関西弁糸目キャラになった俺やけど、これからどうすべきか悩んどんねん。ほら、俺ってば今まで目標に向かって突き進んできたわけやん? こうして目標を達成した今、何をしていけばいいのかね。



「わからんか?」

「いや、私に言われても……」



 俺の目の前にいる少女は、少しビクついた様子で唇を引きつらせた。

 依頼を受けてとっ捕まえに来たレティシアって子や。当然転生周りの話はぼやかして話してたわけやけど、流石に自分を捕まえようとしてるやつとは楽しく雑談できへんか。

 彼女は綺麗な金髪を振り乱して――とは言っても、長い逃亡生活で土埃などが付着している――俺から逃げようとしている。まぁここは行き止まりで、横も後ろも石壁なんやけどね?



「俺もそこまで悪党やない。女の子に手を上げるのは良心が痛むから、大人しく投降してくれると嬉しいで」

「でっ、できるわけないでしょう……! 私の命は私のものだけではない! 私を逃がすために命を張ったお父様、じいや、多くの人が私の背に乗っているのですッ!」

「いや、別にそいつら命散らしてないんやけど……」

「…………? 何か言いました?」

「なーんも」



 はぁ、と俺は頭を掻きながらため息をつく。

 やっぱり亡国のお姫様ともなると強情やね。ここで捕まってくれたら、簡単で良かったんやけどなぁ。



「……あー、君には二つの選択肢がある」

「……………………」

「一つ目は滅茶苦茶に抵抗して、俺に捕まる。二つ目は粛々と抵抗せず俺に捕まる。どっちがええ?」

「ふざけないでください……ッ!」

「ほなら三つ目やね。お嬢さん、取引しよか」



 目を怒らせる彼女に対して、俺は提示した選択肢を下げ、新しい話を出した。

 唐突な立場の転換にレティシアは警戒している。

 お兄さん傷つくわ。どうしてやろ、糸目で関西弁で無茶苦茶胡散臭いだけやのに。

 糸目と関西弁はどうとでもなるけど、この胡散臭さを身につけるのには時間かかったわ。正直、強さよりも習得が難しかった。



「俺はね、君の立場にも同情しとるんよ」

「なにを……」

「宰相に寝首をかかれ、国家転覆された王族の末っ子。んで今や国賊。劇的にも程がある変化やね」

「馬鹿にッ――」

「しとらんよ。同情しとる言うとるやん、これはホントや。ジル君は嘘つかないって義務教育やで? 受けてないん?」



 飄々としているこちらに毒気が抜けたのか、何処となく呆れているような――あるいは、そんな状態になってしまうほどの怒りでもこらえているのか。

 レティシアは顔を伏せながらも、髪を震わせた。



「……………………その、取引というのは?」

「簡単や。宰相が俺に出した報酬、その三倍。それだけ出したら助けたる」

「三倍…………」

「君にとっちゃ簡単やろ? 子供の駄賃みたいなもんや」



 レティシアは考え込んでいるようだ。怒りも鳴りを潜め、深く思考に没入している。

 俺は暇やったから周囲の索敵をした。やっぱりレジスタンスの拠点の奥地に単身乗り込んできたから、味方は誰一人おらんね。これもう獅子奮迅の働きやろ。まだ誰にも見つかっとらんのやで?



「……金額は、いくらでしょう」

「うーん、そやね。大体――」



 その時、大きな爆発音が鳴り響いた。

 地下深くにある拠点が震えるほどであったから、おそらく大量の爆弾か魔法でも使ったんやろね。まだ俺中に居るんやけど……。もしかしなくとも姫様もろとも生き埋めにする気やね?



 俺はレティシアの手を取って、頭上から降り注いでくる岩を回避しながら、脱出するために走った。

 やはり元温室育ちの彼女は急速に体力を失ってしまったので、仕方なく米俵を担ぐように抱える。不可抗力やで。そもそもこの子まだ小さいから守備範囲外や。

 


「きゃあああああああああああああああああああああ!?」

「ジェットコースターってこんな感じやったっけ。だいぶ前だから覚えとらんわ」

「なんですかそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「もしかして意外と余裕ある? もう少し速くしても大丈夫か」

「やめてくださいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」



 上から降ってくる石を踏み台に、ひたすら前を目指す。

 国にバレないように地下深く作ったものだから、脱出するのが一苦労や。それ用のルートがあるのかもしれないけど、俺は知らないから脳筋戦法を取るしかないのがつらいところ。

 レティシアに舌を噛まないよう言って、それからは黙って走り続けた。

 いやぁ、久しぶりに命の危機を感じたで。もうしばらくはええわ。



「…………………………ハァ、ハァ……生きてる……?」

「安心安全のジル君運送やで」

「少なくとも安心はしなかったですよ……!」



 髪を逆立たせて、明確に怒りを向けてくる。おかしいわ、俺なにかしたっけ?



「まぁ、正確にはまだ窮地を脱してないんやけどな?」

「え?」

「ほら、あっち見てみ。殺気十分の宰相さんや。兵隊さんも引き連れて気合も十分、って感じやね」



 俺は地下基地から脱出して息をついている彼女に、指をさすことで宰相の存在を示す。

 へたりと腰を下ろしていたレティシアは、顔を強張らせた。



「おやおやおやおや、これはこれはレティシア様!!!!!」



 ぶるんぶるん、と大きな腹の肉を揺らし、豪華な衣服に身を包んだ一人の男が出てきた。口元のお髭がチャーミング、易姓革命を成し遂げたばかりの宰相さんやね。

 一体全体どうして彼がここにいるのやろか。



「いやいやジョセフ・・・・さん、貴方が単身乗り込んでいったと聞いたときには肝が冷えましたよ」

「ジョセフ?」

「偽名や。黙っとき」



 にやにや話しだした宰相の発言に違和感を抱いたようだが、ここでレティシアが口を出すと面倒くさいことになりそうだったので止める。



「俺もえらい肝冷えたわ。まだ中におったんやけど? 殺す気やったん?」

「いえいえとんでもない! しかし、貴方はきっと悪辣なレジスタンス達に殺されてしまっているだろうと、土葬も兼ねて報復しようとしたまでですよ」



 よく言うわ。あからさまに俺が生きてて面倒くさいとか思ってそうな顔しとるくせに。

 さり気なくレティシアを背に隠すと、俺はため息を付いた。

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