第3話 訓練用ダンジョン

「ふむ。最初拝見したときはどうなるものかと思ったが、中々優秀なもの達のようだ。

 ――特にあの遠藤殿、星宮殿は飲み込みも早く戦闘センスも抜群、他とは魔力も桁違い。戦力としては申し分もない。」


 特に戦闘能力に秀でたもの達が選抜され、その力を一層伸ばすべく連れて来られた訓練用のダンジョン。そこへ引率として同行した軍部のエリート騎士――フェルナンドは高校生たちをそう評した。

 短い灰色の髪を靡かせながら、均整の取れた顔立ちに載った鋭い瞳が高校生たちの一挙手一投足を追っている。その姿は、身にまとう鎧とともに凛とした風格を漂わせていた。


「そうですねぇ。――中には適正の乏しい方々も混じってはおりましたが。」


 それに応えるのは、もう一回り若い魔法使いの女性――リリィだ。屈強なフェルナンドとは対照的な小柄で愛らしい容姿を持ちながら、光魔法のエキスパートととして名を馳せている彼女も、大きな碧い瞳で高校生たちの姿を追っていた。


「それは仕方無いだろう。万人が戦上手といかないのはこちらでも同じ事。各々得意なところで活躍して貰えれば十分に御の字というもの。」


「そうですねぇ。とはいえ、それにしても、全く才能が無い、というのは珍しいというか何と言うか……。」


「ふむ。そうだな。魔力を得られなかったというのもそうだが、体をまともに動かすことも、話すことさえできないとはな。

 チキュウ?ニホン?と言ったか?余程に恵まれた世界なのだろうな。彼らの居たところは。」


「羨ましい限りです。我々にはそんな余裕が無い、というのが正直なところですが。」


「――とは言っても、要らないからと捨ててくる訳にもいかんだろう。召喚したのは我々の都合、勝手であるし、他のもの達に余計な不信感を与える訳にもいかん。

 ――それで反旗でも翻されたらかなわんからな。」


「そうですねぇ。――あのお二方に快くお力を貸して頂く為にも、相応の扱いが必要ですねぇ。」


「そういうことだ。出来ないもの達には、それ相応に働いて頂き、最低限の生活は保障する。優秀な方々には、活躍に見合った報酬を更に上乗せして労をねぎらう。

 ――魔族どもを打ち破るまではそれで働いて貰うだけの事だ。」


 話題となっている二人に視線を移すと、ちょうど星宮が放った魔力の矢が遠藤の身体を掠めて巨大なゴーレムに直撃し、その頭を粉砕したところだった。矢が描いた余りに絶妙な軌跡は作為的なものを感じさせる。


「おい、星宮!何処を狙っている!」


「あら?そんなところにいらしたの?ゴーレムの影で良く見えませんでしたわ。

 曲がりなりにもアイドルなのでしたら、もっと光輝いて存在感を出して頂きませんと、芸能界で埋もれてしまいますわよ?」


 大声でクレームをつける遠藤を、星宮は涼しい顔で受け流しつつ嘲りを付け足して返す。

 ダンジョンに潜ってから幾度となく似たような事が繰り返されていた。


「……優秀なのは良いが、どうにもあの二人は仲が悪いようだな。」


「――ですが、それでいてどことなく、息が合っているようにも見えるのが不思議です。」


「そうだな。当たりの厳しさや、ぎりぎりの隙間を攻めている感はあるものの、攻撃そのものは的確なタイミングで行われている。」


「お二方には、何か確執がおありなのかもしれませんね。今後の部隊編成に影響しないとよいのですが。」


「――どうしてもそりが合わず、という場合は二人を分けての配置というのも考えるさ。

 いずれにせよ、防衛側にも相応の戦力は必要となる。

 反転攻勢したのは良いが、その間に主要都市、王都が落とされては意味が無い。」


 ダンジョンでの訓練を始めてまだ数週間といったところだったが、優秀とされた高校生たちは既に最深部まで到達していた。ここを踏破出来るだけの実力が得られた段階で、彼らを対魔族の前線へと投入し、今までの守戦一方から反転・攻勢に出るというのがソルダリア王国側の目論見となっていた。その人員編成において唯一の不安要素となっているのが、遠藤と星宮という両エースの不仲とであった。


「――前衛が役目を放棄して、敵を素通りさせるのは如何なものかしら?」


「ああ、済まない、済まない!

 後ろに君がいると思わなかったので、ついそのまま躱してしまったよ!性格が陰湿だと気配まで陰って分かり難くなるのかな?」


 遠藤の脇を通り抜けた魔物がそのまま星宮へと襲い掛かるが、それを待ち構えていたかのように、冷静に魔物を屠る星宮。両者ともに和やか笑みを浮かべたままであるが、その目は全くと言っていい程笑っていなかった。


「――本当に困ったものだ。」


 その様子に深く嘆息するフェルナンドであった。

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