第19話 普通の朝
翌日の朝。ルーシィたちと同じ部屋で寝たが、俺はぐっすりと眠れた。
まあ同じ部屋といっても寝室は別だし、さほど意識することもない。
「おはよう、クラウス」
ルーシィが寝ぼけ眼をこすりながら食卓にやってくる。
寝間着姿だ。俺はくすりと笑う。
「先生、をつけ忘れていますよ」
「あ、クラウス先生」
ルーシィは手を口に当てて言い直す。
「昨日はぐっすり眠れましたか?」
「ええ。シャルロッテとの決闘は不安だけど……クラウス先生が私を絶対に勝たせてくれるっていうから」
ルーシィが微笑む。
信頼されているようで嬉しい。その信頼を絶対のものにするには実際にルーシィを勝たせないといけない。
ところで、それはそれとして気になることがある。
「それに、寝間着から着替えないんですか?」
「朝食は寝間着のまま食べるの。習慣だから」
王女ともなれば、朝食は宮廷の自室に届けられる。
そうなれば、別に着替える必要もないわけだ。
とはいえ、男の俺がいるのに気にならないものか。昨日はシャルロッテが突然訪問したから寝間着姿で出てきたのだと思っていたが、今は着替える時間はあったはずだ。
ちなみに俺は軽装ではあるものの、ばっちり貴族としての服に着替えている。
ルーシィはちょっと恥ずかしそうにふふっと笑う。
「この服、可愛いでしょ? 気に入っているの」
昨日はちゃんと見ていなかったが、さすが王族なのか寝間着も可愛らしい上品なデザインのものだった。飾りのレースが凝っているし、ルーシィの美しさを引き立てている。
俺は微笑んだ。
「そうですね。寝間着もルーシィ殿下もとても可愛らしいですよ」
ルーシィは顔を赤くして、俺をジト目で睨む。
「からかってるつもりなら、ダメなんだからね?」
「本気ですよ。とても良く似合っていますし、ルーシィ殿下ご自身も美しいと思っています」
「そ、そう。ありがと」
ルーシィは照れたようにぷいっと顔をそむける。
そこに侍女のエディトが現れた。
エディトはにやにやと笑う。
「普段はルーシィもこんな可愛い服は着ていないんですよ」
「へ?」
「クラウス先生に見せるために気合を入れているんです」
ルーシィが慌てた表情で「ちょ、ちょっと……エディト!」と抗議するが、エディトは「せっかく頑張っているなら、知っていただいたほうが良いじゃないですか」と意に介さない。
ルーシィはぷくっと頬を膨らませて、俺を見る。
「べ、べつにクラウスのために着ているわけじゃないんだからね? た、たまたま可愛い服があったから選んだだけで……」
「えー、でも買うときもクラウス先生の好みを気にしていたくせに……」
「え、で、ぃ、と?」
ルーシィがエディトを捕まえるとこめかみをぐりぐりとする。
エディトは「やーん」とくすくす笑っている。
「それより朝ご飯、ご用意できていますよ」
エディトの言葉に俺とルーシィは顔を見合わせる。
そして、口をそろえて「食べる」と言った。
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