第12話
「な、なんで……!?」
ルーシィが焦った様子で言う。
それはそうだろう。あれほど自慢の炎魔法を秒の速さで無効化されたのだから。
「ははは、これが年の功というやつですよ」
「クラウス先生だって、まだ二十代のくせにおじいさんみたいなことを言わないでよ! っ……もう一度!」
ルーシィがふたたび炎魔法を展開する。今度は一直線に俺に向かってくるが、俺がアタラクシアの引き金をもう一度引くとまた消えてしまう。
「な、なら――これならどう?」
ルーシィが炎魔法を円形に浮かばせる。俺の背後にも炎魔法が展開される。
なるほど。俺のアタラクシアでは前方の魔法しか無力化できないと仮定したのだろう。
だが――。
俺はアタラクシアの引き金を連続で引く。
「
ルーシィの炎魔法を順番に消し、次にルーシィに照準を定める。ルーシィがひっと息を呑んだ。
次の一撃でルーシィを倒せる。
「こ、降参!」
ルーシィが両手を挙げる。
審判役のエディトは呆然とした様子だった。俺がちらりとエディトを見ると、エディトは慌てた様子で「勝者はクラウス先生!」と宣言した。
そして、エディトが駆け寄ってくる。小柄な彼女はきらきらとした目で俺を見上げた。
「クラウス先生はとっても強いんですね! あのルーシィを秒殺しちゃうなんて……!」
「まあ一応教師だからね、ははは」
「尊敬しちゃいます……!」
エディトが「わあっ」と目を輝かせているのが、ちょっとくすぐったい。
だが、悪い気分じゃない。
さすが原作では最強クラスのキャラだ。クラウスの力は絶大だ。
しかも、俺のゲーム知識のおかげでルーシィの攻撃はほぼ予測できた。
ルーシィが頬を膨らませている。
「今日の私はまだ本気を出していなかったんだから!」
エディトがこてんと小首をかしげる。
「負け惜しみはかっこわるいよ、ルーシィ?」
「え、エディト!? ま、負け惜しみじゃないもん!」
ルーシィが地団太踏みそうな表情をしている。ゲームでは完璧キャラのイメージが強かったが、クラウスの前ではルーシィは少し幼い印象になるらしい。
ルーシィはクラウスに特別な思い入れがあるようだし、それが原因だろうか。
俺に向かって、ルーシィは言う。
「あなたが強くて安心したわ」
「負けたのに偉そうですね……?」
「い、いいの! 信じてくれないだろうけど、私は切り札を使えなかっただけなんだから」
「信じますよ。ルーシィ殿下も、ルーシィ殿下の使うテトラコルドも、本当はずっと強力な力を持っているはずですから」
これは事実だ。ルーシィには切り札がある。帝室の皇女が持つ最強の力。
帝室に伝わる七つの秘宝の一つ、テトラコルド。それをルーシィは使う力があるのだ。
「ただ、今のルーシィ殿下にはそれを完全に制御する力がありません。ここで使うと闘技場ごと破壊しかねない。だから使えなかったのでしょう?」
「そ、そうよ。よくわかっているじゃない」
ルーシィは意外そうに目を見開き、嬉しそうに笑う。
「テトラコルドの制御の仕方、それに闇魔法の組み合わせ方をルーシィ殿下に教えるのが私の役目ですね。もっとも、たとえルーシィ殿下がテトラコルドの能力をすべて解放し、闇魔法を使えても私が勝ちますけれどね」
にやりと俺は笑う。ルーシィは反発するかと思いきや、ルーシィは顔を赤くする。そして、小さく「かっこいい……」とつぶやいた。
「そういえば、どうやって私の魔法を消したの?」
「それが闇魔法の強いところでしてね。厳密には消したわけではないんですよ」
「えっ?」
「展開した闇魔法のなかに吸収しただけなんです。引き金を引いて闇魔法を展開させて、そのなかに吸収させたら闇魔法の展開を中止する。その繰り返しで、十二属性のうち光属性と無属性魔法以外は対処できますよ」
「け、消してたわけじゃないってこと!? 消滅って唱えていたのに!?」
「あれはフェイクです。無詠唱でもあのぐらいの魔法は使えますからね。ははは」
「クラウス先生って性格悪い……」
「そうかもしれませんね。ですが、仕組みがわかれば今のルーシィ殿下でも対策ができます。それを教えるのも私の役目です」
「そうね。私を……強くしてよね、クラウス先生」
くすくすっとルーシィは笑った。
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