第20話 リセの冒険① 試練その①

「まずはお手並み拝見です。どうぞ、ご自由にかかって来て下さい。

 ああ、揺らして頂くのは大歓迎ですよ?まあ、それに足るものをお持ちでない方ばかりの様ですが。」


 先手はどうぞ、と片手を差し出すゼノバルに対して、リンドとケイラがその俊敏さを活かして距離を縮めんと接近する。その間に、アリアナとダルグリムが魔法耐性と物理耐性を底上げする補助魔法を施しておく。

 間合いに入るや否や同時に繰り出されたリンドの短剣とケイラの爪は、ゼノバルの両腕によりいともたやすく受け止められてしまう。そして、そのまま繰り出された蹴りにより、二人は吹き飛ばされる。


「正面からの突撃とは、全く面白みのない攻撃ですね。」


 二人の攻撃を追うように放たれたアリアナの矢は一直線にゼノバルへと迫るが、命中直前で急に上へと軌道が変化する。そして上空で分裂した矢がゼノバルへと降り注ぐが、腕の一振りによって容易く焼き払われてしまう。

 そこへ間髪入れずに繰り出されたダルグリムの斧だったが、刃を指で摘ままれただけで動きを止められてしまう。


「まずまずの連携ですね。流石は熟練の冒険者と言ったところでしょうか。しかしながら、この程度では……。我が女神のお眼鏡にかなうとはとてもとても。」


 璃星の斬撃が背後から迫るが、それも器用に斧を起点にして宙返りする事で避けられてしまう。しかし、着地の瞬間を狙いすましたかのように、魔法強化された矢が捉えた。


「ふむ。今のは――まあまあですね。つくづくまな板なのが残念でなりません。」


 ぎりぎりのところで矢は躱されてしまったが、それも完全とはいかずに、初めて血を流すゼノバル。そこへ間を置かずケイラの爪がゼノバルを捉えるが、再び腕に阻まれてしまう。


「良い揺れ具合です。目の保養になって大変結構。……折角ですので、更に揺らしましょうか。」


 必要以上に腕を大きく動かしてケイラを振り払ったところで、正面から迫ってくるリンドを視界に捉えたゼノバルが火球を打ち出して迎撃する。リンドは更に姿勢を低くし加速する事でそれを躱すと、スライディングをするように、そのまま股下を抜ける。


「男に股下をくぐられるというのは、趣味ではないですね。」


 リンドに気が取られたところで、死角より放たれた魔法の石礫と矢が飛来するも、それは魔力撃により弾かれてゼノバルには届かない。逆に追撃の魔力弾を撃ち込まれた二人は、避け切れずに少なからずのダメージを受けてしまう。

その隙をついて、器用に反転接近してきたリンドの斬撃がゼノバルを捉える。しかし、掠めはしたものの直撃は叶わず……。


「実に軽い。綿毛のようです。」


 再び蹴りを受けて大きく吹き飛ばされるリンド。すかさず、背後を取った璃星が、宙へと踊り出ると、そのまま力いっぱいに剣を振り下ろす。


「幼女はなお軽く……、は無いようですね!」


 ゼノバルの腕に受け止められ、そのまま振り払われてしまうが、その反動を利用して璃星は更なる上空へと舞い上がる。そして、そのまま無数の闇球を生み出し、ゼノバルを囲むように展開させた。

 闇球から放たれる漆黒の閃光を、ゼノバルは俊敏な動きで躱そうとしたが、全てを避けることは叶わず、いくつかの直撃を受ける事となる。


「やりますね……!これは愉しめそうです!」


 その後も戦いはゼノバル優勢のまま続いていき、璃星たちは徐々に押し込まれて一人、また一人と戦線離脱を余儀なくされる。そして――。


「なるほど。最後まで残るのが幼女とは……、これは意外でしたね。

 流石は高位魔族と言ったところでしょうか。」


 優勢であったとは言え、高ランク冒険者の攻撃を受け続けたゼノバルにもダメージは蓄積しており、実際には口調程の余裕は残っていない。


「おっぱい星人さんも、そろそろリングに沈んでもらっていいですよ?」


「ご冗談を。倒れる時は我が女神の胸の上、と心に決めておりますので。

とはいえ、そろそろお互い限界ですかね。いい加減決着と行きましょうか。」


「まだだ!まだ終わらんよ!」


 魔力を振り絞り、再び闇球を生み出した璃星が慎重に前進する。そして、ある程度近づいたところで闇球を先行させる。そのまま漆黒の閃光で牽制しつつ一気に距離を詰めんと走りだした。


「そこです!」


ゼノバルは敢えていくつかの直撃を甘んじて受ける事で璃星へと狙いを定め、必殺の一撃を放たんと手刀に魔力を込めるが……。


「言われっぱなしで、寝てなんていられないわよ!」


 そこへ、最後の力を振り絞って放たれたアリアナの矢がゼノバルへと迫る。


「!」


 必殺の一撃を中断し、のけぞる事でどうにか躱す事に成功するゼノバル。

しかし、深く沈みこむことで視界から外れた璃星の剣が下から迫り――それはゼノバルの胸へと深く突き刺さった。

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