第11話 手合わせ


「手合わせ?」


「知っているでしょう? 魔術師同士が実力を確かめ合う模擬戦闘。あれをやるの」


「それはまあ、私も魔術師なので知ってはいますが……」


 原作ゲームだとたしかに何度も行われるイベントではある。学校で主人公のエドウィンがクラスメイトたちと戦っているからだ。


 相手はヒロインだったり、ライバルだったりすることもあるが、いずれにせよ主人公の強さと特別さを演出するためのイベントでもある。

 

 例によって戦闘システムがあるこのゲームでは難易度が高いバトルもあり、負けたらヒロインの好感度が下がったりもするので厄介だったが……。


 ともかく、別にルーシィと決闘することに反対ではない。

 相手は天才の皇女様だ。その実力は学生としては指折りだろう。


 だが、俺には勝つ自信がある。 


「しかし、ここで模擬戦闘をやったら部屋が大惨事ですよ? 冷酷非道で知られた私も初日から自分の研究室をボロボロにするのはちょっと……」


「誰もそんなことしないわよ! この学校にはちゃんとした戦闘場があるの。あなただって卒業生なんだから知っているでしょ?」


「もちろん知っていますが、念のため確認してみました」


「あなた、ずっと私をからかっているわよね?」


「ははは、まさか帝姫殿下にそんな畏れ多いことはしませんよ」


「どうだか」


 ルーシィがジト目で俺を睨む。

 内心ではぷんすかと怒るルーシィが可愛いと思っているなんて、そんなことは言わない。





 俺とルーシィは模擬戦闘用の戦闘場へと移動した。

 魔法学校校舎隅の一階にあるその空間は円形でだいたい直径100mぐらいだ。


 俺とルーシィは正面から向かい合った。ただし、もう一人いる。

 一応、模擬戦闘には審判が必要なのだ。


 ルーシィのクラスメイトだというその子は興味津々といった様子だった。


「あのルーシィと戦うなんて、勇気ありますね! 先生」


 エディトという名前のその子は小柄な茶髪の少女だ。魔法学校の制服のローブを着ていて、目をきらきらと輝かせている。どこかの子爵家あたりの娘だろうか。


 ルーシィは慌てた様子になった。

 

「エディト。クラウス先生に失礼なことを言わないの!」


「えー、でも、ルーシィなら大抵の先生より強いでしょう?」


 どうやらエディトという子はルーシィの友人で、しかもかなり仲は良さそうだ。

 魔法学校では身分を忘れて対等に接するという建前があるからか、タメ口だ。


 俺はくすりと笑った。


「まあ、ルーシィ殿下は優秀な生徒なんでしょうね。ですが――私もそう簡単に負けはしませんよ?」


「そうでないと困るわ。あっさり負けるようなら、私の師匠失格なんだから」


「あれ? ルーシィ殿下は私の弟子になりたいんですか?」


 また照れて否定するかと思いきや、ルーシィはうなずいた。


「あなたの弟子になるのが、一番強くなれそうだから」


「なら、これが師匠としての初めての授業というわけですね。弟子をがっかりさせないようにしたいところです」


 俺は魔導銃アタラクシアを引き抜く。黄金色の銃身が、窓からの光を反射してまぶしい。

 ルーシィも魔導獣を抜く。黒い小さめの銃だ。

 

 彼女はにやりと笑った。


「どう? これは帝室の七つの秘宝の一つ『テトラコルド』。でも、ただの親の七光りじゃないわ」


「そうでしょうね。限られた人間しか持てないものですから」


 皇族は無数にいるが、帝室の秘宝クラスの魔導銃は七つしかない。

 その一つの所持者がルーシィなのだ。


「前回の襲撃のときは、とっさのことで動けなかったけど……私だって強いんだから!」


 そして、ルーシィは魔導銃の引き金を引いた。途端に一面に炎の渦が生まれる。

 速い。そして火力も大きい。


 この炎属性の魔法がルーシィが真紅の帝姫と呼ばれる理由なのだ。


「私も成長したんだからね?」


 ルーシィが小さくつぶやく。


 きっと彼女は俺に良いところを見せようとしているのだ。そう思うと、対戦相手なのに可愛く思えてくる。


 とはいえ、俺もそんなに油断はしていられない。

 さて、と。


 俺はアタラクシアの引き金を引く。

 それだけで、ルーシィが展開した魔法はほぼ消滅した。






<あとがき>

風邪で寝込んでいて数日更新できずすみません……!

まだ体調が戻らず、しばらく更新不安定になるかもです。


星での応援、お待ちしています……。

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