第4話 ダンジョン制覇

 訓練用ダンジョンを選抜部隊が制覇したその日。召喚された高校生たちは、全員が近くに築かれた城塞の広場へと集められていた。

 全員が揃った事を確認したフェルナンドは、前方に設置された演壇へとゆっくりと登り、高校生たちに話しかける。


「よし、皆揃ったようだ。本日の訓練で選抜部隊がダンジョン最深部を制覇した!

……正直、この短期間で制覇できるとは夢にも思っていなかった。実に優秀なもの達ばかりで、非常に心強く感じている。

 他部隊のもの達も含め、皆本当によく頑張ってくれた。感謝する!」


「よって本日をもって訓練は終了とし、具体的な部隊編成を決定の後、君たちには魔族軍との戦いに参加して貰う事となる!

 平和な世界に生きていた君たちは皆戦いを経験したことが無いとのことで、初めての実戦に不安を感じている事だろう。

 だが、今日までの訓練をこなしてきた君たちであれば、問題なく奴らと相対出来ると私が保証しよう!自信を持って臨んでくれ!」


 高らかに声を上げ、高校生たちを鼓舞したフェルナンドは、そこで一度動きを止めて全員を見渡す。

 その後、一息空けると、先ほどまでとは打って変わった、落ち着いた口調で話を再開した。


「……君たちにもう一つ伝えなくてはいけない事がある。

 これからようやく、というところでこんな話をするのはとても残念で気が進まない事ではあるが――」


「それについては儂から伝えよう。」


 演壇脇の椅子に腰かけた初老の男の野太い声がフェルナンドの話を遮る。

男の名前はドミニク・アースレイド。立派な灰色のひげと、戦いによって刻まれたシワのある顔を持った齢50程の侯爵であり、ソルダリア王国の軍を統制する大臣でもある。精悍で剛毅な表情は、彼の長い軍歴を物語り、鋭い眼光が学生たちを捉えていた。


「お前たちの仲間のリセ・ササキ――だったか?小娘が一人で勝手に出歩いた上に、そのまま行方知らずになりおった!

 全くもってけしからん!一体何を考えておるのか!

 何も出来ない無能をわざわざ養ってやっていたというのに、恩知らずな奴め!」


「まあまあ。ドミニク殿、お怒りはごもっともですが、少し落ち着かれてください。

 ここからは私の方から説明させて頂きます。」


 徐々に声を荒げて怒鳴り始めたドミニクをとりなしたのは、その隣に座る同じく初老の男――フェリックス・ペンブルックだった。

 ドミニク同様の齢50にして磨かれた穏やかな物腰と、柔和な緑の瞳を持ったソルダリア王国の内政全般を任された伯爵である。


「――我々もリセさんの行方を捜しておりますが、川にでも流されたとしますと……。

 下流は魔の森、謎の生物たちが跋扈する魔境という事もあり捜索にはどうしても時間が掛かってしまいます。

 それでも、力を尽くしますので、皆さんはぜひともお役目に注力頂きたく。」


 腫れ物扱いであったとはいえ、一緒に召喚されたクラスメイトが行方不明になったと知らされた学生たちは騒めき始める。

 それを鎮めようとフェルナンドが口を開こうとしたその瞬間――空中に突然現れた文字により、騒めきは拡大する事となった。


――天啓は健在なり。自由と正義はその心の赴くままに進むべし――


 誰による、誰に向けたメッセージなのかは不明であったが、それはそこに居合わせた者たちに大きな波紋を残す事となった。

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