第22話

「ちょ、ちょっとクラウス……」


 さわさわと下腹部を触られ続け、ルーシィは動揺した様子だった。

 スカートの上からとはいえ、温かさと柔らかさを感じ、俺はどくんと心臓が跳ねるのを感じる。


 ゲームの推しキャラと直接触れ合えるなんて……。ちょっと罪悪感もあるけれど。


「これは必要なことですから」


「ほんとに?」


 そう。ギャルゲーなので……。

 このあたりか。一番効率の良い場所を見つけ、手は置いたままにする。


 隣でぴったりくっついた状態のまま、今度は左手をルーシィの手に重ねる。

 ルーシィが上目遣いに俺を見た。


「手もつなぐんだ……」


「その方が効果的ですからね。お嫌ですか?」


「ううん、で、でも、こうしていると……なんか、師弟っていうより恋人みたいだなって」


 ドキドキとした様子でルーシィは言い、それから「今の、忘れて」と恥ずかしそうに言う。

 俺はにやりと笑った。


「ルーシィ殿下は俺と恋人になりたいんですか?」


「ば、ばかっ。そんなわけないでしょ!?」


「残念です。私はまんざらでもなかったんですが」


「えっ、そうなの? く、クラウス先生がどうしてもって言うなら、そ、その……考えてあげないこともないけど」


 ルーシィがいじらしい様子で、髪の毛の毛先をいじる。

 俺はくすりと笑った。


「冗談ですよ。私が帝姫殿下と恋人なんて畏れ多いですからね」


「く、クラウス~! ほんとに意地悪! 大嫌い!」


 ぷんすかとルーシィが怒ってしまったで、俺は反省した。

 さすがにからかいすぎたかもしれない。


 俺は素直に「申し訳ありません」と謝り、それからもう一度ルーシィのお腹のあたりをなでた。


「ひゃうっ……く、クラウス先生、ほんとは反省してないでしょ?」


「いえ、そんなことは……」


「それに、本当に冗談だったの?」


 ルーシィが潤んだ瞳で俺をちらりと見る。

 俺はどきっとした。


「私みたいな帝姫が降嫁するなら、クラウス先生の侯爵家はちょうどいい家柄だと思うし、『畏れ多い』なんてこと、ないでしょ?」


 忘れていたが、クラウスも大貴族の出身なのだった。身分的にはルーシィとちょうど釣り合う。

 

「そ、それはそうですが……歳も離れていますし」


「なんで? 私、もう結婚だってできる年齢よ?」


 この世界では14歳から結婚可能だ。実際にそこまで低年齢で結婚している女性は多くはないが、非難されるようなことでもない。


「前に言ってたよね。同じ部屋に住んだ男の師匠が女の弟子を妊娠させちゃうって話」


「あれは昔、そういうこともあったってことです」


「クラウス先生もほんとは……私に……そういうこと、したいの?」


 俺はルーシィの手に重ねた自分の手を離す。そのままルーシィの髪をそっと撫でた。

 ルーシィは驚いたような表情で、俺を見上げる。


「まだ殿下には少し早いですね」


「こ、子ど扱いしないで! 私の身体にエッチに触ったくせに……!」


「もっとしてほしいですか?」


「してほしい、なんて言えるわけないでしょ!?」


「なら、真面目に授業しましょうか」


「クラウス先生、ごまかしたでしょ? そういうの、許さないんだから……」


 俺は肩をすくめる。


「反抗的な生徒にはお仕置きしちゃいますよ?」


「お仕置きって言って、またエッチなことするんでしょ。バカッ」


 ルーシィは言って、顔をそむける。


 言葉とは裏腹にその表情に嫌悪感はなかった。クラウス――俺のことを信頼しているのだろう。


 ルーシィは身分の低い即妃の娘で、皇宮では冷遇されてきた。


 今では改革の旗手、天才皇女として持ち上げられているけれど、本当の意味で信頼できる味方は少ない。姉なのに激しく敵対するシャルロッテや、裏切った友人のエリザのことを考えれば、なおさらだ。


 だからこそ、愛情に飢えているのだろう。そして、ゲームでは誰もルーシィを救うことはできなかった。


 だからこそ、俺はルーシィの味方でいてあげたい。ついからかってしまうが、傷つけないように大事にしてあげたい。


 ふたたびルーシィの手に俺の手を重ねる。

 そして、俺は魔導銃テトラコルドの引き金に指をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る